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AIの爆発的な電力需要をどう賄うか?―世界が熱視線を送る「SMR(小型モジュール炉)」と日本の技術力

ChatGPTをはじめとする生成AIの急速な進化は、私たちのビジネスや生活を劇的に変えつつあります。しかしその裏側で、世界のテック産業はかつてない規模の「壁」に直面しています。

それが「深刻な電力不足」です。

国際エネルギー機関(IEA)が公表した報告書「Energy and AI」によると、世界全体のデータセンターによる電力消費量は急増を続けており、2030年までに約9,450億kWh(945TWh)に達する見通しです。これは2024年時点の水準からほぼ倍増する計算であり、現在の日本の年間総電力消費量を上回る規模の莫大なエネルギーが、データセンターだけで消費されることになります。

脱炭素(カーボンニュートラル)を推進しながら、この桁違いの電力需要をどう賄うのか。太陽光や風力といった再生可能エネルギーの普及と並行して、世界の投資家やテック企業が今、新たなクリーンエネルギーの選択肢として巨額の資金を投じているのが、次世代の原子炉「SMR(小型モジュール炉)」です。

 

写真はイメージです。

 

 

01|AmazonもGoogleもMicrosoftも。テック大手が「次世代原発」を急ぐ理由

このエネルギー危機に対して、世界のビッグテックはすでに驚くべきスピードで動き出しています。

2024年秋、Amazonは複数のSMR開発企業・電力会社と提携し、SMR開発スタートアップのX-energy社が主導する5億ドル(約750億円)超の資金調達ラウンドに筆頭出資者として参加。データセンター向けの安定電源確保に乗り出しました。また、GoogleもSMR開発企業のKairos Power社とクリーン電力の購入契約を締結し、2030年までの稼働を目指しています。さらにMicrosoftは、2019年に経済的理由で運転停止していたスリーマイル島原発1号機の再稼働を支援すべく、そこで生まれる電力を20年間にわたって購入する契約を締結し、世界に衝撃を与えました。(注)

(注)
1979年に起こったスリーマイルアイランド原発2号機が炉心の約半分がメルトダウンするという商用原発始まって以来の大事故は、その後のチェルノブイリ(1986年)と福島(2011年)の原発事故と併せて、原発の安全性に関してのその後の徹底した安全性に対する取り組みを促し現在に至っています。Microsoft社が契約した、1979年の事故で無傷だった1号機は、その後の設備改修、運転教育、規制強化などを経て、1985年に運転を再開したものの、採算の悪化など経済的理由で、約34年間に及ぶ操業の後2019年に停止したものです。

 

なぜ彼らは、ここまで原子力にこだわるのでしょうか。理由は明快です。「生成AIを24時間ノンストップで安定稼働させながら、温室効果ガスの排出もゼロに抑えるため」です。

太陽光や風力などの再生可能エネルギーは重要な選択肢ですが、天候に左右されるため、24時間一定の電力供給が求められるデータセンターの「ベースロード(基礎電源)」として単独では補いきれない側面があります。かといって火力発電に頼れば、自社が掲げる脱炭素の公約を破ることになります。

天候に関わらず、発電過程でCO₂を一切排出せず、大量の電力を安定供給できる現実的な選択肢として、SMRに世界の資本が集まるのは、必然と言えるかもしれません。

 

02|「工場で組み立てる小さな発電所」SMRとは何か

では、世界が熱視線を送るSMRとは、一体どのような技術なのでしょうか。

SMR(Small Modular Reactor:小型モジュール炉)とは、従来の大型原子力発電所と比べ、出力を数分の1から10分の1程度に抑えた小型の原子炉です。

これまでの原発は、巨大なプラントを何年もかけて現地で建設する大規模な土木プロジェクトでした。SMRの最大の特徴は「モジュール(部品)化」にあります。主要な機器をあらかじめ工場で精密に組み立て、現地へ輸送してパズルのように設置する仕組みです。これにより建設期間が大幅に短縮され、コストも抑えられます。

さらに注目すべきは、SMRに組み込まれた「受動的安全システム」です。外部からの電源がすべて失われるような緊急事態が発生した場合でも、人間の操作や電気ポンプに頼ることなく、自然の空気の対流や重力を利用して原子炉を自動的に安全な状態に保ち続ける設計となっています。電力を必要としない安全機構は、2011年以降の世界の原子力政策が求める安全基準に直接応えるものです。

 

03|世界の実用化レースを牽引する、国内の主要プレイヤー

設計の段階を超え、いま世界では商用化へ向けた具体的な建設プロジェクトが動き出しています。そこでも、国内の主要プラントメーカーが存在感を発揮しています。

その筆頭が、米GEベルノバ社とタッグを組む日立GEベルノバニュークリアエナジー(旧・日立GEニュークリア・エナジー、2025年6月に社名変更)です。同社が共同開発する小型軽水炉「BWRX-300」は、欧米諸国初の商用SMRとして2025年5月にカナダ・オンタリオ州ダーリントンサイトで着工。2030年末の運転開始を目指し、建設が着実に進んでいます。北米・欧州市場をリードするこのプロジェクトは、世界中のSMR開発の「ベンチマーク」として注目を集めています。

国内において多数の原子力発電所の建設実績を持つ三菱重工業(MHI)も、多角的なアプローチで次世代エネルギーの構築に挑んでいます。国内の主要電力会社4社と共同で次世代革新軽水炉「SRZ-1200」の開発を進める一方、ビル・ゲイツ氏が設立した米テラパワー社の高速炉開発プロジェクトにも、技術協力を行う中核企業の一社として参画しています。

