スポーツの熱狂と持続可能な社会の実現は、一見すると遠い関係に思えるかもしれません。しかし、大規模な国際スポーツ大会が持つ力を活用し、SDGsの推進に繋げる画期的な試みが世界中で始まっています。今回は、SDGsジャパンポータルを運営する一般社団法人未来投資研究所の代表理事、青山明さんにお話を伺い、バレーボールネーションズリーグ(VNL)がなぜ、そしてどのようにSDGsに取り組んでいるのか、その秘密に迫ります。
※このインタビューは大会初日の2025年7月9日(水)に行われたものです。
「地方自治体とVNLの大会がタッグを組んでいることが、この大会の最大の特徴です」
―――本日はありがとうございます。まず、未来投資研究所がどのような活動をされているのか、そしてなぜバレーボールの国際大会であるVNLに注目されているのか教えていただけますか?
はい、未来投資研究所は、SDGsの推進によって持続可能な社会を実現することを目指す社団法人です。特に、皆さんが楽しまれているスポーツや文化活動をSDGsの活動と融合させることで、地域や国の活性化に貢献したいと考えています。
VNLに注目している理由ですが、SDGsが国連で決議された時に国連総長が述べているように『大規模国際スポーツ大会はSDGsを推進するのに非常に大きな力を持っている』という点です。VNLは日本で毎年開催される、ほぼ唯一の大規模国際スポーツ大会であり、その影響力は計り知れません。個人的にバレーボール経験者ということもありますが(笑)、SDGsを推進する上で非常に重要なパートナーだと考えています。
―――なるほど。大規模スポーツ大会というと、環境負荷などネガティブな側面が指摘されることもありますが、昨年の買取大吉 バレーボールネーションズリーグ2024福岡大会」(VNL2024福岡大会)では画期的な取り組みがあったと伺いました。
その通りです。福岡大会の最大の特徴は、日本のVNL史上初めて、地方自治体(福岡県・北九州市)と大会が本格的にタッグを組んだ点にあります。これにより、大会側は地域とのつながりを最大限に活かすとともに地域振興に貢献でき、自治体側は福岡県が積極的に取り組んでいる『ワンヘルス』という、SDGsと親和性の高い理念を推進する絶好の機会となりました。両者の意向が『SDGs』という共通言語で見事に合致したのです。
―――具体的にはどのような取り組みがあったのでしょうか?
まず、環境負荷を減らすための、フードロス対策が挙げられます。VNLのような大規模なスポーツ大会の場合、大勢の運営スタッフに弁当を配ることが一般的です。福岡大会では、これらの運営スタッフに弁当を配るのではなく、地域の飲食店で使える『ミールチケット制』を導入しました。これは大規模スポーツ大会で生じる膨大な食べ残しや余剰を劇的に減らし、大成功を収めました。日本の子どもの相対的貧困率は2020年の時点で約13.9%だと報告されています。これが意味するようにように、日本の中でも十分に食べられない人々が大勢いる中で、大量の無駄なフードロスを無くしたことは非常に意義あることです。ところでミールチケットが街中で使用されたことで、今まで会場内に留まっていた外国人を含む非常に多くの大会スタッフたちが街に出ることになり、大会と街と人がさらに一体となったこともこの取り組みの大いなる結果となりました。次に、応援で使われる大量のスティックバルーンを特別な技術でリサイクル処理するなど、ゴミ問題にも革新的な方法で取り組んでいます。
さらにポジティブな面として、子どもたちへの働きかけもユニークでした。地元の高校生が世界トップレベルのプレイを見れるように、通常は小学生までが対象の『子ども料金』を高校生まで適用したのです。これは他の大会ではほとんど見られない、画期的な試みだったと思います

SDGs推進し大成功したVNL2024福岡大会
「大会の持つ影響力を使って、千葉大会では“水”に関する取組も始めました」
―――福岡大会の成功を受けて、現在開催中の買取大吉バレーボールネーションズリーグ2025千葉大会(VNL2025 千葉大会)ではどのような進化が見られるのでしょうか?
