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ビルも駅も「貼るだけで発電所」に―日本が世界をリードする『ペロブスカイト太陽電池』が描く新市場

東京・内幸町の再開発ビル、神戸空港の外壁、JR九州・博多駅のホーム屋根——。いま日本各地で、薄いフィルムを「貼るだけ」で発電する太陽電池の実証実験が相次いでいます。 「ペロブスカイト太陽電池」。聞き慣れない名前ですが、エネルギーの世界では今、この技術が持つポテンシャルが熱狂的な注目を集めています。そして重要なのは、これが日本発の技術だという事実です。

 

画像はイメージです。

 

 

01|「曲がる太陽電池」はここが違う

従来のシリコン系太陽電池は、厚みがあって重く、平らで広い設置面積が必要です。屋根や地面への設置を前提とした設計のため、都市部の建物や複雑な形状の構造物には馴染みにくい側面がありました。

ペロブスカイト太陽電池はその弱点を根本から覆します。厚さはシリコン系の約100分の1、重さは約25分の1。しかも自在に曲げることができ、フィルム状にして表面に貼り付けられます。摩天楼のガラス張りの壁面、工場の湾曲した屋根、駅のホームの天井——これまで太陽光発電が届かなかった「都市の空白地帯」すべてが、潜在的な発電所になりうる。そのインパクトは、一言で言えば「太陽電池の設置革命」です。

さらに、薄膜状に材料を塗布・印刷して製造できるため、製造コストを大幅に下げられる可能性も秘めています。調査会社の富士経済は、ペロブスカイト太陽電池の世界市場が2040年には約3兆9,480億円規模(2024年比で約67倍)に達すると予測しています。

 

02|この技術は、日本の研究室から生まれた

ペロブスカイト太陽電池の発明者は、桐蔭横浜大学の宮坂力(みやさか つとむ)特任教授です。富士写真フイルム(現・富士フイルム)で約20年にわたり光電変換技術の研究に携わった後、大学に転身した宮坂教授が、2009年に世界初の論文をアメリカ化学会の論文誌に発表したことが、この研究分野の原点です。 その後、わずか10数年で変換効率は結晶シリコン型に匹敵する水準まで向上し、世界中で4万〜5万人の研究者が追随する巨大な研究分野へと成長しました。

宮坂教授は毎年のようにノーベル賞候補として名前が挙がり、2025年には国際的な権威ある賞「NIMS Award」をオックスフォード大学・成均館大学の研究者2名とともに受賞しています。 「日本発の発明」が、世界のエネルギーの未来を変えようとしているのです。

 

03|産業界が動き出した。主な日本企業の取り組み

基礎研究の段階をとうに超え、日本の産業界では実用化・商用化へ向けた動きが加速しています。

積水化学工業は、グループ会社の積水ソーラーフィルム(SSF)を通じて、フィルム型ペロブスカイト太陽電池「SOLAFIL(ソラフィル)」の事業を2026年3月に正式スタートさせました。「ロール・ツー・ロール」と呼ばれる印刷製造技術による連続生産体制を確立しており、まずは30cm幅製品から供給を開始し、順次1m幅製品への移行を目指します。堺市に2027年4月の量産ライン稼働を目標とする新工場を建設中で、2030年度に1GW(ギガワット)級の生産体制を構築し、コストをシリコン太陽電池並みに引き下げる計画を掲げています。

パナソニックHDは、ガラス基板型に注力し、住宅の窓ガラスと一体化する「建材一体型太陽電池(BIPV)」市場をターゲットに据え、大面積モジュールで世界最高水準の変換効率の達成を重ねてきました。2026年度中の試験販売を目指し、量産技術の開発と実証実験を進めています。

エネコートテクノロジーズ(京都大学発スタートアップ)は、JR九州・日揮との3社連携で博多駅第2ホーム屋根への実証実験を2025年10月に開始するなど、駅・公共施設への社会実装で存在感を示しています。

トヨタ自動車とは車載向けパネルの共同開発、日揮・KDDIとは建物や基地局への設置実証と、大手各社との個別連携を積み重ねながら量産体制の確立を急いでいます。 カネカは、高効率の「タンデム型」(ペロブスカイト+シリコンの組み合わせ)と建材一体型を重点分野に据え、耐久性向上の研究開発を加速させています。

