ニュース・記事

VNL2024福岡大会をきっかけにして、福岡県と北九州市で継続、発展するSDGsスポーツ大会

2024年6月4日から16日にかけて開催された「買取大吉 バレーボールネーションズリーグ2024福岡大会」(VNL2024福岡大会)は、この大会をSDGs推進スポーツ大会にするという大会運営委員会の方針に、開催地である福岡県と北九州市が積極的に賛同し、運営委員会の一員となって、大会が企画、運営されました。このFIVB/VBと地方自治体がパートナーとなって大会を企画、運営するという新しい体制はそれまでになく画期的なことでした。そして、この地元との強力なパートナーシップをベースにして、大会内容の厚みを増す様々な事業が展開されたのです。

福岡県と北九州市では、VNL2024福岡大会での実績を梃に、その後もスポーツ大会におけるSDGsへの取組みを積極的に進めています。本稿では、VNL2024福岡その後の取組みにスポットを当てて、改めて大規模な国際スポーツ大会におけるSDGsとの関わりを考えたいと思います

 

VNL2024福岡大会の特徴

VNL2024福岡大会は、大会の主催者であるFIVB/VW(国際バレーボール連盟/バレーボールワールド)とその開催地元である福岡県/北九州市とがパートナーシップを組んで、企画段階から、SDGsを意識して取り組んだことが大きな特徴です。福岡県と北九州市が、大会に積極的に関与し、会場近隣の地元の方々の協力も大いに得られたことで、選手団の徒歩によるホテル、練習場、試合会場間の移動による地元との触れ合いや、ファンゾーンの設置による選手とファンの対面交流など、「街と選手とファンの一体化」を体現した、画期的で、心温まる取組みが展開されました。

(詳しくは、本ポータル「地域との強力なパートナーシップをベースに、地元との関係が大きく広がったスポーツとSDGsの世界」記事をご覧ください。)

 

VNL2024 福岡大会で話題を呼んだファンゾーン

 

VNL2024福岡の後も継続・発展している事業

福岡県、北九州市では、VNL2024福岡大会の後も、数々の国際スポーツ大会を開催しています。その主な大会は次の通りです。

・第2回FIGパルクール世界選手権・北九州 <パルクール>

(勝山公園内特設会場、令和6年11月15日~17日)

・WTTファイナルズ福岡2024 <卓球>

(北九州市立総合体育館、令和6年11月20日~24日)

・東急不動産ホールディングスBreaking World Match 2025 <ブレイキン・ブレイクダンス>

(J:COM北九州芸術劇場大ホール、令和7年2月22日)

 

これらの大会では、VNL2024福岡大会での経験を踏まえて、以下のようなSDGsの取組みが進められました。これらはすべて同大会で実施されたもので、いずれも地元自治体の積極的な姿勢なしでは実現していないことばかりです。特に、福岡県では、人と動物と環境の健全性は一つと捉え、一体的に守ろうとする「One Health(ワンヘルス)」を推進しています。このワンヘルスに取り組んでいることが、福岡でVNLが開催されるに至った理由の一つとされています。このワンヘルスは、福岡におけるその後のスポーツSDGs の展開にも大きく寄与しています。

 

 

地元の全面協力があればこその事業

ⅰ ミールチケットの導入(食品ロスの削減)(福岡県、北九州市)

大規模なスポーツ大会では、大会を支えるスタッフに食事を提供していますが、各人のタイミングで食しやすいお弁当を配付することが一般的ですが、様々な理由により、食べ残しなど食品ロスが発生します。VNL2024福岡大会では、このお弁当配付に替えて近隣飲食店で使用できるミールチケットを配るようにしたところ、関係者、スタッフの間では極めて好評でした。

むろん、ミールチケットの配付、使用後の精算などには、それなりの手間が発生しますが、地元関係者の熱意と労力により、上記の国際大会すべてでミールチケットが導入されました。温かいできたての料理が食べられる、使えるお店の種類が豊富である、好きなときに好きなものが食べられるなど、多くの好意的な声が寄せられました。外に食べに行く暇がない、空いた時間にすぐ食べられるお弁当の方が良いなどの意見もありましたが、この事業を継続していく中で、より充実した内容になることが期待されます。

 

ⅱ ゴミ処理の展開(北九州市)

