FSRI

【分科会第2回 -質疑応答-】

【第2回 FSRI 質疑応答】 「公邸料理人の利活用(飲食店の優秀な後継者の育成)」
令和2年度第2回分科会

講演 嘉納毅人 (Kanou) 菊正宗酒造会長
司会 青山明 (Akira) 未来投資研究所理事
総括 田中愛子 (Aiko) FSRI 代表
主催 青山アリア (Aria) 未来投資研究所理事

質疑応答 : 質問者の名前は頭文字で表記

 

質疑応答

司会者挨拶 (Akira)

どうもありがとうございました。一つコメントさせていただきたいのは、日本以外のいろんな国では、実は、世界各国の料理をみんなよく食べているんですね。日本はフランス料理やイタリア料理とか凄いポピュラーな様でいて、実は色んな国の料理を食べる機会っていうのは、ほとんどないです。これは多分島国であるということと同時に、アメリカでもヨーロッパでも、例えば日本料理を作る人は日本人、インド料理を作る人はインド人、ロシア料理はロシアの人が作ってるんですけど、日本は、フランス料理だろうがイタリア料理だろうが、日本人が作っている。ではメキシコ料理を作る人あるいは中近東の人たちの料理、彼らが料理人として、あるいはお店として成功するっていうのは非常に難しい。というようなことで、日本の人は外国のいろんなバラエティーに富んだ料理は、楽しむ機会がかなり少ないと思うんです。なので、料理、いろんな国の料理あるいは食が、いかに世界を理解する助けになるか、友好の助けになるか、ということが感覚的にわからないところがあると思うんです。それが裏を返せば、日本からの食を紹介する公邸料理人、そういう人たちへの理解というのはほとんどないということですね。よく考えてみると、こういう公邸料理人っていうのは、いわゆる食の大使で、日本の文化あるいは諸外国と日本の交流と言うものを、食べる、あるいは、料理ということを通じて、直感的に直接的に理解しあえるということを、押し進めている非常に大切な人たちです。で、その人たちの育成と、 他方では、伝統的な日本料理を担っている日本での日本料理店がどんどん潰れていく、こういう二つの現状と抱き合わせて、これをうまく利用しながら、食文化っていうものの発展に寄与できないかなっていうような提言だと思います。

Kanou
いい忘れましたけども、公邸料理人の成り手がなかなかないと言うことで、非常に困ってる訳でして。そこでですね、バンコックに日本料理教室があるんです。そこは、タイの日本料理店の板前さんがですね、もちろんタイ人ですけども、それが昼間は学校へ通って、あの夜はいわば復習ですから、料理店で板前をしている。で、それはですね、大阪の辻料理学校から講師がバンコックに派遣されていまして、大体100、200種類ぐらいですか、の和食の料理、ま、茶碗蒸しからですね、それを教えてもらうわけです。そういう人が、日本人の方があまり行きたがらないナイジェリアだとか、あるいはイラクだとか、チェンマイだとか、そういうとこへ、派遣されるわけですね。で、私はその大使館でタイ人の料理人さんの料理を見てたんですけども、一番大きな問題はですね、一つは、お刺身を切るのに、お刺身が下なんですね。お刺身を押し切りするんですね。これでは薄造りができないんですね。フグの薄造りなんかですね。まあそういったものが作れないのでして。もう一つですね、見てたら、お皿に盛り合わせるわけですけれども、それがあの平盛りなんですね。日本は、手前を低く、向こうを高くして、立体的に盛り付けをするんですけれど、それができない。子供のときから押切してますから、学校では刺身は引くんだと習っても、なかなかそうはいかない。そういうことで、やはり日本の国を守る親日家を作る大事な仕事をされている公邸料理人の、処遇よりも、帰ってきてからの処遇、それが大事だと。そうでないとタイの方が世界中の大使館の公邸料理人ですと、とても親日家は作れないと思います。

