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文化の力で持続可能な社会の実現を「Noh for SDGs」: 新作能 『水の輪』 & 『オルフェウス』 、子ども達と作る能。山本能楽堂 その4

ユネスコ世界無形遺産である能楽により「水や森を大切にする気持ち」を持って、

世界を一つにつなげ、次代へと「美しく豊かな水や森」を伝えていきたい。

今回のSDGs Japan Portalのインタビューは、「Noh for SDGs」を掲げて、新作能『水の輪』『オルフェウス~森の豊かさを子ども達と一緒に守り、育てる』の公演を中心に、文化の力で持続可能な社会の実現をめざされている公益財団法人山本能楽堂のCOO(運営責任者)ともいうべき山本佳誌枝さんに登場していただきます。
―その3― では、「水都大阪2009」での初演以来10年以上にわたって山本能楽堂の持続可能な社会づくり(SDGs)活動の核となっている新作能『水の輪』について、そこに込められている思いをお伺いしました。今回は、その10年にわたる歩みをお聞きしています。

 

一期一会の能楽作品を10年間に20回も再演。「水を大切にする気持ち」で、世界の人々の心をひとつに。

編集部:物語の内容が分かったところで、『水の輪』の10年間の歩みについて教えていただけますか?― 2009年(平成21年)

山本:「2009水都大阪2009」で初演したのですが、同じ年の年末に大阪市中央公会堂で第2回の公演をしました。23人の小学生に水鳥になって出演していただき、衣装や小道具は、井上信太さんのワークショップでの手づくり。これは、ずっと継承しています。また、映像作家集団「新視覚」による琵琶湖から大阪までの淀川水系の川の流れの映像を投影しています。

2009(平成21)年12月26日 大阪市中央公会堂
主催:文化庁・文化芸能で「明るく」「楽しく」「わくわく」する大阪に!実行委員会・大阪商工会議所

水鳥になって出演した子どもたち

子どもたちが手づくりした小道具

―2011(平成23)年
山本:2年後には、淀川の源流である琵琶湖に面し、「水の城下町」として知られる近江八幡市で公演しています。この時は、八幡堀に特設の水上ステージを設け、現地の17人の小学生といっしょに上演。照明は、アーティストグループ「ダムタイプ」のLED照明デザイナー藤本隆行氏にお願いしました。

2011(平成23)年9月18日 滋賀県 近江八幡市・八幡堀特設水上ステージ
主催:公益財団法人 山本能楽堂
後援:近江八幡市・近江八幡観光物産協会・大阪市・大阪商工会議所
文化庁平成23年度トップレベルの舞台芸術創造事業助成公演

八幡堀の特設水上ステージで公演

楽しみながら稽古に励む子どもたち

この年には、海外公演もスタートさせました。縁があって、東欧ブルガリアのソフィア市におじゃまして、現地の小学生26人といっしょに舞わせていただきました。子どもたちには「大阪ことば」で謡ってもらったんですよ。

2011(平成23)年11月18日 ブルガリア共和国 ソフィア市・ソフィア劇場
主催:公益財団法人 山本能楽堂
後援:外務省・大阪府・大阪市・大阪商工会議所・水都大阪推進委員会・財団法人 大阪21世紀協会
平成23年度 文化庁・国際交流支援事業(海外)公演

ソフィア劇場での公演の様子

出演したブルガリアの子どもたち

―2013(平成25)年
山本:次の2年後からは、大阪の新しい水辺エリアでの上演をはじめました。その皮切りが中之島GATEでの開催です。ここでは、今は無き大阪の演劇集団「維新派」も私たちの後に公演を行っています。

2013(平成25)年10月16日 大阪市・中之島GATE
主催:公益財団法人 山本能楽堂
後援:水都大阪パートナーズ
大阪府カンヴァス推進事業公演/文化庁 平成25年度優れた劇場・音楽堂からの発信事業公演

