いま、世界的に注目を集めるスポーツ、「ピックルボール」。その勢いが止まりません。アメリカでは競技人口が1,981万人を超え、アジアでは年間8億人がプレイ。プロリーグ化も進み、スポーツ×エンターテインメントの新潮流として定着。そんなピックルボールが、日本でも確実に広がり始めています。
日本におけるピックルボールの普及や活用サポートなどに取り組んでいる株式会社ピックルボールワン(東京都渋谷区)が開催したメディア向け説明会(2025年6月16日)では、日本におけるピックルボールの現在地と未来、そしてそれがもたらす社会的価値が多角的に語られました。
年齢も体力も関係ない、すべての人が主役になれるスポーツ
ピックルボールは、テニス・卓球・バドミントンを融合させたアメリカ発祥のラケットスポーツ。小さめのコートで軽いラケットと固くないボールを使い、ルールもシンプルなため、子どもから高齢者まで男女問わず気軽に始められます。「30分の練習で試合ができるレベルに」という“Easy to Start”のコンセプトが、世界的な急成長を支えているのです。
説明会では、「ラケットスポーツが寿命を延ばす」といったメリットにも触れられ、特に高齢者の健康寿命延伸に有効であることが強調されました。日本のように高齢化が進む社会にとって、まさにSDGsゴール3「すべての人に健康と福祉を」を体現するスポーツといえるでしょう。
「スポーツは特別な人のもの」から「誰もがつながれる共通言語」へ
ピックルボールには、他の多くのスポーツと同様、単なる競技スポーツに留まらない“ソーシャル性”があります。アメリカではプレイヤー同士が自由に集まってゲームを楽しむ「オープンプレイ」の文化が根付いており、偶発的な出会いや地域のコミュニティ形成の起点ともなっています。これは、いま深刻化している、高齢者の孤独解消にもつながるのではないでしょうか。
株式会社ピックルボールワンは、このような価値を「幸福度を上げるコミュニケーションツール」として位置づけ、専門メディアの運営、イベント開催、EC事業、導入支援のコンサルティングなどを通じて全国展開を進めています。
日本社会にマッチする「次世代型スポーツ産業」としての可能性
ピックルボールは、コートが小さく、人の目が行き届きやすいので安全性も高く、運動な苦手な子どもでも楽しむことができる設計になっています。また、日本がもともと持っている体育館やバドミントンコートをそのまま活用できる点でも有利です。少子化が進み、団体競技が難しくなる中、チームプレーの要素を保ちつつ、少人数でも楽しめるということも評価されています。
さらに、企業における導入も期待されており、昼休みや終業後の短時間で、少人数でできることから、「職場の新しいコミュニケーションツール」として有効でしょう。
ピックルボールの大会やトッププロの育成などを展開しているSansan株式会社(東京都渋谷区)は、2024年に7千人以上の体験者を創出。フィットネスクラブやゴルフ場とのコラボイベントを通じて、ファミリー層を巻き込んだ実践例を拡大しています。
国際交流と地方創生の起爆剤に
ピックルボールは観光資源としての可能性も秘めています。長野県では、空き家を活用した宿泊施設とピックルボールを組み合わせたプロジェクトも進行中。海外からの選手が田舎でプレーと観光を楽しむ姿は、まさにSDGs的インバウンド事業と言えるでしょう。
また、アメリカの旅行会社と連携し、ピックルボールを軸に国際交流ツアーを組む構想も発表されました。「スポーツを通じて、世界の人々とつながる」という体験は、多様性と包摂性の観点からも重要な意義を持つのではないでしょうか。
“ピックルボールのある未来”が照らすSDGsの新しい道筋
日本国内では、2024年に1万人だったプレイヤー人口が、2025年には4.5万人にまで増加。さらに、賞金総額300万円のトッププロ大会や、「PPA TOUR ASIA Sansan FUKUOKA OPEN」など、競技としての発展も本格化します。
ピックルボールも、単なるスポーツではありません。世代を越え、言葉の壁を越え、人々の心をつなげる「社会の触媒」であり、SDGs達成への具体的な手段となり得ます。特にゴール3「すべての人に健康と福祉を」や、ゴール11「住み続けられるまちづくりを」、ゴール17「パートナーシップで目標を達成しよう」など、多角的なアプローチが期待できるのです。
ピックルボールは、SDGsの大きな理念である「誰一人取り残さない」新しい未来社会を切り開く可能性に満ちています。
取材・文:SDGs JAPAN PORTAL 編集部