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【分科会第2回 -講演-】 嘉納毅人氏 「公邸料理人の利活用」

第2回 フードスタディーズ分科会 「公邸料理人の利活用(飲食店の優秀な後継者の育成)」
令和2年度第2回分科会

公邸料理人とは、在外公館長(大使)の私的使用人で、公邸等において、相手国の要人や各国の外交官に和食を提供してもてなす為の公的会食業務に従事している料理人で「味の外交官」とも言われています。日本文化(料理)の発信(あわせて食に関する異文化理解)によって親日家を育成する重要な役割を担っています。
この公邸料理人の重要な役割を巡る課題等を通じて、美味しい和食の持続可能性を一緒に考えたいと思います。

日時: 令和3年2月25日(木)11時00分~12時00分

テーマ: 「公邸料理人の利活用(飲食店の優秀な後継者の育成)」

講演者: 嘉納毅人氏 (かのう たけと)

菊正宗酒造株式会社取締役会長

緒言
青山アリア(主催 未来投資研究所理事)

本日は、菊正宗酒造の嘉納会長からずっと政府の方にお話いただいている重要な提案がございます。それが公邸料理人という、まあ我々日常生活ではあまり耳にしない、ドラマになったり本で読んだりするような人物の公邸料理人についてです。この公邸料理人が大きな役割を持つんじゃないか、そして、今後の日本の食を世界に伝えていく、また世界の文化を理解して日本の中で伝えていく役割を持つんじゃないか、ということを、お話いただくことになります。嘉納様よろしくお願いいたします。

講演

嘉納でございます。
公邸料理ということが、私の提言ですけども、その前提にですね、実はわたくしどもは、料理教室をやってるんですね。しかも、社内に料理教室の設備がありまして。なぜ料理教室を作ったかというと、やはりお酒を飲むのにはつまみが大事でして、そのつまみはですね、やはり飲むかたが作るのが一番いいと。で、料理教室をやったんですけど、公共の設備を使ったらお酒一切出したらだめと言われましたんで、仕方なしに社内に設備を作りました。で、やはりですね、料理はまあ男性の人あまりやらないんですけど、私は是非やるべきだと思っています。

一つの問題提起は、中学とか高校で料理実習ですか、家庭科の実施は必須になってますけれども、せっかくですね、その料理を習っても復習しない。勉強ってのは復習して初めて身に付くわけでして。実は3つの学校で料理教室をやった後で、自宅で復習しなさい、それについて感想文書きなさい。 その感想文にですね、びっくりしたのは、お母さんが書くんですね。そんな欄はないんですけども、生徒さんが自分で料理をして、それで感想文書くのに、お母さんが。そのお母さんがですね、もう全部ほめてるんですね、ベタベタに。上手じゃないの、とかですね、またやってくれとか。中にはですね、お父さんが書いてきまして、それは女学校でやったからなんですけど、娘の手料理をこんなに早く食べられるとは思わなかった。まあ中学一年ですから、10年早く食べられた。そういう風に書いてきたぐらいですから、これは文科省に対する提言ですけども、ぜひ、家庭科の調理実習では復習を義務付けると。

それからですね、料理っていうことから言いますと、実は私の父は料理を作るんですね。ところが、おふくろはものすごう嫌がりましてね。なんでかというと、おふくろより親父が作る料理がおいしいですね。そりゃ嫌がるわけなんですけども。で、あのどういう料理が一番おいしいかということで、もちろん、ミシュランの三ツ星と言うような料理も美味しいですけど、本当においしいのはですね、お抱えコックなんですね。このお抱えコックがなぜおいしいかというと、やはりそのご主人の好みに合わせた料理を作ると。そういうことがありますから美味しいわけです。

もうひとつのまあ提言というかクレームですけれども、色んな結婚式だとか祝賀会の時に、10人ぐらいですね、丸テーブルで食事をするんですけれども。料理はウエーターの人がだいたい3人分ずつぐらい持ってくるんです。大体3回ぐらいに分けて持ってくるんです。で、もってきたやつをすぐ食べたらですね、なんと食い意地がはった、意地汚い人と、軽蔑されますから、最後のやつが出てくるまで待ってるんです。そうするとですね、一番偉い人はあの冷えた、 で、 一番そのテーブルの末席の人はですね、最後に出てきますから、温かい美味しい料理。ある時に ウエーターの人が温かいうちに食べてくださいというのに、誰も手を付けないんですね。で、私は隣の人に早く食べましょうって言っても全然無視されまして、私だけがガツガツ食べ出したら、みなさんが本当に軽蔑のまなこで、何といじましい人だと。そういうことがありました。ま、これはあくまで前置きの話でございまして、本題に移ります。