もう一つ面白いのは、喫茶店がありまして、珈琲店ですね、そこが廃業するので誰か代わりにやらないかと言うので、ある人がそれを引き受けたんですね。で、まあ一月ぐらいは、前の店主が色々と、コーヒーの焙煎の仕方やコーヒーの入れ方を教えてくれるんですけれども、ところが常連客の人が、これは私の好みじゃないとか、前の店主の方が美味しかったとか、そういう風に言われて、がっくりきてたら、お客さんが、私たちが教えてあげるよ。この意味はですね、いわゆる和食は、まあ他の料理もそうかもしれませんけど、お客さんが自分の好みを教える。だから常連とか意味があるんですね。自分の好みに合った料理が食べられるのは、やっぱり一見のお店ではなくて、常連にしてるお店が非常に美味しいわけです。そういう常連客の多い店がなくなると非常に困るのは、その珈琲店でもそうなんですけども、そのコーヒー店が廃業しますとね、その周りの中小企業の応接間がなくなるんですね。突然応接間がなくなる。私ども酒屋さんに行くとですね、応接間なんかありませんから、喫茶店へ行こうと。近くの喫茶店ですね。 そういう常連客が美味しい店をいかに継続するかということは、ある意味で地方振興にもなりますし、 そういうことも一つ是非お考えいただきたいと思います。

Aria
嘉納会長、ありがとうございました。非常に重要なお話を伺ったと思っております。
今回、公邸料理人というのが、文化外交において最も大きな武器、食、ですね、人間の根本にある食っていう武器を持って外交ができる重要な役割を持っていらっしゃると認識しました。日本の多くの人たちにも、この人たちの役割、その存在を知っていただきたい、と思っています。
そしてそれと同じように、和食和食って観光産業をはじめ日本の中でも盛んに取り上げられていますし、世界中のガストロノミーだったり、文化的なところからも、和食が注目を浴びているのにも関わらず、自分たちの食文化についてお話しできないという所から、伝える、このツールだったりノウハウを一つ身につけなければいけないと強く思いました。
そしてもう一つ、先ほど青山先生の方からもありましたように、世界を直感的に理解するにあたって非常に重要ないろんな国の食べ物に日本の中では触れる機会が少ないという所から、私が今回思ったことが、公邸料理人さんに我々がちゃんと学べるような機会をもっともっと持たないと、公邸料理人というのは、まあ政府の方で政策をちゃんと作っていかなきゃいけないっていうことが一つありますけど、一般的にももうちょっと知られることが重要なんじゃないかなと思いました。

Kanou
私もおっしゃることはそうだと思います。公邸料理人さんは、海外で、いろんな方に食事、和食を作って、それについてですね、直接なかなかお話されることは少ないけれど、よく有名なレストランへ行くと、シェフが挨拶に来ると。日本の場合に果たしてその公邸料理人が出てくるかどうか知りませんけど、しっかりぜひそれは、あの大使からもでしょうけども 公邸料理人さんから、和食についての色々な意見をですね、重要な外交事項だと思いますんで、そういう役割を公邸料理人さんにお願いすべきだと。折角、海外で3年間おられるわけで、その間に多くの現地の有力者の好みだとか、あるいは和食に対する評価だとか 、そういうものは、日本の国にとって重要な外交事項になると思いますね。

