FSRI

【分科会第3回 -質疑応答-】

【第3回 FSRI 質疑応答】「十和田に根付くジビエの精神」
令和3年度第1回分科会

講師 関川明 (Sekikawa) (一社)ドローンイノベーションネットワーク会長
++++北里大学獣医学部狩猟学講師、青森県猟友会十和田支部会長
講師 川村徹 (Kawamura) 十和田奥入瀬観光機構ゼネラルプロデューサー
総括 田中愛子 (Aiko) FSRI (フードスタディーズ研究会)代表
司会 青山明 (Akira) 未来投資研究所理事
主催 青山アリア (Aria) 未来投資研究所理事
質疑応答時のゲスト 山本佳誌枝(Yamamoto)公益財団法人山本能楽堂事務局長

 

  • ジビエの流通
  • 食と文化の結びつき
  • 能の中に見られる狩猟文化
  • ハンターの後継者
  • ジビエと観光と地方創生
  • Summary

 

質疑応答

Akira
では、ディスカッションに移りたいと思います。

ジビエの流通

Aiko
この問題、畜産で育つ牛がすごく水を飲むとか、餌を人間の何十倍も食べるとか、それから地下水をどんどん上げていくので、土地に水がなくなったとか、いろんな弊害が起きています。で、ジビエというのも、十和田で佐々木ファームっていうのがありまして、畜産されているところをいくつか回りました。そしたらそこのお父さんが、あのねって、まあヨーロッパでジビエっていうのは貴族が食べるじゃないですか。だから、貴族のために作るから、料理が非常に豊かで、その料理法もすごく凝ったものにしていくんですけど、十和田の方では、ジビエは家庭での料理で、食べるものが冬場は本当に枯渇するから必要に迫られて動物を食べるというので、その料理があまり成熟しなかったっていうのが一番大きいかなっておっしゃったの。私もその通りだと思うので、ジビエを食べるにはもう少し料理法を考えていくべきかなと思ってるんです。それと食肉工場がないと流通しないんですよね。今ジビエの流通はどうですか?

Sekikawa
流通はですね、一番進んでるのは北海道なんですけど、ジビエ、自然の獣を獲った時に、まあ30分以内にジビエカーという車が行って、それで食肉にして出すっていうのが確立してるんですが、後の地域はですね、そういう所まで行ってないと。畜産の屠殺場では受け入れしません。

Aiko
だからその流通ができないっていうのは大きな一つのネックですよね。せっかく肉を獲って、あの熊いただいて、もうワインにどんだけ煮込んだかって感じですけど、美味しかったですよ。で、この間もらったとき、熊と鹿と兎と持って帰って、なんかお伽噺みたいですけど。熊と鹿と兎なんですよ。持って帰ってきて、まあ、大阪の人間には本当に珍しくって、楽しかったですけれども。それを今は、ハンターの方が個人的に捌いて、個人的に皆さんにこう分かちあってるだけで、商業ベースにはなってないということだし、これを、どうですかね、ジビエ料理として出しても、商業ベースには乗せられないんじゃないですか?その食産工場を通さないと。

Sekikawa
結局、食肉衛生法の法律がありますでしょう?で、その中に合ってれば出せるんですけど、先ほど言った様に、自然な物が相手なので、その量、必要な量をいつでも出せるかって言ったら、かなりクエスチョンになるので、そこは非常に難しいのかなという感じですね。

食と文化の結びつき

Akira
この間愛子先生ともお話ししたんですけども、フードスタディーズというのは、アカデミックではあるんですけど、いろんなことと食をつなげることで、しかもそれを机の上だけじゃなくて、実際に食べる。なので、ジビエ料理を、例えばレストランで出すとか、っていうことだけじゃなくって、いろんなイベント、ジビエとは関係のないところでジビエ料理をみんなで食べてみよう、と。で、料理法もみんなで考えてみようという様なことで、そうして料理をしながら食べてみると、当然いろんな話が出てきますよね。まあ、近くにお住まいだったら、猟師さんに来てもらおうよ、という様な話になって。食べるということ、食ということと、それといろんな人間の活動というのを結びつけていこうというところに、フードスタディーズの精神があると思うんです。そういう面で、ゲストで来ていただいている山本佳詩枝様の山本能楽堂では、能の公演のところ、能楽堂で、お茶を出したり、食事とか、色々されてますよね。そういう、観劇、あるいは、舞台の公演と食べるということを結びつけるというのは、どんな感じですか。

