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「洗う」を問い直す―毎日の洗濯が地球とつながっている

毎日何気なく回している洗濯機。そのスイッチを入れるとき、一回一回の洗濯が水資源やエネルギー、そして広大な海洋環境とどのように繋がっているか、今一度考えてみることにしましょう。

日本の一般家庭において、洗濯機は平均して週に4〜5回稼働するといわれています。洗濯1回あたりの水使用量は、機種や設定にもよりますがおよそ100リットル前後。年間で見れば、一家庭だけで数万リットルもの水が消費されている計算になります。これを人間以外の動物たちの水消費量と比べてみると、その差の大きさには驚くべきものがあります。しかし、私たちが直面している課題は、水の「量」だけではありません。

近年、深刻な問題として浮上しているのが自然界で分解されず海を大規模に汚染する「マイクロプラスチック(マイクロファイバー)」の流出です。環境省の資料によれば、ポリエステル製の衣類1枚を1回洗濯するだけで、数百本から数千本もの微細なプラスチック繊維が発生します。これらはあまりに小さいため、下水処理施設でも完全には除去しきれず、そのまま川へ、そして海へと流出していきます。

私たちが「服をきれいにする」という日常の行為が、実はSDGs目標14「海の豊かさを守ろう」に直結する大きな環境負荷を与えているという事実は、現代を生きる私たちにとって避けては通れない問いとなっています。

 

画像はイメージです

 

 

「洗剤ゼロ」が投げかける、洗濯の新しい選択肢

こうした背景から、いま注目を集めているのが「洗剤を使わない洗濯」というアプローチです。「汚れを落とすには合成洗剤(界面活性剤)が不可欠である」という、長年当たり前だった常識が、最新のテクノロジーによって見直され始めています。

その中心にあるのが「アルカリイオン電解水」を用いた洗浄技術です。洗剤(界面活性剤)の役割は、本来、水の表面張力を下げて繊維の奥まで浸透させ、油汚れを剥がし取ること。アルカリイオン電解水は、水を電気分解することでこの働きを科学的に代替します。

この技術の最大の特徴は、合成化学物質を一切使用しない点にあります。そのため、排水が環境に与えるインパクトを劇的に抑えることが可能です。また、洗剤の残留を心配する必要がないため、肌の弱い方や小さなお子様がいるご家庭にとっても、新しい「安心の基準」となっています。

国内では、株式会社ウォッシュプラスが提供する「wash+ Comfort(ウォッシュプラス・コンフォート)」などのシステムが、この技術をコインランドリーや宿泊施設へと広める役割を担っています。特定の製品を推奨するのではなく、こうした「洗剤レス」という選択肢が社会に現れたこと自体が、持続可能な未来に向けた大きな一歩と言えるでしょう。

 

宿泊業界のトップランナーが示す「責任あるサービス」

この革新的な洗濯システムは、いまや「環境への配慮」を経営の核に据える宿泊業界のスタンダードになりつつあります。

例えば、星野リゾートでは、世界自然遺産である西表島の「西表島ホテル」などでこの技術を導入しています。豊かなサンゴ礁に囲まれた繊細な生態系を守るため、排水による水質汚染を極限まで減らすことは、その土地でビジネスを行う上での切実な責任でもあります。さらに、IoT(Internet of Things*)技術により客室からランドリーの稼働状況を確認できる利便性も、宿泊客からの支持を得ています。

* モノのインターネット: 家電や機械などがインターネットを経由して相互通信する仕組み

 

また、「LOHAS(lifestyles of Health and Sustainability)」を掲げるスーパーホテルにおいても、全国の拠点で導入が進んでいます。環境負荷の低減に加え、すすぎ回数を減らすことで得られる約30%〜50%の節水効果は、SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」への直接的な貢献となっています。

 

これらの事例は、環境配慮がもはや「コスト」ではなく、宿泊施設の価値を決める「ホスピタリティの一部」であることを物語っています。

 

技術だけが答えではない――今日からできる「洗い方の見直し」

洗剤レス技術のようなイノベーションは素晴らしいものですが、最も重要なのは、特定の技術に頼ることではなく、私たち自身の洗濯習慣を少しずつアップデートしていくことです。今日から実践できる「地球に優しい洗濯」のアクションを整理してみましょう。

1.「まとめ洗い」を意識する 洗濯機を「少量を何度も」回すのではなく、容量の8割程度までまとめて一度に洗う。これだけで、年間の節水・節電効率は飛躍的に向上します。エネルギーを大切に使うことは、気候変動対策への第一歩です。

2.洗剤の「適正量」を改めて守る 「汚れているから多めに」という習慣は、実は逆効果です。過剰な洗剤は汚れ落ちを良くするわけではなく、すすぎに余分な水を使い、排水の汚染負荷を高めるだけです。各メーカーの推奨量を守ることが、最も基本的な環境対策です。

3.合成繊維には「洗濯ネット」を活用する ポリエステルやナイロンなどの衣類を目の細かいネットに入れて洗うことで、マイクロファイバーの流出を物理的に抑えることができます。これは海を守るための、非常に直接的なアクションです。

4.「生分解性」の高い製品を選ぶ 洗剤を購入する際、成分表示を確認し、生分解性が高いものや植物由来の成分を使用しているものを選ぶ。消費者がこうした製品を選び続けることで、メーカーの姿勢を変えていくことができます。 (SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」)

 

「消費者」から、未来を選ぶ「選択者」へ

環境省の2023年の調査によれば、日本の消費者の約42%が「環境に配慮した洗浄剤を好む」と回答しており、この意識は今後さらに高まると予測されています。

洗濯という、誰もが毎日行う行為。だからこそ、その一つひとつの選択が積み重なったとき、社会を動かす大きな力となります。最新の洗剤レス技術に触れる機会も、家庭でのささやかな工夫も、「環境のために何かを我慢する」ことではありません。知識とテクノロジーを賢く使い、私たちの生活をよりスマートで、より地球に優しいものへと進化させるプロセスなのです。

「きれいに洗う」という目的はこれからも変わりません。 ただ、その方法は――私たちが思っていたよりもずっと多様で、そしてもっと優しくなれるはずです。

明日の洗濯を始める前に、ほんの一瞬だけ、その排水が流れていく先の「青い海」を想像してみませんか。私たちの指先一つで、新しい洗濯革命はすでに始まっています。

 

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