2015年に193カ国の国連加盟国全ての賛同によって議決された国際協定である「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」には、解決すべき現在の世界の主要な諸問題をカバーしているSDGs(持続可能な開発目標)が、不可分で一体のものであると述べられています。
このSDGsの一体性は、SDGsが提示された「2030アジェンダ」で繰り返し強調され、SDGsの最も大切な考えの一つです。
では、これは具体的にどういう意味でしょうか?
これには、次のお互いに関連し合う二つの意味があるように思われます。
(1)SDGsの17の目標全てが達成される時にのみ、持続可能な社会が達成される。その目標のどれか一つでも達成されていない場合には、社会の持続可能性は実現されない。
(2)SDGsの17の目標はお互いに密接に関連し、影響を与え合う。
(1)によると、実際の事業において持続可能性を目指すには、SDGsの17の全ての目標全部が達成されるように、事業を企画運営するのが大切であることがわかります。
しかし、そのようなことは、実際には非現実的で無理だと考えるのが普通でしょう。それゆえ、一般には、各事業においては、その事業に適したSDGsのいくつかの目標達成を目指すことになります。そして、そのような数多くの事業の試みの総体として、あるいは、一つの事業においては、時間をかけて継時的に、SDGsの全ての目標がカバーされることによって、SDGsが達成される、と期待されます。パートナーシップ(目標17)が必要とされている所以でもあります。
ところが、(2)を考えてみると、一つの事業における個別的なSDGsの目標達成が他の目標達成に良い影響を与える場合もあれば、逆に悪く働く場合もあります。そのような17の目標間の複雑な関わりによって、上に述べたようなSDGsの個別的な達成を通しては、SDGsの実現が不可能になってしまう恐れが大いにあります。
そのような例は枚挙にいとまがありませんが、環境破壊に対する諸対策の例を挙げてみます。必要なエネルギーを得るために、クリーンな自然エネルギーとして太陽光発電を推進するのに、山を切り拓き、野を占領して、大量の太陽パネルを設置するという事業は、膨大な自然破壊と生態系破壊を招いてしまい、その結果、SDGsに含まれている他の様々な問題が影響を受け、かえって、貧困、飢餓、健康問題、経済問題、不平等や街の荒廃などの問題を生み出したりします。SDGs達成どころが、その後退を招いてしまいます。
このように、SDGsの諸目的を、他から切り離して個別的に遂行することは、逆に、SDGs達成を阻害してしまう恐れがあります。このことは、現在、日本をはじめ世界中でSDGs達成の進捗が著しく減速している大きな理由の一つです。
そこで、SDGsの17の目標は全て不可分で一体化しているという「2030アジェンダ」の考え方の意味を再考してみましょう。
この「2030アジェンダ」の考え方を素直に受け取ると、私たちがある事業を行うとき、その事業が持続可能な事業、あるいは持続可能な社会を達成する事業であるためには、互いに分離することのできない一体化した一つのものであるSDGsの17の目標の全てに同時に取り組むことが最善である、ということになるのではないでしょうか。
そのためには、SDGsの17の目標全ての間の関連(上記意味(2))を考慮することによって、それぞれの目標を企画し実行する必要があるかもしれません。しかし、それを事前に網羅的に考慮し実行することは現実的ではなく、AIをもってしても不可能と思われます。(事業規模、経営的、経済的、その他様々な事情を考慮すると、結局、どれか実行可能な一つ、あるいは複数個の目標にまず取り組むという選択が一般的に取られることになるというのが、前段での議論でした。)
ところがこのあらかじめ網羅できない、というところに、自分達の事業に見合った17の全ての目標の内容を考え、企画を立て、それを実行するという、非常に創造的で楽しい取り組みが生まれる土壌があります。必要なのは、SDGsの全目標を実行するという意志だけです。その意志のもと、論理的にアプローチできない問題に、感覚や経験や思いつきなどによって直感的にアプローチすることです。