Yamamoto
昔から宮廷とか、これは東西問わず、日本でも、西洋でも、飲食、食事とそういった芸能は、響宴って言いますか、食べて観劇をするというのは、元々一緒になっているものなので。

Akira
でも、どんどん無くなっていってるのが現状で、例えば、文楽とか見に行ってもお弁当をその場で食べれるかと言ったら、どこかに行って、という様な感じになって。ジビエ、あるいはジビエの精神とかいうのも、ジビエ食と文化とが結びつくことによって、ポピュラーになっていくと思うんですけど。

能の中に見られる狩猟文化

Yamamoto
例えば、お能で言いますと、ジビエ、十和田とかどうかわからないんですけど、殺される、殺生されることで、何か儀式があったりとか、神様にそれで祈りを捧げるとか、お能のことに関していえば、やっぱりそういうとこから、神様に捧げる芸能として、奉納というところから始まってますので、そういったところでは結び付けることがあると思っています。実はお能のなかに三つ、ちょっと特殊なお能がありまして。で、そのうちの一つだけご説明させていただくと、鵜飼いのお能があるんですけれども、その鵜匠っていうのが、結局殺生するっていう仕事がすごく、まあ今の世の中でそういうこと言っていいのかあれですけれども、なんかちょっと忌み嫌う仕事だったんで、その昔は。でその鵜匠が、やっぱり鵜に鮎を食べさして、それを自分が取って、っていうのはすごく卑しい仕事と思われていて。で、それは凄く卑しいけれども、その取るっていうところがやっぱり人間の性で、すごく悪魔的なとこがあって、それにのめりこんでしまう鵜匠が結局最後簀巻きにされて殺されて、それでその霊が出てくるって、本当に今も上演されてて、あるんですけれども。あの何ていうんでしょうかね、なんかやっぱり日本人の中で考えられてきたっていうのは、まあ650年前のお能の中にもそういう演目が三つもありますので、なんかやっぱり…

Aiko
そうですね、あの鳥獣戯画っていうものがあって、まあ、人間のように振る舞っている絵が、兎やら狐やらがあって、やっぱりあの神様が宿っているっていう考え方もありますものね、動物にね。
あのジビエでよく出来てるのが和歌山なんですね。和歌山の古座川での仕事をしましたけど、あそこはね和歌山の中で食品工場が十箇所もあるんですよ、ジビエの。だからソーセージ作ったり、鹿のソーセージを作ったり、薫製を作ったりして、たくさんの小さな工場があって、若い人が働いてましたけれども、一つ成功してる例では和歌山であります。なかなかそういった食品工場ができないので、こう広がらない。よく鹿狩り、あの鷹狩りもやりますものね、武将は、鷹の模様のお着物を着て。そして野外で能が行われて、そこの野鳥食べてたっていうのも、芝居にもありますから、きっとそういうこともされてたんでしょうね。ジビエはそういう武将のものですものね。そんなん、今の時代に蘇るでしょうか。

Akira
新しい装いで蘇るいろんな要素がいっぱいあると思うんですよね。ただ古いままだと取っ付きにくいということ以外に、時代がもう全然違いますので、そのままでは適用できない。例えば江戸時代とか室町の頃でいろいろ日本の文化とかいろんなものがあったんですけど、その時代のものっていうのは、まあ能なんかもそうですけど、今って武士はいないですもんね、刀差して、もうそういう時代じゃないんで、時代背景が全然違うから、その本質は伝えるんですけれども、現代に通じる形にはきっとなると思うんで、それは皆さんや我々の努力だと思うんですけど。

