徳島県には、1,500席を超える音楽ホールが存在しない。このため、例えば「全日本吹奏楽コンクール徳島県大会」を県内で開催できず、やむなく隣県で実施するなどの問題を抱える。

徳島県庁
徳島県民にとって本格的なホールの建設は長年の悲願であった。
こうした中、飯泉前知事のもとで県立ホールの建設計画が具体的に動き出した。
ところが、飯泉氏を破って知事に就任した後藤田氏がその計画を止めたのだ。
後藤田氏は選挙戦で「2000席・200億円のホールは高すぎる」「工事費を半分に抑え、アリーナや室内50mプールをつくる」と訴え、当選を果たしたのである。
後藤田氏は知事就任後、従来案の実施設計が完了しあとは工事を開始するだけという段階になっていたにもかかわらず、「従来案は高額で時間もかかる」として従来案を中止し、新たな案を検討する方針を示した。
知事就任後2023年7月に後藤田氏は従来案を検証し、完成時期を2027年9月とした。その後、自らが目指す新案については、「2027年5月までに着工し、2030年2月までに完成」というスケジュールを示し「早期整備案」だと強調した。だが、従来案よりも完成が遅れることは明らかであった。
「早くつくる」という公約が実現できないと見るや、後藤田氏は「安くつくる」へと論点を移した。しかし、県庁内で検討された新案は「1,500席で約193億円(徳島市への基金20億円を含む)」と、2,100席で約197億円(実施済みの設計費等を除いた金額)の従来案と大差がなかった。
むしろ座席単価は4割近く高く、結果として新案は「費用半減・早期整備」でなく「費用増大・整備遅延」となったのである。
2025年3月の徳島新聞のアンケートでは、僅差ながらも従来案のほうが支持を集めており、県民の疑問や不信感は根強く残っている。
このような状況にもかかわらず、同年5月に新案についての公募が開始された。しかし、設計・工事業者からの応募はゼロ。完成どころか事業開始のめどすら立たない状況に陥ったのである。これを受け、増額しての再公募を視野に入れてか、後藤田知事は記者会見で「従来案なら400億円近いお金がかかるはず」と述べたが、この発言には具体的な根拠が示されなかった。
従来案については設計も完了しすぐにでも工事に着手できる状態にあった。しかも、受注している建設業者との協定は今も継続中である。
それにもかかわらず、知事は新案を公募にかけるという道義的に疑問の残る対応をとった。このことが発注者としての徳島県への不信感を生み、新案への業者の応募ゼロにつながった可能性も否定できない。
工事着手の直前にまできていた従来案を中止し、より高額で事業開始のめどすら立たない新案を推し進める後藤田氏の姿勢に、県民からは「前知事の計画を否定したいだけではないか」との声も上がる。
にもかかわらず、後藤田氏からは納得のいく説明はいまだ示されていない。
(参考)
徳島文化芸術ホール(仮称)実施設計の概要について
https://www.pref.tokushima.lg.jp/ippannokata/kyoiku/bunka/7240047/