公邸料理人ってのは、赴任される先の国で、日本の素晴らしい食文化、それは何かというと、素材の良さをいかに引き立てるか。これは、日本人の非常に素晴らしい考え方で、相手の良さをいかに引き出せるか。和食も、素材の良さをいかに壊さないで、いかにうまく引き出すかと。それがひとつの和食の技術であるわけです。主として、出汁を使って味を引き立てると。ところが、別に洋食を悪く言うわけじゃないんですけど、洋食はですね、何に一番コックさんが神経を使うかというと、ソースなんですね。そのソースで料理の味付けをして、それで食べてもらうと。要はですね、一種の押し付けなわけですね。まあそういうような料理で、これが、やはり日本人の、相手の良さを引き出して、ほんとにひとつのおもてなしの心、こういう日本の良さというものによって、その国の有力者を熱烈な親日家に育てると、そういう本当に国家的に重要な責務を負っているわけです。

日本はですね、ご承知のように、食料自給率が38% 、3分の2が輸入なんですね。エネルギーは、自給率はたった6%。ですから、石油ショックの時には大変なことになったんですけども。 さらに日本は防衛能力に対して非常に厳しい制限があります。そういう意味で、日本はやはり親日家をたくさん育てないと日本の国を守れない。そう言うことで、公邸料理人さんは日本を守っている、そういう非常に重要な責務がある。ですから、輸入制限だとか、輸出制限ですかね、食糧の輸出制限だとか、ま、石油の輸出制限とか、そういう時があった時に、やはり多くの親日家がおられたら、それはちょっとひどいんじゃないのと言ってもらえるんじゃないかと、そういう風に思ってるわけです。

もうひとつ大事なのは、和食っていうのは、素材の味を引き立てるのは出汁ですけれども、和食の非常に繊細な味を引き立てるのは、国産の白いご飯なんです。いかに日本の白いご飯は和食の味を引き出せるか。一時期、20年くらい前に米パニックがあって、大量の輸入米が入ってきたんです。で、これがびっくりしたのは、ゴミ箱にその輸入米を捨ててるんですね。 カルフォルニア米っていうジャポニカタイプもありますけども、温かいうちはいいんですけど、ちょっと冷えるとやっぱり不味くなる。 日本でおにぎりブームがあった時に、おにぎり屋さんがアメリカに進出したんですよね。結局撤退しました。なぜかというと、おにぎりっていうのは冷えてるんですね。日本の米は冷えてても美味しい、カリフォルニア米の、ジャポニカタイプでも、お寿司ぐらいはいいんですけど、冷めたらもうまずいと。で、もう一つびっくりしたのは、日本のご飯はどこが大きく違うか。そういう輸入米をどうやって食べたらいいか、あるレストランに聞いたらですね、バターライスにして辛いカレーかけたら食べられる。確かにそれをやってみると食べられるんですけども、そこのレストランの上に和食のお店がありまして、そこからですね、今度国産米100パーセントのご飯を持ってきたんですね。でそれを食べてびっくりしたのは、辛いカレーをかけてですけどね、その白いご飯が空白の味、味がないんですね。だから国産米っていうのはですね、和食の非常に繊細な味を引き立てる大きな力なんですね。どんな美味しいおかずも味付けご飯で食べたら美味しくないんですね。漫画家の東海林さだおという人が、なんかあれが食べたいこれが食べたいと、週間朝日に載っていたんですけど。その中で、味付けご飯はですね、勝手に味付けされた悔しさ、そういうことが書いてありましたけども、まさに国産米というのは、和食の味を引き立てる重要な材料であるのです。ですから海外の在外公館は、日本から国産米を、現地の米の5倍、10倍すると思いますけど、それを輸入して、あるいは、現地でそういう米を扱っているところがあると聞いていますけども、外務省は、そういう白い国産米については充分予算をとっていただきたいと思うわけです。ただ心配していることは、そういう日本のご飯はですね、国産米のおいしさがわかりますと、海外からどんどん流出すると。そうしますとなんかまた米不足になるんじゃないかと心配するぐらいであるわけです。ですから現地の米では、上手な公邸料理人さんが作った料理の味も、なかなか充分評価されない、ええそういう風に思っています。

