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<スポーツとSDGs> VNL2024福岡大会の意義 III 大会会場の立地条件とSDGs

VNL2024福岡大会(*)の意義に関する連載の第3回目は、試合会場となった北九州市・西日本総合展示場の立地条件を利用して、SDGsのすべての目標が実現された様子を見ていきます。

* 「買取大吉 バレーボールネーションズリーグ2024福岡大会」(VNL2024福岡大会)2024年6月4日から16日にかけて約2週間にわたって福岡県北九州市で開催

<目次>

1. 西日本総合展示場を取り巻く大会関連施設

(A)ホテル

(B)あさの汐風公園

(C)駅周辺の商業施設

2. 環境破壊への施策と立地条件

(1)食品ロス削減の取り組み

(2)ゴミ処理の取り組み

1. 西日本総合展示場を取り巻く大会関連施設

SDGsを旗印にしたVNL2024福岡大会にとって、大会会場である西日本総合展示場付近の立地条件の良さは次の2点にあります。

1)メイン会場とトレーニングルーム施設からなる試合会場は、

(A)ホテル、(B)公園、C)駅周辺の商業施設

という3つの関連施設と数分の徒歩圏内にあり、すべての施設を歩いて巡ることができる。

2)それぞれの施設の特徴がSDGs施策に特有の仕方で対応している

本大会では、この地理的利便さとそれぞれの施設の特徴を生かして、大会におけるSDGsすべての目標をカバーする試みが実行されました。そしてそれは、街と選手とファンの一体化に自然とリンクすることになりました。

以下にそれぞれの関連施設の立地条件と特徴を検討し、それらに基づいたSDGs施策を見ていきます。

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本大会の様々な取組とSDGsの17のそれぞれの目標との関連は、本連載の最終編のまとめの最後に掲載しています

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(A)ホテル

1)環境保護とアスリートファースト

大会会場自体に加えて、大会になくてはならないもう一つの施設は、世界各地から集まった選手団が滞在するホテルです。従来の大会では、ホテルは大会会場やトレーニングジムからは遠く離れたところにあり、選手たちは試合の都度、バスなどの交通機関を使って移動せざるを得ませんでした。

本大会では、試合会場およびトレーニング施設等がある西日本総合展示場から徒歩2分のところにリーガロイヤルホテルがあり、そこが滞在施設として利用されました。

この地理的条件は、

① 選手団のバス移動等による環境負荷がない

② 利便性などアスリートファーストが実現

を達成しました。

実際、選手たちは2週間ほどの間、このホテルに滞在し、そこで寝起きし、食事をし、生活したのですが、そこから歩いて2分のところに、本番の試合会場とそれに付随した練習場やトレーニングジムがあるという状況は、どれほど選手たちにとってリラックスでき、嬉しいことであったかは容易に想像がつきます。実際、この地理的環境は、選手たちから絶大な支持を受けました。

2)選手たちと市民を街中で繋ぐ

大会期間中、選手たちには、ホテルと試合会場の間を自分の足で移動しました。このことによって、全国各地から集まったファンや地元の人たちが、海外の選手たちを街中で間近で見ることができ(なかには2mを超える選手もいて実際に見た人はその迫力に圧倒されます)、一緒に写真を撮ったり、握手をすることで、地域との一体化を象徴する画期的な取組となりました。

3)ホテルでの食事:食品ロスの軽減

選手団の食事は、体調管理や利便性などの理由により、ホテルで提供されました。

その際、大会に付随する必要量以上の食品の用意や食べ残し等による食品ロスを軽減するために、ホテル側と選手側の双方の理解と協力のもと、有効な取組がなされました。この取組の詳細は、後の項で見ていきます。

(B)あさの汐風公園

試合会場である西日本総合展示場のすぐ横には、市民に親しまれている「あさの汐風公園」があります。試合会場に隣接したこの広い空間は、SDGs推進国際スポーツ大会として地域ぐるみの大会を実現するための、様々な企画を実行するのに打ってつけのものでした。