Aiko
実は、ニューヨークで10年、5番街で、高級料理店をしておりました。その関係でたくさんのパーティー、メトロポリタンガラディナーですか、あのガラオペラの時に、大使からご依頼がありまして、ホワイトタイのレセプション、公演の前にスポンサーだけが集まる、ホワイトタイのスペシャルギャザリングです、があって、そこでお寿司を出すとか。それからガラディナーですので、スポンサーの人ばっかり、メトロポリタンの回廊のところにテーブルを出しまして、ニューヨークのレストラン業界がお料理を出し、そしてその後、オーケストラがあって、ボールって舞踏会が始まって、その時にお寿司のカウンターを出すみたいなお仕事もさせていただき、たくさん料理人さんの、公邸、あそこは国連もありますので、国連の仕事もさせて頂きました。
で、一番の問題は何かというと教育です。CIA(The Culinary Institute Of America カリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ、アメリカ料理研究所)っていうアメリカ最大の料理学校がありまして、そこの学長ともお話しましたけれども、皆さんフードスタディーズを半分以上されています。日本の料理学校というのはテクニックだけを伝える。日本料理は美味しいんだっていう信奉のもとにやってるんですけれども、やっぱり世界の環境と世界の食のあり方をもっと勉強すべきです。でないと、それはなかなか難しい。
それから公邸料理人さんの場合、フランス料理があの当時、先程ありましたようにガストロノミーが非常に確立されておりますので、その食べ方が世界の食べ方になっているわけです。ですから、カクテルパーティーはどういうものであって、ディナーパーティーはどういうものであって、ランチタイムミーティングはどんなものであるか、という、パーティーの仕方っていうのも一つ。それから、サービスの仕方、それもあの非常に大きなテーマなんですね。皆さんは社交のために集まられて、食べるために集まってるわけじゃないんです。だからパーティーというのはおしゃべりするためなので、そこのルール、そこのマナー、それをしっかり日本の日本人の調理師さんも覚えるべきです。
私たちはそれを随分たくさんやってきましたので、そして日本料理をいかにフュージョンさせるか、外国の方の楽しめる料理方法で提案するか、というのもずいぶんトライしました。日本料理っていうのが、私はずっとフードスタディーズの中で申し上げてきましたけれども、日本料理というものの原点をしっかり作り上げることがまず基本ですよね。そしてそこの中で、世界にちゃんと伝えていく。私は、マレーシアのインディー大学では、旨みワークショップを自ら行ってやったり、世界各地で日本料理講座をしています。そしてまた今度、フードヒストリークッキングというのが今世界中で流行っていまして、フードヒストリークッキングで、またフードヒストリー、食の歴史で、この3月にも日本の食器の話とか日本の食はどう成り立ってきたかという話をします。で、こういうことを、日本の人がもっと、調理人の人が、勉強しないといけないのが一つです。
もう一つ、日本の食の人のサービスって、うちのレストランはニューヨークタイムズ二つ星をもらいましたけど、ずっとできなかったのがサービスです。このサービスっていうのは、フランス料理で確立されているものですから、サービスをする意味、というのを、もっと実体験しないと、パーティーが成り立たないんですね。で、これはいわゆるロイヤルファミリーに対して料理をさせますので、調理人さんっていうのはサーヴァントであるという意識が非常に強いので、イエスマダム、イエスサー、という言葉がすぐ出てくる。 何を言われてもちゃんと対応するそのホスピタリティが、日本のおもてなしはトイレの前で私はタオルを持っているのがおもてなしというものではないと思うんですね。このパーティーに関してのサービスはもっと勉強しないといけないんじゃないか。これフードスタディーズの範囲、範疇ですから、そういう学校がちゃんとあって皆さんお勉強されたら、どこへでもパーティー、だってパーティー出たことないもんっていう、日本ではパーティーありませんからね、だから突然言われてもビックリしますよね。
だからそういう勉強、それからケータリングの方法、いわゆる技術だけではない文化的なものを勉強することも大事です。それからカラードの国も、世界中100近くあります。アフリカ、アジアの中にもムスリムがたくさんお住まいですし、マレーシアは60%のムスリムですけれども、イスラム国と名乗っています。そこの食のルールも学ばないといけません。だからそういう文化的な教養がなくして料理だけでなれない、と。そこが私は料理人さんたちの一つ前へでない大きな原因だと思います。
だからこれは国を挙げてそういう料理人さんを育成しようと思いましたら、そういう施設で勉強することが必要かな。力は充分おありだし、素材もしっかりありますし、技術もあると思いますが、文化的な背景、それから食のあり方を、ぜひこの機会に作り上げて、若い料理人さん達に勇気を与えてですね、できるようにするといいのかなと思います。

Akira
公邸料理人が日本に帰られた後に、働く機会がないという点はどうでしょうか。

Aiko
あのうちの娘婿は、ミシュラン三ツ星レストランのニューヨークの総料理長で、たくさんのセレブリティシェフを知っていますが、みんな1匹狼なんで、あの無いというのは、公邸料理人になったから、それは料理人さんの仕事なんで、特別に扱うというのも、今やる人がないから特別に扱わないといけないのか、その後の補償もあるからっていうようなものでは私はないと思いますね。