今まさに、私から見たら、公邸料理人が、日本の国を守っているわけです。そういう守っていることが、持続可能な開発目標ということになるんですけども。

ところがですね、大勢の親日家を育成してなんですけども、帰国して、3年苦労されて帰ってから、なかなかそれに報いる職がないと。これは非常に問題であると。昔は、言い方は悪いんですけども、外務省の偉い方が、外国から来た大臣だとか、あるいは、日本に駐在する大使を料亭にお呼びして、食事を出して、いかに親日家に育てるかということをやるんですけども。そのときに、若いまあ鞄持ちが、ついてきまして。そういう人は、勿論台所で見てるだけなんですけど、そのときにですね、若い板前さんと仲良くなりましてね、自分は10年か15年したらどっかの大使になるから、その時は頼むよと。そういう風に声かけるんですね。あるいはそこの料亭の経営者の方に、いずれ10年か15年先に大使として出るから、その時には腕のいい板前さんまわしてよ。そういう風に頼んでいるとですね、大使に辞令が出ましたら、そこから腕のいい板前さんを連れてくる。ところが、今は世間の、誤った非難でですね、料亭でやるのは怪しからんという人がいるらしくて、仕方なく、ホテルでやるんですね。ホテルですと、そういう会議やってんのか、ごちそうしてんのかわからないってこともあるんですけども、そういう料理人を連れて行くのに、ホテルの直営の和食というのは少ないですね。みんなテナントとして入っている。ホテルが直営しているのは洋食なんですね。ですから私も、多くの公邸料理人の方を存じ上げていますけれども、やっぱり洋食のコックさんが、公邸料理人として大使についていると。これはですね、まあ日本はこれができると思うんですけども、非常に日本の国にとったらもったいない。親日家を作らなきゃいけないのに、ホテルの洋食のコックさん。中にはケーキ職人さんを連れてくると。そういうことがまあ起こってるわけです。

で、もうひとつは、昔は公邸料理人になりますと、それは一つの箔付になったんですけども、なかなかそういうのにならないし、あるいは仮に料理屋さんから3年間行きますと、自分の弟弟子が兄弟子になっちゃうと。3年間の空白は、なかなか評価されない。

そういう非常にしんどい仕事、素材が日本と違うわけですね。魚はそんなに違わないんですけど、野菜だとか、もちろん水も違いますし、そういうものの予算をいかに引き出せるかというのは非常にこれ難しい。で、また外国の方の好みも違いますし、また言葉もわからない。 そういう大変な苦労をされて帰ってきたんですけども、その経験がなかなか十分に出される職場がないと。

で、私は、そのミシュランの三ツ星レストランというのは何かというのは、ミシュランの本に書いてあるんですけども、わざわざ旅行をしてまで食べに行く美味しい料理、ま、そういう様に言われているわけです。しかし、そうやって来日した方が食べに行っても、言葉が通じないと。これでは、せっかくの美味しい料理が、特に和食の一つの自慢話というか、それは素材、食材の自慢ですね。この鯛は明石のとこで採れた鯛で、不漁だったけども、無理矢理買ってきた、とかですね、この大根がどうだとかですね。そういうその素材の自慢をする。それは最初に申し上げたように、和食はやっぱり素材の良さをいかに活かすか、ですからいい素材を仕入れることが非常に大事なんです。ところが西洋のコックさんはですね、フランスのどこそこで修行したとか、コックを自慢するんですね。もちろん日本でも、この板前さんは、どこどこの料亭の花板だった、とか、そういうこともありますけど、しかし、やっぱり大事なのは、素材の良さを活かすと。そういう意味で、そういう話をなしで、せっかく美味しい和食を食べたい、そうおっしゃるのに十分、よく味わってもらえない。あるいは、その料理の説明ももちろんそうですけども、その国のね、いわゆる味の好みもやっぱり3年間でそれを覚えたわけなんですけど、それも生かさないといけない。 で、もっと大事なのは、赴任国の素材を苦労して美味しく、その良さを引き立ててきたわけですから、そういうのをですね、話題にするのも、やはり来日した客にとったら、すごい魅力である。そういう意味で、公邸料理人が帰国した時には、やはり、国として大いに活用すべきだ。

もう一つの問題は、日本で美味しい常連客の多いお店が、経営者が高齢化して、どんどん廃業するんですね。私は非常に心配しているのは、このコロナでですね、これを機会に店をやめるという方も非常に多くて、常連客から見たら、本当に地獄のようなもんで、せっかく美味しい料理屋がですね、それがなくなると。そういうことでですね、 そういうやめる美味しいお店はね、やっぱり国が強制収用をさせる。それぐらいのことは当然やるべきだ。それからまたそれを国が買い上げて、強制収用で買い上げて、そして、帰ってきた公邸料理人さんにその経営を任せると。そういうことが、さらに来日客を 強烈な親日家にして、それが、日本の守護人であるわけですから。そういう意味で、公邸料理人さんの処遇というものを、外務省とか、あるいは外務省の方がぜひ考えていただきたいと思うわけです。それからさらにですね、そういうおいしい料理を食べますとね、中には、帰らないと。その後永住しちゃうと。ほかの国から、これは拉致事件じゃないかといわれるぐらいですね、公邸料理人さんが、来日客の舌を甘美にさせて、そして熱烈な親日家になっていただくと言うことをぜひ実現をしていただきたいと思うわけでございます。

 

次回配信:分科会第2回「質疑応答」に続く

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