大会で発生したゴミは、地元自治体のルールに従って処理されることになります。北九州市は、環境首都として全国的にも環境先進都市であり、環境分野への取組みを積極的に行っており、これらのスポーツ大会での、ゴミ分別に積極的な協力をお願いすると言った取組みを通じて、市民の環境意識向上に繋げることができました。

 

ⅲ ワンヘルスの普及、促進(福岡県)

第2回FIGパルクール世界選手権・北九州やWTTファイナルズ福岡2024で、ワンヘルスの普及促進のためブースを出展し、来場者の方々にワンヘルスの取組みを伝えました。また、東急不動産ホールディングスBreaking World Match 2025では、ワンヘルスブースの出展のほか、同じ日に別会場で開催されていたワンヘルスの国際フォーラムと中継をつなぎ、大会におけるワンヘルスの取組みを国際フォーラム参加者へ紹介するなど、タイムリーな企画となりました。

 

ⅳ 福岡県特産(花き、果物)の提供(福岡県)

福岡県は、全国でも有数の花きの生産地です。第2回FIGパルクール世界選手権・北九州において、県産花きによる会場装飾を行い、WTTファイナルズ福岡2024では、県産花きによる会場装飾のほかビクトリーブーケの贈呈、ワンヘルス認証農林水産物(果物)を提供しました。

 

WTTファイナルズ_県産花きによる会場装飾

 

ⅴ フードドライブの実施(福岡県)

フードドライブとは、家庭などで食べなかった、未開封で個包装の食品を持ち寄り、フードバンクや子ども食堂、福祉施設などに寄付する活動です。東急不動産ホールディングスBreaking World Match 2025で、食品ロスの削減に繋げていくため、フードドライブが実施されました。

 

ⅵ 医師、看護師、救急車手配(福岡県、北九州市)

大規模なスポーツ大会では、医療関係者の協力が欠かせません。第2回FIGパルクール世界選手権・北九州やWTTファイナルズ福岡2024では、医師や看護師、救急隊が常駐しました。このように、国際スポーツ大会における医療連携体制は、VNL2024福岡大会後の大会等でも応用されており、緊急対応の質の向上に寄与しています。医療機関と行政の連携が進み、国際スポーツ大会における医療連携体制や危機管理能力の底上げに繋がっています。

 

環境破壊を伴わない既存施設の利用と、好立地条件をベースにした事業の広がり

ⅰ シティドレッシング(北九州市)

シティドレッシングは、北九州市ならではの取組みとして関係団体等からも評価されています。VNL2024福岡大会後も広告媒体としての街の活用が継続され、パルクール世界選手権やBreaking World Match2025はもちろん、その後の大会でも行われています。地域資産としての都市空間を活用して、まち全体をステージにという発想が根付くきっかけとなりました。

 

VNL2024福岡大会の際のJR小倉駅・階段広告

 

WTTファイナルズ_小倉駅ストリートサイネージ

 

パルクール ペデストリアンデッキバナー

 

パルクール 魚町商店街のぼり

 

ブレイキン 小倉駅大型バナー

 

ⅱ 選手団の徒歩によるホテル、練習場、試合会場間の移動による地元との触れ合い

上述のように、他の大会でもミールチケットが導入され、大会関係者だけでなく選手にも配布されました。このこともあって、選手たちが北九州市小倉の街に出て食事や買い物を楽しんでいる姿が多く見られ、市民の皆さんとの交流のよき機会となりました。

 

ブレイキン試合前後に選手が街を回遊している風景

 

ⅲ 選手とファンの対面交流

WTTファイナルズ2024福岡では、試合会場外の特設サイン会場で、サイン会や写真撮影会が行われました。また、出場選手たちのトレーニングを見学できる「練習見学チケット」や、試合会場にて選手を間近で応援できる「プラチナムチケット」も販売されました。

第2回FIGパルクール世界選手権・北九州や東急不動産ホールディングスBreaking World Match 2025でも、試合の前後に選手が街中を回遊するなど、選手と市民との距離間が縮まりました。

 

ⅳ 隣接エリアでのにぎやかしイベントの実施(ブース出展)(福岡県、北九州市)

第2回FIGパルクール世界選手権・北九州では、会場周辺でパルクールの体験会やキッチンカー、食事ブースが出され、大勢の市民で賑わいました。

また、WTTファイナルズ福岡2024でも、試合会場付近にキッチンカーや飲食ブースが設けられました。この試合前の前座として、小倉祇園太鼓保存振興会による太鼓演奏や北九州ダンス協会の協力のもと地元ダンスチームによるダンス披露など、北九州市ならではの演目が行われ、賑わいに花を添えました。