1)大型ビジョンと飲食休憩スペース、キッチンカーの展開

今回のバレーボールの国際試合を核にして、試合のパブリックビューイングを楽しみながら、飲食や休憩のための会場設営がなされ、試合場での観客のみならず、公園を訪れた市民や観光客など、様々な国籍や年齢層の老若男女が、バレーボールの国際試合を中心に集いました。

公園内には27店舗ものキッチンカーが福岡県によって展開され、大会関係者や観客、観光客、市民の食が提供されました。

2)福岡県にぎやかしイベント:各種ブースの設置

企画段階からSDGsを意識して取り組んだ大規模な国際スポーツとなるバレーボール大会と並行して、福岡ワンヘルスに関連した多様なイベントがブース設営などにより実行されました。

*福岡県関連のブース

 ・ワンヘルスブース:ポスター、チラシ等によるワンヘルス理念の発信

 ・食ブース:ワンヘルス認証農林水産物の販売・試食

 ・花ブース:県産の花きを活用したフォトスポット

 ・観光ブース:県内周遊ルート情報の提供

*バレーボール体験ブース:スパイクスピード測定、ジャンプ体験、記念撮影

*バレーボール日本代表グッズ販売

このように、試合会場の外においても大会を楽しむことで、地元と選手団、大会スタッフ、バレーボールファンの交流が深まりました。同時に、SDGsとワンヘルス関連の取組が大会参加者のみならず、広く市民に浸透する良い機会となりました。

(C)駅周辺の商業施設

残る大会関連施設である小倉駅周辺の商業施設と小倉駅に関しては、環境保護の取組との関連で見ていきます。

2. 環境破壊への施策と立地条件

(1)食品ロス削減の取り組み

本⼤会では、日本におけるVNLの大会としては初めて、食品ロスの削減の取組に、関係者と観客・市民が一丸となってチャレンジしました。

この食品ロス削減の取組の成功は、食事に関わる諸施設が、大会会場の周辺に集まっており、関係者が大会会場から短時間で歩いていけるという立地条件と、各店舗などの非常に積極的な協力に依存していました。

以下に、大会に参加した人々の食事の取り方に従って、食品ロス削減の取組とその成果を見ていきます。

① 大会スタッフ:        ミールチケットによる飲食施設での食事

② 選手団:                    ホテルでの食事

③ 観客:                        色々 → ゴミ処理

① 大会スタッフ:大会における食品ロスの最大の原因

1)ミールチケットによる食品ロスの大幅削減の成功

本⼤会では、通常の大会でのフードロスの大きな原因である延べ4,000人以上の大会スタッフへの1日2食の弁当配付が廃止され、代わりに、ミールチケットが配付されました。それらのミールチケットは、大会会場から徒歩圏内にある小倉駅近辺の商業施設のレストランや試合場隣の「あさの汐風公園」イベント会場でのキッチンカーで使用され、食事をしてもらう形が採用されました。その結果、従来なら2,000食にも及ぶと予想された弁当の廃棄が無くなり、画期的なフードロスゼロが実現しました。

2)大会スタッフの自覚:好立地条件を活かす人々の感性と自覚

利便性の高い弁当の代わりに、秒単位で進行するバレーボール試合に関わるスタッフたちが忙しい仕事の合間に街に出て食事を済ますというミールチケット制は、それが短時間の徒歩圏内で可能である本大会の立地条件なしには実現不可能でした。

とはいえ、スタッフに余計な負担を強いて、うまく機能しない恐れが非常にありました。しかし、いざ蓋を開けてみると、ミールチケット制は、大会前の周知徹底もあり、スタッフたちに、快く受け入れられました。そればかりではなく、スタッフの間では、各⾃のタイミングで、街中で、好きなものを注⽂でき、フードロスが出ないこと、アレルギー/宗教上禁忌が解消され、2週間以上の長丁場の間の食事に多様性が得られたこと、小倉の街を知り、地元の人々に触れることができたこと、など多様性に富んだ非常にポジティブな感想が占めました。