 

04|日本が握る「もう一つの切り札」—ヨウ素という資源

太陽電池というと、シリコンやリチウムなど「輸入に頼る素材」のイメージが強いかもしれません。しかしペロブスカイト太陽電池には、日本が世界的な優位性を持つ主原料があります。それが「ヨウ素」です。

ヨウ素は、ペロブスカイト太陽電池の発電層に欠かせない元素です。日本の生産量は年間約1万トン。チリ(世界シェア約6割)に次ぐ世界第2位で、シェアは約30%に上ります。さらに埋蔵量では日本が世界トップとされており、その8割が千葉県の南関東ガス田から産出されます。

国内の主要ヨウ素メーカーとしては、伊勢化学工業(世界シェア約15%)、合同資源(同約7%)、K&Oヨウ素(同約5%)などが挙げられます。現在、ヨウ素の約8割は原料のまま輸出されていますが、ペロブスカイト太陽電池の国産化が進めば、高付加価値な加工品として国内産業に貢献する新たなバリューチェーンが生まれます。

EVの普及でリチウムやコバルトの輸入依存が課題となったのとは対照的に、ペロブスカイト太陽電池は日本がサプライチェーンの上流から握れる、数少ないエネルギー技術です。経済安全保障の観点からも、国策として進めるべき技術として政府も強力に後押ししています。

 

05|SDGsとの深い接点

ペロブスカイト太陽電池の普及は、SDGsが掲げる目標とも深く結びついています。

目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」 設置場所の制約を大幅に緩和することで、ビル・駅・工場・農地など多様な場所でのクリーンな発電が可能になります。太陽光エネルギーが「一部の限られた場所から、すべての人の身近なものへ」と広がる変革です。

目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」 日本発の発明が、世界のエネルギー産業の構造を変えるイノベーションとして育ちつつあります。素材・製造・施工・リサイクルまで、国内に完結したバリューチェーンの構築が期待されます。

目標13「気候変動に具体的な対策を」 都市部の「設置困難地帯」に再生可能エネルギーを普及させることで、化石燃料からの脱却を加速させます。建物の壁面・窓ガラスが発電所になる未来は、温室効果ガスの大幅削減に直結します。

 

06|課題と現実——「夢の電池」の今地点

もちろん、すべてが順風満帆というわけではありません。現時点での最大の課題は「耐久性」です。屋外環境での20年以上の長期安定性については、まだシリコン系に一歩譲る部分があり、さらなる材料開発が求められています。

また、主要材料のひとつである鉛の使用についても、環境・安全面から代替材料の研究が世界中で進められています。 それでも、日本政府が策定した「次世代型太陽電池戦略」では2040年までに20GWの普及目標を掲げ、製造コストを2030年までにシリコン系と同等水準に引き下げる計画も明記されています。

SMR(小型モジュール炉)が「原子力の地続きの進化」であるように、ペロブスカイト太陽電池は「フィルム製造・素材化学・光電変換技術」という、日本が長年積み上げてきた技術の延長線上にあります。「貼るだけで発電所」という一見SF的な未来が、日本の研究室と工場から、現実のものとして形になりつつあります。

 

※本記事は技術・産業トレンドの解説を目的としており、特定銘柄への投資を推奨するものではありません。

 

 

参考・引用

資源エネルギー庁「日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)」

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/perovskite_solar_cell_01.html

 

経済産業省「次世代型太陽電池に関する国内外の動向等について」

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/green_power/pdf/010_04_00.pdf

 

経済産業省「次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会」資料

https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/009_00_03.pdf

 

積水化学工業「フィルム型ペロブスカイト太陽電池『SOLAFIL』事業開始のお知らせ」

https://www.sekisui.co.jp/news/2026/1450530_42699.html

 

日刊工業新聞ニュースイッチ「世界シェア3割の主原料『ヨウ素』…ペロブスカイト太陽電池で生かすために必要なこと」

https://newswitch.jp/p/41489

 

富士経済グループ「ペロブスカイト太陽電池の世界市場を調査」

https://www.fuji-keizai.co.jp/press/detail.html?cid=25071&view_type=2&la=ja

 

 

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