 

WTTファイナルズの小倉祇園太鼓演奏

 

WTTファイナルズ_地元ダンスチームのオープニングアクト

 

パルクール 一般交流

 

ⅴ ボランティアとの触れ合い(福岡県、北九州市)

第2回FIGパルクール世界選手権・北九州やWTTファイナルズ福岡2024では、大会運営補助を目的としたボランティアを募集しました。ボランティアと選手との特別な触れ合いの機会はありませんでしたが、単なる業務ではなく、大会に関わっている感覚を持ってもらうよう心を砕いたとのことです。なお、北九州市は、VNL2024福岡で活躍していただいた学生ボランティアについては、その後もネットワークを継続しているそうです。

 

<試合観戦の裾野を広げる工夫(観戦料金の設定)>

ⅰ 観戦料金の設定

VNL2024福岡での実績を踏まえ、可能な範囲で、子どもの観戦機会が増えるような仕掛けを主催者等に働きかけています。また、外国戦単独販売の設定については、現時点ではそういった大会事例は出て来ていませんが、今後の検討材料とするため、様々な事例を蓄積しているところです。

 

<子どもたちの多様なスポーツ機会の創出>

ⅰ 次代を担う小学生の観戦招待(福岡県)

WTTファイナルズ福岡2024では、県内の小学6年生を対象とした観戦招待が実施されました。全部で16校・780人の小学生が、生で世界レベルの卓球を観戦し、その醍醐味を味わうことができました。

 

VNL2024 福岡を観戦した子供たち

 

ⅱ 出前教室を通じての交流(福岡県)

第2回FIGパルクール世界選手権・北九州やWTTファイナルズ福岡2024にて、県内のトップアスリートによる出張指導教室が実施されました。パルクール世界選手権では、小学校19校1,133人が参加し、WTTファイナルズでは、中学校・高等学校の計8校241人が指導を受け、トップアスリートとの貴重な触れ合いの機会となりました。

 

パルクール 小学校交流

 

 

終わりに

このように、福岡県、北九州市では、VNL2024福岡を端緒にして、その後のスポーツ大会でも「街と選手とファンとの一体化」とも言うべき数々の取組みが実施されました。関係者のご努力に、改めて敬意を表したいと思います。

本ポータルの「VNL2024福岡大会の意義 V まとめ」で述べたように、VNL2024福岡では、SDGsの大前提ではあるけれども、なかなか理解が浸透しない、「17の目標の全てが同時に実行、実現される時にのみ、持続可能な社会が実現する」というSDGsの理念が、個別の事業のレベルで文字通りに実行された時、自然発生的に広範な人々の賛同と共感と協力を呼び起こし、そのスポーツ大会を持続可能にし、その大会が行われた土地に、人々が一体となった持続可能な社会のミニチュアが実際に現出しました。

そして、それらが一過性に終わらず、その後も継続していることは、実に驚くべきことです。すなわち、このような事業は、一握りの人が頑張ったとしても続けることができるものではありません。VNL2024福岡では、大会の後、地元の方々から、次のスポーツ大会でも、ミールチケットなどの事業をやって行きたいとの声が上がり、それが事業継続の原動力の一つになっています。大会関係者、選手は無論のこと、地元自治体、地元の市民の皆さんなど、関係する多くの方々の、持続可能な社会の実現に向けての前向きな思いが大切であることを改めて思わされます。その際の大会主催者と地方自治体のパートナーシップが果たす役割の大きさは測りきれないほどです。

そして、VNLではバレーボールでしたが、今回取り上げた大会は、パルクール、卓球、ブレイキン・ブレイクダンスと、スポーツの種類は異なります。このことは、これらの取組みが特定のスポーツでしか実現しないということではなく、どのようなスポーツの大会であったとしても、今回のような取組みができるということを示しています。さらに言えば、スポーツに限ることなく「17の目標の全てが同時に実行、実現される時にのみ、持続可能な社会が実現する」というSDGsの理念を実現していく道筋も示唆しています。

今回の取組みを通じて、このSDGsの理念が決して絵空事ではなく、今後の展開に希望を抱かせるものとなりました。

 

資料提供:VNL2024福岡大会組織委員会、福岡県、北九州市

ページのトップへ戻る