ハンターの後継者

Akira
そういう意味でハンターの数が少なくなっているっていう事なのですが、山本能楽堂さんの活動の中でも、伝統芸能、伝統工芸の後継者がいなくなってるっていうような話と共通すると思うんですけど、それはどうですか。

Yamamoto
無くならないで欲しいなあっていうのはやっぱり思ってます。あのう、どう言えばいいんですか、昔とやっぱり趣味が多様化しすぎてて、昔はそれはまあ今のジャニーズがお能やったみたいな感じ、室町時代には、でもそれがだんだん武家の式楽となって、定着化してしまって、そこからまあなんて言うんでしょうかね、止まっているところもあるので。でもまあすごく大事なものやとか、お能の中にはすごくいろんな要素が入ってますので、ただ単に舞台芸術っていうだけじゃなくて、まあこの要素とかいろんな日本人の精神性とか宗教的な観念とかいろんなものが入ってますので、そういうのをうまいことその時代に合わせて切り取って合わせた見せ方をして行かないといけないなということは常日頃思ってるんですけれども。あのただ、まあほかの生け花とか茶道、あと日本舞踊とかそういうのも一緒ですけど、やっぱり経済がすごく発展して、そういった文化的なところにすごく皆さんの興味があるときには、がーっと発展して、でも今そこが多様化しすぎてもうそれ一本っていうわけではないので。なんかその中でどうやって輝いていくかとか、どうやって魅力を持ってもらえるかとか。ま、ハンターの方が減ってるとかいうのもやっぱり、すごくその土壌の部分が減ってるからだと思っていて。もう減るのは仕方がないので、その中でどうやって魅力を持って行ったり、社会にとって価値があるものにして行くかっていうことが、すごいサービスじゃないかなみたいなこと思ったんですね。

Aiko
ハンターの方が少なくなってきたっていうのは、やはり規制もかかってきてるし、それからまあ食べれなくなったっていうのもあるんですよね。村の人がみんな食事として取ってきたわけですけれども、村の人もコンビニに行って買うようになってね。お肉を要らない、やっぱりその多様化しているということがすごく大きいのかもしれませんね。面白いね。まあ日本という国がどういうふうになっていくかっていうことの一つの考える要素かもしれないね。

Akira
一つ私たちが子供の頃と違うのは、今の子供たちは働いている人たち、というか自分たちの親が働いてるところをほとんど見れないんですね。まあもう90%以上がサラリーマンで会社行って働いているって。だから働いているっていう実社会で動いていることと自分の生活っていうのが結び付かないんですね。昔は自営業が多かったから、魚屋の息子や着物屋さんの娘さんとかいうので、みんな経験してて、身近に感じるっていうことで、そういう中でじゃあ実家も継ごうかとかそういうようなことも出てくると思うんです。子供の頃の感受性というのはものすごく強いんで、子供の頃に見たり聞いたりしたものは、すぐ憧れ、気に入ったものはもう一生の仕事にしようと決めてしまいますからね。そういう意味でいろんな活動が特に子供たちに触れるっていうことがすごく大切なんじゃないかなと思うんです。

ジビエと観光と地方創生

Akira
観光の面からそういう触れる機会とかいうようなものの可能性はどうなんですか。

Sekikawa
先程和歌山のお話もありましたけれども、地域資源としてのジビエを観光に生かすということが大いに考えられることだと思います。特に北東北、青森なんかはマタギの文化っていうのはついこの間まではあった。今だいぶこうその影は薄くはなりつつはありますが、たまたま今年は、あの縄文遺跡群もですね、世界遺産に認定されたりしている中で、縄文人の考え方とか思想というものが、注目をされるようになってきています。そういうことと合わせてですね、ジビエの知恵というのを、まあ食べることと同時に 思想としての、文化というようなことで、こうスポットを当てられるようになったら、可能性あるんじゃないかなって気がします。

Akira
そうですね。そういうことをどういう風に結びつけていくかっていうところを、作り出していけるような方々が生まれてくるといいですね。実際のお仕事や、いわゆる起業家みたいな形で、そういう文化思想、そういったものと、実際の食だとかあるいは自然の景色だとか、いろいろぴたっと結び付けるようなフードアクティビストはいらっしゃらないですかね?