アート作品に囲まれて行われた中之島GATE公演

―2015(平成27)年
山本:さらに2年後から、大阪と離島を「水を大切にする気持ち」でつなげる活動を開始しました。その第一弾として、小豆島(この後、隠岐・西ノ島、屋久島と続いていきますが)での公演を実施しました。江戸時代初期に建てられ、国の重要文化財に指定されている中山農村歌舞伎舞台に、小豆島のシンボルであるオリーブの木を松に見立てて、小豆島で獲れる魚をモチーフに松葉を描き、老松を子どもたちといっしょにつくりました。

2015(平成27)年8月15日 香川県 小豆島・中山農村歌舞伎舞台
主催:文化庁
受託者:公益財団法人 山本能楽堂
後援:小豆島町・小豆島教育委員会・中山自治会・中山農村歌舞伎保存会
文化庁 平成27年度戦略的芸術文化創造推進事業公演

中山農村歌舞伎舞台での公演の様子          魚をモチーフにした松葉          オリーブの飾りつけをけする子供たち

同じ年には、大阪アーツカウンシル設立後初めての大阪府と大阪市の協働による大事業である「平成27年度芸術文化魅力育成プロジェクト」の最優秀企画提案として『水の輪』のジャンルミックスVer.を上演しました。これは、能楽、講談、フルートとバイオリンのクラッシック音楽、ポールパフォーマンスを融合させた新しい大阪ならではのイベントとなりました。やなぎみわさんの作品でもあるステージトレーラーを使ったポールダンスとごいっしょしたことを今でも鮮明に憶えています。

2015(平成27)年11月7日・8日 大阪市 中之島・大阪市新美術館予定地
主催:芸術文化魅力育成プロジェクト(大阪府・大阪市)
事業者:公益財団法人 山本能楽堂
共催:大阪大学21世紀懐徳堂 協力:公益財団法人 大阪観光局ほか
後援:大阪商工会議所

やなぎみわさんのステージトレーラーと公演の様子

また、この年には、大阪と離島をむすぶ第二弾として、鹿児島県の屋久島で公演を行いました。この時は、ヤクシカやヤクザルといった屋久島固有の動物たちをモチーフにして、子どもたちといっしょに老松をつくりました。

2015(平成27)年12月15日 鹿児島県 屋久島・離島開発センター
主催:文化庁
受託者:公益財団法人 山本能楽堂
後援:屋久島町・屋久島町教育委員会
平成27年度戦略的芸術文化創造推進事業公演

アートな老松の前で屋久島公演の様子

老松に飾りつけをする子どもたち

―2016(平成28)年
山本:2020東京オリンピック・パラリンピック開催を4年後に控えた2016(平成28)年、内閣官房「オリンピック・パラリンピック基本方針推進調査」に係る試行プロジェクトで『水の輪』を上演しました。この試行プロジェクトは、世界15か国から20人の子どもたちがそれぞれの母国語で出演し、自国の水環境について話し、世界各国に思いを馳せながら、みんなで水辺を美しく清掃しようというもの。再び大阪に美しい水辺が蘇えりました。

2016(平成28)年11月4日 大阪市・グランフロント大阪ナレッジプラザ特設ステージ

ナレッジプラザ特設ステージでの公演の様子

ナレッジプラザ特設ステージでの公演の様子

この年には、オーケストラとのコラボレーションも行いました。これは、『水都を寿ぐ交響能楽~水の輪 East meets West』と題してNHKホール大阪で開催したものです。コラボレーションといっても、オーケストラの演奏に合わせて能を舞うのではなく、あくまでも能楽のスタイルは守りながら、オーケストラと共演するというスタイルを取りました。“不易流行”という言葉がありますが、守るべきところは頑なに守り、時代に合わせて変えるところは変える……伝統を継承していくには大切なことだと考えています。

2016(平成28)年11月21日 大阪市・NHKホール大阪
主催:関西・大阪21世紀協会

 