また、ミールチケット制という新しいSDGs推進の試みに当事者として携わることで、SDGsに対する意識が高まるというメリットも生み出しました。

さらに、SDGsによる大会のポジティブな変化により、大会に対する意識改⾰がなされ、地域との一体化が進行するという⾏動様式の変更も実現される結果となりました。

3)円滑な官民連携

ミールチケット制は、試合会場から徒歩数分の圏内にある小倉駅周辺の地元飲食店の協力が必須でした。この問題は、SDGs推進に積極的に賛同したSDGs未来都市・北九州市と、各店舗取り纏め社と各店舗の迅速かつ積極的な協力によりスムーズに実現されました。

また、試合会場に隣接したあさの汐風公園イベント会場での27店舗ものキッチンカーの展開は、福岡県の采配とキッチンカー業者の献立やスタッフと一般市民との臨機応変な対応の実現などの協力のもと、非常にスムーズに進みました。

 

4)小倉駅周辺の大型商業施設の協力と地元への貢献

SDGs推進策として導入されたミールチケット制は、売上が上がる取組みで、協力店から⾮常に好評価で迎えられました。その結果、ミールチケットを使用できる飲食店は合計116店にも上り地元への経済普及効果が実現しました。

*   *   *

VNL史上初めて取り入れられたSDGs推進の試みであるミールチケット制は、導入前から実施中に至るまで、地元の深い理解に支えられることで成功しました。

さらに、地元の歓迎を直接感じられることで、大会スタッフがストレスを感じることなくミールチケットを使⽤でき、スタッフの充実感、⼀体感も⾼まる効果が得られました。小倉であれば他イベント等でも同様の取組みを円滑に導⼊できると確信させる結果です。

ミールチケット制により、スタッフを⾷事のために会場外へ誘導することで、地元の経済効果の範囲拡大にもつながり、SDGs推進が地域振興と街の賑わいの創出に大いに貢献する良い事例となりました。

さらに、地元にも、「他イベントでも同様の取組みを円滑に導入できる」ということを経験としてもたらすことになりました。

② 選手団:ホテルにおける選手団の食品ロス削減

選手団の食事は、試合会場から徒歩2分のホテルのレストランで提供されました。選手団の食品ロス削減の取組は、ホテル側の協力を得て実施することができました。

まず、個別注文に応じるのではなく、ブッフェスタイルによる大皿で食事が提供されました。

同時に、選手たちによる食べ残しを減らす啓蒙活動として、⾷事会場に、本大会におけるフードロス軽減の取組みについて呼びかけるポスターを掲示し、各テーブル上に三角柱のポップが設置されました。

その結果、選⼿らのフードロス軽減への意識が⾮常に⾼まり、取り分けた料理は完⾷するなど、個⼈に起因するフードロスは極めて少ないこととなりました。

この毎回の食事での⼤⽫への提供に関しても、ホテル側のきめ細やかな工夫により好評を得ることができました。

③ 観客

観客はそれぞれに食事をとっていましたが、食べ残しや、弁当がらの廃棄に関して、後にゴミ処理の項で説明するように、試合会場やイベント会場などでのSDGs広報と分別用ボックスの配置によって、積極的にゴミの分別にご協力いただき、環境に考慮した取り組みが、成功裏に実行されました。

④ フードドライブの実施

未開封の食品は、福岡県・北九州市が取組む活動「フードドライブ(家庭などで食べなかった食品(個包装)を持ち寄って寄付する活動)」を活用するため、回収ボックスとノボリを会場周辺に4箇所設置し、その結果、回収ボックス1箱分の⾷品が集まりました。これらは(⼀社)福岡県フードバンク協議会によってフードバンクや⼦ども⾷堂、福祉施設などに寄付されました。

(2)ゴミ処理の取り組み

大規模国際バレーボール大会では、通常の分別処理が可能な一般ゴミと、大会特有なゴミが発生します。本大会では、一般ゴミは、自治体の指導に沿った分別により処理され、大会特有のゴミは、SDGs施策としてのごみ処理リノベーションに回されました。