福岡での試みは、千葉大会でも継続され、さらに充実しています。千葉大会では、市長が述べられているように未来を担う子どもたちが世界最高のものに触れてほしいと言う思いがあります。その思いに合致するいくつもの、例えば、子どもたちが大会運営にスタッフとして参加する職業体験プログラムが『小学生クルー』体験という名称で新たに企画されました。
そして千葉大会の最も新しい挑戦は、インタビューの最初に述べましたVNLという大規模国際スポーツ大会が持つ影響力を積極的に使い、社会課題の解決に貢献しようという姿勢です。具体的には、地球規模で問題となっている『水』に注目しました。大会では、そして日常生活でも、飲み水やトイレなど目に見える水だけでなく、たとえばバレーボールの製造過程や人々の移動など様々な場面で目に見えない水を大量に消費していることを、クイズやアンケートを通じて知っていただき、観客の皆さんに水問題への関心を高めてもらう取り組みです。これは、スポーツ大会がSDGsを推進する新たなフェーズに入ったことを示す、非常に重要な一歩です。

2025年2月4日に行われた記者会見。千葉市の神谷俊一市長をはじめ、Volleyball World CBOのギド・ベッティ氏、VW日本統括の青山アリア氏、日本バレーボール協会の国分裕之専務理事が出席。皆それぞれに開催の喜びを語りました。
「福岡大会ではSDGsの17の目標がほぼ全てがカバーされていることにも気がついたんです」
―――ポータルサイトとして、VNLの取組の特に注目された点はどこだったのでしょうか。
福岡大会の取り組みを検証していて、驚くべきことに気づきました。フードロス、ゴミ問題、ジェンダー、教育、地域振興…大会の様々な取り組みを総合すると、SDGsの17の目標がほぼ全てカバーされていたのです。
普通、SDGsというと『できることから一つずつ』と考えがちですが、17の目標はすべて繋がっています。一つだけを追い求めると、別の部分で歪みが生じることもあります。VNL福岡大会の成功は、17の目標すべてを、たとえ小さくても同時に推進することが、結果的に全体の成功に繋がるということを示してくれました。これは私たちにとっても大きな発見でした。
―――17目標すべてを、というのは本当にすごいことですね。
はい。大きな目標を達成する秘訣は、それを小さなから始めることです。VNLはそれを実践し、大きな成功を収めた素晴らしいモデルケースだと思います。
「VNLが、全国各地を巡り歩くSDGs推進大使のような存在に」
―――最後に、VNLの今後の活動にどのようなことを期待されていますか?
VNLが毎年、福岡、千葉、そしてまた別の地域へと開催地を移していくことで、まさに『全国各地を巡り歩くSDGs推進大使』のような存在になってほしいと期待しています。それぞれユニークな特徴を持つ地域とタッグを組むことによって、スポーツの持つ力を最大限に発揮し、地域振興に貢献し、日本中にSDGsの輪を広げていく。こんなに素晴らしいことはありません。
そして、このVNLのモデルが、他のスポーツ大会や文化イベントにも広がっていくことを強く願っています。
スポーツや文化の力で、持続可能な社会の実現に貢献する。私たちのポータルサイトも、その一助となるよう、これからも情報を発信し続けていきたいですね。
―――スポーツが持つ無限の可能性を感じるお話でした。本日は誠にありがとうございました。
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青山 明(あおやま あきら)
*1948年生まれ(大阪市)
*石川県金沢市在住
*一般社団法人未来投資研究所代表理事
SDGs JAPANポータル編集長
<略歴>
大阪大学理学研究科生理学専攻博士過程修了 理学博士
カリフォルニア大学サンディエゴ校生物学部アシスタントリサーチャー
スイス・チューリッヒ大学医学病理学科癌研究部門シニアリサーチャー
分子生物学分野で、遺伝子の複製、ウイルス増殖機構、癌遺伝子等の研究に携わる
日本帰国後は画家として画業に携わる
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【関連記事】
◆持続可能な国際スポーツ大会のさらなる進化を目指して──VNL2025 千葉大会の挑戦
https://japan-sdgs.or.jp/news/6114.html
◆スポーツエンターテインメントとSDGsを融合する、バレーボールネーションズリーグの素晴らしさ
https://japan-sdgs.or.jp/column/6021.html
◆<AIポッドキャスト>【SDGs JAPAN PORTAL】「持続可能な国際スポーツ大会のさらなる進化を目指して──VNL2025千葉大会の挑戦」を、YouTubeにアップしました。AIのトークによるポッドキャストで、VNL2025千葉大会の素晴らしさを、音声でダイレクトに感じられる番組となっています。ぜひご視聴ください。
https://youtu.be/xm_V6FdmeNc?feature=shared
◆VNL2025 千葉大会公式サイト
https://www.live-link.life/online/vnl2025
◆SDGs JAPAN ポータルとは
https://japan-sdgs.or.jp/about