NHK大阪ホールでのオーケストラとのコラボレーション

―2018(平成30)年
山本:2018(平成30)年は、東日本大震災の被災地である岩手県大船渡市で、震災後初めて再開された「三陸港まつり」で公演を行いました。この時は、高さ8mの防潮堤の前で大船渡市越喜来(おきらい)地区に伝わる浦浜念仏剣舞の子どもたちと共演。子どもたちは「気仙ことば」でアイ狂言を務めました。また、越喜来湾に潜り、仲間たちとがれき撤去の活動を続けているNPO法人 三陸ボランティアダイバーズ代表でダイバーの佐藤寛志さんの水中映像を防潮堤に投影。三陸の海の豊かさをみんなで学びました。

2018(平成30)年8月15日・16日 宮城県 大船渡市・越喜来漁港
海と日本 水の輪:三陸能舞台

公演の様子                       佐藤さんが撮影した越喜来湾の水中映像

―2019(令和元)年
山本:新しい元号・令和がはじまった昨年(2019年)は、百舌鳥・古市古墳群が大阪で初めての世界文化遺産に登録されたことを記念して、藤井寺市の津堂城山古墳にステージを組み、公募した子どもたちや市民約50名に出演していただいて公演を行いました。みんなで環境問題について考えながら手づくりした“紙の裃(かみしも)”に、岸和田市の障がい者支援センター「かけはし」で生まれたスーパーのレジ袋をリサイクルした“poRiff”制作のワークショップでつくった古墳型の家紋を貼り付けて衣装にしました。また、山本能楽堂で開発した囃子』アプリを使って楽しみながら稽古に励みました。さらに、アーティストグループ「ダムタイプ」のLED照明デザイナー藤本隆行氏による照明デザインで古墳全体を浮かび上がらせる演出を行いました。

2019(令和元)年9月16日 大阪府 藤井寺市・津堂城山古墳
主催:藤井寺市・藤井寺市観光協会・公益財団法人 山本能楽堂

ライトアップされた古墳を背景にした舞台の様子            紙の裃をつくる子どもたち

山本:これらが、主な新作能『水の輪』の歩みです。見直してみると、この10年間、ほんとうにいろいろ活動してきましたね。“継続は力なり”を実感しています。

 

新作能『水の輪』を通して、日本発の心の通い合う国際親善を行っていきたい

編集部:これから先、新作能『水の輪』は、どう成長し、社会をどう変えていくのでしょうか?

山本:関西国際空港が水に浸かった映像に驚いた一昨年(2018年)の台風21号による西日本豪雨災害や昨年(2019年)の台風15号、19号による東日本の広域での大規模水害など、近頃は100年に一度といわれるような災害が頻発しています。これらは、やはり地球規模での気候変動が原因だと考えられているようです。私たちが新作能『水の輪』を初演した頃よりも世界の水環境は悪化しているのではないか、と懸念しているところです。
そんな時代だからこそ、人類共有の環境問題である「水の大切さ」を伝えることが求められているのではないかと考えています。そんな中、能楽を通して、「水の大切さ」をテーマに、「子どもたちが水を蘇らせる」ことで、「水を大切にする気持ち」を未来へと繋いでいくことができるのではないかと願い、これからも活動を継続して行っていきます。また、“瑞穂の国”と呼ばれ、古来より水と共生し、水を介した独自の美しい文化を育んできた“日本人の心”を伝えていきたいと思っています。そして、「水を大切にする気持ち」で世界をひとつにつなぎ、次世代に水についての敬意と親愛を伝えるとともに、日本発の心の通い合う国際親善ができれば、望外の喜びです。

今回は、10年間にわたる新作能『水の輪』の歩みを駆け足でご紹介しました。そして、山本さんのこれからの動きについてもお伺いしました。次回は、“森を守る”をコンセプトに制作・上演された新作能『オルフェウス』について、山本佳誌枝さんにたっぷりお話を伺います。乞う、ご期待。

《おわり》

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