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【トレンド・ウォッチ】AIを誰が管理するのかー世界で始まったAIガバナンスと人間への問い

2026年5月から7月にかけて、人工知能(AI)をめぐる世界の動きが大きく加速しています。AIの急速な発展を前に、「その恩恵をどう生かし、リスクをどう管理するのか」という議論が、国際社会で新たな段階に入りました。

 

 

 

まず、5月25日、ローマ教皇レオ14世は初の回勅『Magnifica Humanitas(壮大なる人類)』を発表しました【参照1】。

教皇は、AIが人間を危険な作業や反復作業から解放し、知的活動その他を支援する可能性を評価する一方で、人間の尊厳や、真実、労働、自由、そして平和を損なう方向へ技術が利用されることに強い危機感を示しました。特に、自律型致死兵器や偽情報の拡散について、人間が最終的な責任を放棄してはならないと警鐘を鳴らしています。

これに対し、7月4日には、AI分野への積極投資で知られる著名な実業家ピーター・ティール氏が、AI規制は米中間の技術競争で米国を不利にするだけだとして、教皇を厳しく批判しました【参照2】。

さらに7月6日には、国連がスイス・ジュネーブで、AI管理をテーマとする初の政府間国際会合を開催しました【参照3】。

アントニオ・グテレス国連事務総長は、「AIは暴走するような速度で進歩しており、それを開発している人々を含め、誰も追いつけないほどの速さで導入されている。計画もなく、同意もないまま、私たちの社会そのものを対象に実験が行われている。それは持続可能ではなく、受け入れられるものでもない。」と警告し、「イノベーションにはガードレール(安全策)が必要であり、AIが強力な存在となるのであれば、適切に統治・管理されなければならない。」と各国に訴えました。

会合では、AIがもたらす機会と課題、AI格差の解消、安全で信頼できるAI、人権の尊重などを柱として、国際的なルールづくりに向けた議論が始まりました。

 

また同じ7月、国連専門機関である世界知的所有権機関(WIPO)も、生成AIによる著作権侵害への対応を強化する方針を発表しました【参照4】。AI開発企業や音楽・出版業界、報道機関など約100人の専門家が参加し、電子透かしなどの技術を活用した新たな仕組みづくりが進められています。

このように、AIをめぐる議論は、安全保障、知的財産、人権、教育、産業など幅広い分野へ急速に広がっています。AI技術そのものを否定するのではなく、その恩恵を人類全体が公平かつ安全に享受するための国際的なルールづくりが、本格的に始まったと言えるでしょう。AIガバナンスは、SDGsが目指す「誰一人取り残さない」持続可能で包摂的な社会を支える、新たな国際的課題として位置付けられ始めています。

 

トレンド

今回の一連の動きで注目されるのは、それぞれが独立した出来事ではなく、一つの大きな流れとしてつながっていることです。

5月の教皇レオ14世による回勅は、AI時代における人間の尊厳と責任という根源的な問題を提起しました。それに対し、7月にはAI開発を積極的に推進する立場からの反論が現れ、さらに同時的に国連では初めて政府レベルでAIガバナンスが本格的に議論され、WIPOではAIに関する知的財産制度の整備が進められています。

「教皇による問題提起」から「社会的・政治的反応」、そして「国際制度づくり」へと議論が展開していることは、AIをめぐる世界的議論が新しい段階へ入りつつあることを示していると言えるでしょう。

 

ポータルから一言

今回の国連会合は、AIの安全性や人権、知的財産などについて国際社会が本格的な議論を開始したという意味で、極めて重要な第一歩です。

しかし、私たちはもう一つ、より根源的な問いにも目を向ける必要があると考えます。

レオ14世教皇は回勅『Magnifica Humanitas(壮大なる人類)』において、AIをはじめとする現代科学技術が、人間の尊厳や人間らしさそのものを、ごく一部のAI事業者やテクノクラートの判断によって大きく左右し得る時代に入りつつあることへ強い危機感を表明しました。そして、その状況を、人間が神の領域にまで達しようとした「バベルの塔」の物語になぞらえています。

この比喩は、単なる技術批判ではありません。それは、「人間とは何か」「人間は何のために技術を生み出すのか」という、人間の実存そのものを問い直す呼びかけです。

現在、国連をはじめとする国際社会では、AIの安全性や制度設計といった制度論についての議論が始まりつつあります。しかし、人間の存在そのものをどのように捉えるのかという根源的な人間論については、まだ十分な議論が始まったとは言い難いように思われます。

制度論は始まりました。しかし、人間論は、ようやくその入口に立ったばかりです。AI時代に本当に求められるのは、技術をどう管理するかだけではなく、人間とは何か、人間らしさとは何かという問いを、世界全体で改めて考え直すことではないでしょうか。

 

【参照1】

Vatican News(日本語)

レオ14世回勅『Magnifica Humanitas』バチカン公式(英語)

 

【参照2】

Forbes JAPAN
「ピーター・ティールが教皇レオ14世を攻撃、『中国の共産主義者のために働いている』」
https://forbesjapan.com/articles/detail/100255

 

 

【参照3】

2026年7月6~7日、スイス・ジュネーブで開催された「Global Dialogue on AI Governance(AIガバナンスに関するグローバル対話)」は、2024年の国連未来サミットで採択された「Global Digital Compact」および国連総会決議 A/RES/79/325 に基づき開催された、AIガバナンスに関する初の恒久的な国際対話です。この会議は、AIを直接規制するための会議ではなく、AIについて国際社会が継続的に議論する制度を創設する第一回会合として位置付けられています。会議では、AIの安全性、人権、国際協力、能力格差、自律型致死兵器、子どもの保護など、人類社会に直結する課題について各国政府や国際機関、専門家が幅広く議論を行い、AI時代の国際的なルール形成に向けた本格的な取り組みが開始されました。

 

United Nations, Global Dialogue on AI Governance
https://www.un.org/global-dialogue-ai-governance/en

 

United Nations, Inaugural Global Dialogue on AI Governance convenes in Geneva
https://www.un.org/en/delegate-delegate-gva-delegate-nyc/inaugural-global-dialogue-ai-governance-convenes-geneva

 

【参照4】
世界知的所有権機関(WIPO)は、2026年7月7~15日にスイス・ジュネーブで開催された加盟国総会において、生成AIと知的財産をめぐる課題への対応を重点施策として報告しました。ダレン・タンWIPO事務局長は、AI開発企業、権利者、研究機関などが参加する「Artificial Intelligence Infrastructure Interchange(AIII)」の取り組みを紹介し、電子透かしやメタデータなどの技術を活用した著作権保護の仕組みづくりを進めるとともに、その成果を2026年11月開催予定の「Global Forum on AI and IP」で加盟国に報告する方針を明らかにしました。

 

WIPO, Report of the Director General to the Assemblies of WIPO (7–15 July 2026)

https://www.wipo.int/en/web/director-general/w/daren-tang/speeches/2026/report-of-the-director-general-to-the-assemblies-of-wipo-july-7-to-15-2026?utm_source=chatgpt.com

 

WIPO, Artificial Intelligence Infrastructure Interchange (AIII)(公式ページ)
https://www.wipo.int/en/web/ai-infrastructure-interchange

 

WIPO AIII 発足プレスリリース

https://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2026/article_0005.html?utm_source=chatgpt.com

 

※本記事は、時事通信、ロイター、読売新聞オンライン、Forbes JAPANなどの報道も参考に執筆しました。

 

 

 

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