グローバルなテック企業のアイデア・資金と、長年にわたる製造実績・安全設計の知見を持つ国内メーカーの融合。この組み合わせが、未来のエネルギー供給の現実的な姿を形づくっています。

 

04|唯一無二の「素材技術」と「極限の熱制御」が世界を支える

日本の強みは、システム全体の統合能力にとどまりません。特定のサプライチェーンにおいて容易に代替できない、個別の基幹技術でも圧倒的な存在感を持っています。

原子炉の心臓部である「原子炉圧力容器」は、極限の高温・高圧に耐え続けなければなりません。金属の接合部からひび割れが生じるリスクを限りなくゼロに近づけるには、継ぎ目のない一体成形が理想です。この難題をクリアしているのが、北海道室蘭市に工場を持つ日本製鋼所(JSW)です。同社は巨大な鋼鉄の塊を叩き鍛える「鍛造」技術において世界トップクラスのシェアを誇り、海外の主要SMRプロジェクトも同社の供給能力を前提として開発計画を組んでいます。

原子炉内で発生した熱を安全かつ効率的に電力へと変換する「熱交換技術」の分野では、IHI(石川島播磨重工業)が存在感を示しています。航空機エンジンや宇宙ロケットの開発、長年にわたるプラント建設で磨き上げた「極限状態における熱と流体の制御技術」を武器に、米国のSMR開発企業への技術参画を深めています。

SMRは「金属加工」「熱制御」という、日本の重工業が地道に積み上げてきた技術的基盤の延長線上にあります。一朝一夕には模倣できない、日本のものづくりの「地続きの優位性」がここにあります。

 

05|SMRとSDGs——持続可能な未来インフラへの貢献

次世代エネルギーインフラとして期待されるSMRは、SDGs(持続可能な開発目標)が掲げる複数の目標と深く結びついています。

目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」 AI需要の拡大に伴う膨大な電力を、CO₂を排出しないクリーンな基礎電力として24時間安定供給する選択肢となります。

目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」 日本の素材工学・航空宇宙技術・重工業の結晶が、次世代クリーンエネルギー社会を支える革新的なインフラを構築しています。

目標13「気候変動に具体的な対策を」 化石燃料への依存を低減しながら、産業・都市のデジタル化と脱炭素化を同時に達成するための具体的な手段として機能します。

SMRは単なる電力不足の「答え」にとどまらず、持続可能な産業インフラそのものを支える重要なピースとして位置づけられています。

 

06|「ベストミックス」が描く、現実的な脱炭素の未来

ただし、SMRが「すべての問題を一発で解決する魔法の技術」になるわけではありません。

商用化に向けては、規制当局による承認プロセス、高レベル放射性廃棄物の最終処分問題、経済的な量産体制の確立など、乗り越えるべき課題が数多く残っています。一部の海外SMR開発プロジェクトでは、財務的な困難から計画の見直しを余儀なくされた事例もあり、技術の有望性と実用化の難しさは常に表裏一体です。

持続可能な脱炭素社会へのロードマップで重要なのは、特定技術への一極集中ではなく「ベストミックス(最適な組み合わせ)」の発想です。

気候条件に左右されるものの環境負荷が最も低い「再生可能エネルギー」、それを補完する高性能な「蓄電池」、そして天候を問わず安定した基礎電力を供給する「SMRなどの次世代炉」——それぞれが長所を活かし、短所を補い合うハイブリッドなエネルギー社会が、産業界の描く現実的な未来像です。

脱炭素とデジタル社会の両立という困難な課題に対し、日本の現場が誇る確かな技術力が、世界の選択肢を広げています。最先端のAIが世界を席巻するその裏側で、それを動かすエネルギー基盤を支えているのは、日本のものづくりの力なのかもしれません。

 

※本記事は技術・産業トレンドの解説を目的としており、特定銘柄への投資を推奨するものではありません。

 

参考・引用

・Energy demand from AI(IEA)

https://www.iea.org/reports/energy-and-ai/energy-demand-from-ai

・Executive summary(IEA)

https://www.iea.org/reports/energy-and-ai/executive-summary?utm_source=chatgpt.com

・データセンターの電力消費量 2030年に日本超え IEA報告書(日本原子力産業協会)

https://www.jaif.or.jp/information/ai_energy

・経済産業省「次世代革新炉の現状と今後について」

https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/kakushinro_wg/pdf/008_01_00.pdf

・日立GEベルノバニュークリアエナジー「GEベルノバ日立とオンタリオ・パワー・ジェネレーションが西側諸国初の小型モジュール炉をカナダで建設」https://www.hitachi-hgne.co.jp/

・日立GEニュークリア・エナジーにおける取り組み状況(J-STAGE)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjb/62/3/62_141/_pdf

・次世代革新炉開発の取組みについて https://www.aec.go.jp/kaigi/teirei/2025/siryo05/2_haifu.pdf

・株式会社日本製鋼所「原子力圧力容器用鍛鋼品」https://www.jsw.co.jp/ja/product/business/material_engineering/me_0600/

・IHI「小型モジュール炉で脱炭素に貢献 NuScale VOYGR SMRの特徴とIHIでの技術開発状況」https://www.ihi.co.jp/technology/techinfo/contents_no/1200877_13491.html

 

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