では、このSDGsの全目標を実行するという全体的で一体的な取り組みが、なぜ楽しい、創造的な取り組みになるのでしょうか?そのキーは、「SDGsの17の全ての目標」というところにあります。先に述べたように、これらの17の目標は、現在私たちが抱えている全世界的な問題をできる限り網羅しており、その全てが達成される時、私たちが望む持続可能な素敵な社会が実現すると思われるからです。そしてその思いが事業に携わる人たちに共有されるからです。
自分達の事業で、全ての目標に自分たちなりの企画をたて実行することは、そのような社会の実現を、スモールスケールかもしれないが、今ここで、達成する、できる、というイメージを抱かせてくれます。そのような場合、その事業に携わる人たちは、心から喜んでSDGs全目標に取り組むであろうことは、容易に想像ができ、実際に目の当たりにすることもできます。
こう考えると、例えば、環境問題に取組むことと経済発展をめざすことを対立させて、その困難性に苦しむといった余地はなくなります。そもそも、環境問題に個別的に取り組むということや、経済発展を個別的に推進するということが、最初から除外されるからです。
例えば、地域振興のための、その地域内の一部を大規模ショッピングモールに変身させる開発事業といった取組は、SDGsの一体性の観点からは、最初から除外されることです。それに代わり、その地域におけるSDGsの17の目標全てに沿った今ある問題への創造的な取組がなされるのが、持続可能な事業であるからです。そこには、当然、貧困や人権や少子化や環境破壊、経済発展、ジェンダー、教育、等々が密接に絡んでいることがわかります。そして、それらが問題をややこしくするというネガティブな見方から脱して、その複雑な関係性こそが、創造的な問題への取り組みの産みの親であることを実体験として認識するとき、新しい創造的な事業の取り組みがいくつも生まれてくるに違いありません。
さらには、それを実現するには、希望の大きさとは逆に、さまざまなスケールを持つ小さな事業が非常に適していることが注目されるべきです。そのスケールの小ささにこそ、アイデアと創造性の源泉があるからで、様々な例が証明していることです。
以上をまとめると、SDGsの17の目標は全て不可分で一体のものであるという「2030アジェンダ」の考え方の意味は、私たちが一つの事業を行うとき、それが持続可能であるためには、その事業に即してSDGsの全ての目標に同時に取り組み、実行することが最良の策である、ということではないでしょうか。
この考えは、持続可能な事業を行うに際しては、それぞれ、SDGsの17の目標のうちできることをやれば良いという、普通に考え、実行されていることとはかけ離れたもので、実行が難しいものだと思われるかもしれません。
しかし、この従来の考え方の、SDGsの全目標のうち出来る目標を個別的にやる、というかわりに、SDGsの全目標において、それぞれ出来ることを同時にやる、という、SDGsの一体性に基づく考え方にかえることは、そんなに難しいことではありません。
それどころか、この考え方が、SDGsのそれぞれの目標を創意工夫して実行することによって、実際は実現可能であり、それが成功裡に実行された場合は、予想通り、その事業が携わる地域社会に、ローカルではあるが、目を見張るような結果を、今現在そこに生み出すことができると信じる根拠があります。
その一例として、当ポータルで連載中の国際バレーボール・ネーションズ・リーグの日本大会であるVNL2024福岡大会があります。VNL2024福岡大会ではSDGsの全ての目標がカバーされていて、人々が嬉々として携わり、独創的なアイデアを生み出し、楽しく創造的な国際スポーツ大会を実現し、開催地の小倉市にスモールスケールではあるが持続可能な社会が目の前で展開された様子は、本ポータルの「VNL2024福岡大会の意義」に詳しく掲載されています。
SDGsを分割不可で一体のものとして、愚直に実行する事業の結果生じる、ローカルな持続可能な社会の、今すぐここでの実現が、日本全国で、そして世界中で、市民を中心に広がっていくことは、世界的にSDGsを確実に達成する強力な方法の一つであると考えられます。
さらに考えてみると、SDGsの全ての目標を同時に達成するように行動することは、個人の日々の生活でも楽しく、創造的に実行可能であることがわかります。それは、その個人や家族の生活を充実させ、引いては持続可能な地域社会を、今すぐそこに実現することも可能であるとの希望を抱かせてくれます。
あおやま あきら