① ゴミの分別とSDGs推進の啓蒙

このメリハリをつけたごみ処理に必要なゴミの分別は、試合会場とイベント会場でのゴミステーションの設置と、それに伴う様々な広報によって、選手、スタッフ、観客をはじめ、イベント会場に来られた市民や観光客も含めた方々の積極的な協力のもと見事に達成されました。

* 「あさの潮風公園」イベント会場にゴミステーションが設置され、プラスチック、ペットボトル、カン、燃えるゴミの分別が実施されました。

* 男子日本代表の山本智大選手からの「クリーンな大会にご協力ください」という動画メッセージを、SNSや、試合会場内と公園のパブリックビューイング⽤⼤型ビジョンで放映するという非常に効果的な取り組みの啓蒙がなされました。

* 『本⼤会は、次の世代もスポーツを楽しめるよう、サステナブルな⼤会を⽬指し、取り組んでいます。応援後のスティックバルーンは、お帰りの際に座席に置いていただくか、出⼝の回収ボックスに⼊れてください。ご協⼒をお願いいたします。』

という館内放送で、観客に呼びかけました。

その結果、過去の国際バレーボール⼤会では、会場周辺にスティックバルーンが廃棄されていることがありましたが、今大会では⾒当たりませんでした。

以上のように、大会組織委員会が様々な取組をしたことで、多くの観客の協力を得ることができました。

② 各種一般ゴミの処理方法

1)ペットボトルと一般ゴミ

ゴミ分別後、ペットボトルと一般ゴミは、収集運搬・処理費⽤が安価である⻄⽇本総合展⽰場の指定処理業者によって、ペットボトルは⾃治体の指導に従ったリサイクル、紙くずなど⼀般ゴミは従来の焼却処分とされ、環境に配慮しつつ、⼤会コストを抑える方法が取られました。

2)弁当がらなど分別困難なプラスチック+生ゴミ

⼀般的にプラスチックのリサイクルには⽣ゴミとの分別が必要ですが、⼤規模イベントでは実現が困難です。そこで今大会では、プラスチックと⽣ゴミを分別せず⼀緒に、CO2をほとんど排出しない⾼温⾼圧加⽔分解システム(燃やさない)方式で固形燃料にリサイクルするという、環境に配慮した処理方法が採用されました。

この⼿間とコストを抑えた汎⽤性のある⾼温⾼圧加⽔分解システムは、ゴミ分別が困難な⼤規模イベントでも導⼊しやすいゴミ処理⽅法としてモデル化することが可能であると考えられます。

③ 大会特有のゴミ:廃棄物処理の技術イノベーション素材に利用

本大会は、⻄⽇本展⽰場内に、再利⽤可能な仮設スタンドを組んで、パイプ椅⼦を並べて試合会場が設営されたため、環境負荷が大幅に軽減されました。しかし、再利用ができない仮設階段⽤⽊材カーペットなどが、会場設置に伴うゴミとして発生しました。

また、バレーボール大会には、応援のためスティックバルーンが欠かせません。本大会では、最大13,193人、大会平均7千人の観客が来場し、大量に発生する使用済みのスティックバルーンの適切な処理も必要でした。

これらの大会特有のゴミである、廃木材、廃カーペット(繊維クズ)、大量のスティックバルーンは、他のリサイクル不能な廃プラスチックと共に、遠⾚外線と触媒(燃やさない、化学薬品を使わない)で廃棄物を減容化、再資源化する新しい処理技術eMAC(イーマック)の実⽤化に向けた素材として回収(株式会社輝陽http://kiyou-fuji.com/)、利用されました。

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以上のように、食品ロスとゴミの排出という大規模国際スポーツ大会に伴う2大環境負荷の大幅な軽減が、大会会場と関連施設の集約的な立地条件下で、施設とその特徴を活かし、ミールチケット制などの画期的なSDGs施策と啓蒙、そして適切な処理方法によって、そこに集った多くの人々の協力を得ることができ、見事に達成されました。

同時に、その成果は、それを担った多くの人たちに、スポーツ大会と結びついたSDGs推進の手応えを感じてもらうことができたと思われます。

航空写真:Google Earthより

資料提供:VNL2024福岡大会組織委員会(SDGs部門)

文責:あおやま あきら

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