Akira
非常に特殊な技術、あるいは、伝統文化、そういったものは、サポートがないと、どんどん廃れていくんですが、もちろん各自の努力が必要で、それは当然のことですけれども、それプラスサポートという点について教えていただければありがたいです。

Aiko
日本料理店、大阪の場合を言いますと、バブル期に大阪では料亭が軒を並べてました。今、もう1軒もありません。要するにこの日本の料理っていうのは町民文化の中で生まれて、町民のまあお金持ちが支えてきた文化なんです。だからあの日本にはソサエティというのはありませんので、これは東京と京都には残っているけど、地方では非常に難しい状態になっています。で、公邸料理人さんの場合も、仕事が無いっていうのは、今、日本の料理人に仕事がないです。もう本当に仕事がない。このコロナで本当に仕事がない。公邸料理人だけの問題じゃないですね。経済とそれから教養、食育をして、そして育てていくことが必要だと思います。皆さんの中にちゃんと経済的余裕がないと、高い料理屋には行けませんので、サポートっていうことになると、いくつのサポートもありますけど。まず両手を持たそうと思うと、お金持ちが必要と言うことになりますが、今リッチ層が世界中で増えてきています。世界のお金持ちが来て食べるということになってくるのかなと私は思っています。日本の経済力が無い限り、この贅沢な日本食というのは難しいなあと思いますね。これはあの辻芳樹さんも同じようにおっしゃっていました。日本の食文化を守るという意味において、料亭文化を守るのか、日本の食の民衆文化を守るのか。これは料亭文化だけの話ではないので、料亭文化だとまあそういうことになるんですけれども、まあまだまだ方法論はあると思いますが、今厳しい状態であることは間違いありません。

Kanou
大阪に料亭が無くなったということでですね、ちょっと、尼崎かどこかにね、大衆料亭というのがあったんですね。一人ですね、確か1万円ぐらいでね、あの芸妓さんがそういうお座敷芸をやったりですね、そういうのがありましたし、よく行ってたんですけどね。ところがそれが突然廃業しましてね、その建物全部壊しちゃったんですね。なぜかというと、相続の問題でね。本当にもったいないと思うんですね。先ほどと同じように、私はこういうのは国が買い上げると、まさに文化を維持するためにね。もう一つ問題になるのは、やはり和食の原点は郷土料理と言ってますけども、もう各地で郷土料理がどんどんどんどんなくなっていく。ですから、例えば兵庫県では、郷土料理と言えるのは、丹波篠山のぼたん鍋ぐらいでしてね、あとは、なんか農林省が全国の郷土料理100選というのをやった時に、例えば神戸ステーキとかね、これ素材ですから、料理じゃなくて。それからなんか明石焼ってのがあるんですね。これも料理とはいえないんですよね。だから日本の食文化を守る、そのためには各地の郷土料理をどうやって守るかと。私は一つはやっぱり鍋だと思うんですね。先ほど私は学校であの鍋をやらしまして、鍋やる時あの出汁が重要なんですけど、出汁は市販のものがたくさんありますから、それを1袋ずつ生徒さんに渡して、家で復習しなさいと。こういうことがやっぱりもっともっとするべきですね。

Aria
愛子先生そして嘉納会長ありがとうございました。愛子先生はフードスタディーズという素晴らしい観点をお持ちで、今後のFSRIの研究に生かして行きたいと思っております。
嘉納会長が持ってきて下さったような具体例は、非常に重要だと思っています。場合によっては別の分科会にして、一つの、限られた範囲で、問題を解決して行くことによって、さまざまなほかの課題に行きわたって、でも具体性を持っているから解決していける、っていうようなところあると思ってるんです、この公邸料理人。タッチしやすい範囲なので、これは、どんどんどんどんもっとヒアリングも行いながら、文章にして行きながら、場合によっては公邸料理人へのサーベイアンケートとかも行いながら、具体的に進めていきたいと思っております。FSRIの一つ重要な点というのは、前回愛子先生のお話にありましたように、アクティビストっていうところだと思うんですけど、こういう会議を行った後はいい勉強になったなっていうだけじゃなく、 一人ひとりがアクションされるようにして行きたいと思っておりますので、これがFSRIの一つのアクションです。

 

前回配信:分科会2回「講演」

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