Aiko
あの今、先日の12月11日と12日と、中国のフードスタディーズ、亜州食学論壇っていうんですけど、中国の一番大きな学会がありまして、そして立命館大学と組まれて、それに参加した時も、結局十和田の話をしたんですね。で大変皆さんが興味を持ったのは、日本料理といったら京都料理みたいなんばっかりやと思っているという中で、こういう文化があるんだっていうことをすごく思われた。十和田っていうのは元々軍馬を育てたりしてたり、動物との、飼育っていうのにすごく慣れている地域で、たくさんの畜産がされているんです。そこで昨年退官された北里大学の畔柳正先生という方が、ずっと人間と牛が共生できる牧畜は何かっていうのを研究されてて、漆畑牧場さんでそれを実験活用されているのですが。それは今、牛を食べないでおこうとか、プラントベースクッキングとか、牛を食べないで人造肉を食べようとか、そういう中にあって、牛肉と言う作り方をもっと自然のままでどうしたら作れるかっていう研究をされてて、餌もその漆畑牧場さんの中でちゃんと牧草を使い、それからそこにはせんべいがありますので、そのせんべいのかすを使ったり、豆腐のカスを使ったり、すべてその地域でつくるエサしか食べてない。輸入の飼料を与えない、というので作られている、十和田短角牛という有名なお肉があるんですが、それ用の飼料を食べさせてないので、霜降りじゃないんです。硬い、確かに硬い、それで霜降りじゃない。霜降りじゃないと食肉業界としてはランキングの中はすべて霜降りの順番にされているので、その肉ははじかれるわけですね。で、ランクもつかないというのを、でも食べてみると非常に肉の味がしておいしい。牛肉ですから肉を見て柔らかいわけないよなってこう思いました。で、全く違うものなんですけど、今それを大阪のハートンホテルではプラネタリフードバーガーとして発売されています。この活動の中でたくさん十和田のものが大阪にやってきました。十和田に行ってわかったことは、十和田は東京に向かってすごく市場性を求めているんですが、大阪は抜けるんですね。中途半端なところで。だからまだまだ今後そのSDGsを考えたときに、SDGsに基づいて作られたものを私たち消費者もそれを勉強して受け入れていくような組織を作っていくことが大事かなと思っています。たくさんまだ自然のある中で、このジビエというかアニマルイーティングっていうんですけど、こういうものが十和田の中で根付いている間に、そういうのがもっと確立できたらいいなと。まあ食品工場が要りますよね。それにしてもね、流通させようと思ったらそれがいるんですけど、なかなかそれができないという状況です。

Summary

Akira
このジビエとハンターという視点は、狩猟、狩猟文化、それと青森十和田の自然地域性のフードスタディーズとしてすごく有意義なものだと思うので これをさらに発展させて、形にして多くの人に知ってもらいながら進めていくっていう出発点にしたいと思います。
時間になりました。愛子先生に簡単にサマリーをしていただければありがたいです。

Aiko
なんかとてもね、十和田っていう町、私はとても楽しかったです。と言うのは大阪人から見るとまったく違う文化で、それから食べ物が面白くて大阪にないものばかりですね。それを持っている方たちはそのことがそんなに面白いのっていうぐらいで、私が台所の中に入って、これもいいね、あれもいいねって言うと、皆さんがびっくりされてました。そんなふうに日本という国は細長い国で、私は大阪と関西ばっかり見てた人間ですから、そっちへ行くと全く知らない。また今度そちらからこちらへ来るとまた違う。海外もありますけれども、日本の中でもっとよく日本を知るということが、SDGsの一番大切なことじゃないか。それを食を通して考えていく、そして、その食を通して、もっと日本で生きていくための知恵とか、それからサステナブルにつながる技術とかというものを組み上げていければいいかなと思います。

Akira
ありがとうございました。こういう食を中心に置いて、いろんなものをつなげていくっていうのは、具体的ないろんなものが出てくる可能性がありますね。関川先生、川村先生、非常に有意義なお話をありがとうございました。

 

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