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基礎科学が拓く持続可能な未来-北川進氏のノーベル化学賞と研究成果を社会実装へ繋ぐ「ベンチャー精神」

2025 年、京都大学の北川進特別教授がノーベル化学賞を受賞しました。その受賞理由は、規則的な微小な孔を持つ結晶性材料である「金属有機構造体(MOF: Metal-Organic:Frameworks/多孔性配位高分子、PCP)」の開発とその応用の先駆的研究です。
北川氏の研究は、一見ミクロな「分子の世界に孔をつくる」という基礎科学の探求でありながら、地球規模の課題解決へ直結する可能性を秘めています。特に、MOFが示す基礎研究と社会実装の統合は、SDGs(持続可能な開発目標)達成に向けた日本の科学技術の重要な潮流を象徴しています。

 

MOF研究が SDGsにもたらす具体的な貢献

北川氏らが開発したMOF/PCPは、孔のサイズ、形状、化学的性質を自在に設計できる特性を持ち、ガスの吸着・貯蔵・分離、触媒反応場など、多岐にわたる応用が期待されています。これらの技術は、以下の複数の SDGs 目標に貢献します。

1. 目標 13「気候変動に具体的な対策を」:MOFを二酸化炭素(CO₂)の吸着・分離技術として活用することで、カーボンニュートラル社会の実現を後押しできます。

2. 目標 7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」:水素やメタンといったエネルギーガスを効率よく貯蔵・輸送できる技術は、クリーンエネルギー社会への移行を支える重要な要素です。

3. 目標 9「産業と技術革新の基盤をつくろう」:MOFは新しい産業材料として、効率的な分離・回収プロセスを実現し、産業構造を環境負荷低減型へと変革する可能性を秘めています。

MOF研究は、エネルギー、産業、気候、資源といった複数の課題を横断的に支える科学的基盤となり得ると期待されており、持続可能な社会づくりにおける「架け橋」の役割を果たすことが見込まれています。

 

基礎と応用の壁を取り払う北川氏の「ベンチャー哲学」

北川氏の研究の真髄は、基礎科学の深掘りと同時に、その成果を社会に還元しようとする強い意志にあります。
北川氏はこれまでのインタビューで、「構造を自在にデザインすることの面白さ」の追求と並行して、「化学の力で社会に貢献したい」という強い思いを語ってこられました。
この哲学は、研究成果を学会論文という枠を超えて、具体的な産業応用へと発展させるというベンチャー的な発想として具現化されています。

• 社会実装への明確なステップ:北川氏の研究基盤をもとに、京都大学発のベンチャー企業であるAtomis(アトミス)が設立されました。

• 技術展開:Atomisは「Cubic Aerosol」や「CubiTan®」といった技術を通じて、ガスの高効率な貯蔵・輸送を可能とする新素材の開発を目指しています。
このような取り組みは、基礎科学の研究者が、自らの発見を社会課題解決の道具として積極的に活用しようとする姿勢を示しており、まさに基礎研究が社会課題解決につながるという日本の研究文化を象徴する成果でもあります。

 

基礎研究と社会実現を統合する日本の潮流

北川氏の成果は、日本の科学界において長年にわたり見られる、「基礎的な大発見」を持続可能な社会実現に向けて応用へと結びつける重要な潮流の一つです。

北川氏の成果が象徴するように、日本の科学研究には、基礎科学の発見が社会課題解決につながるという伝統的な文化があります。

古くは江崎玲於奈氏のトンネルダイオード研究、そして田中耕一氏(質量分析)、吉野彰氏(リチウムイオン電池)、山中伸弥氏(iPS細胞)など、日本の多くのノーベル賞受賞者の功績は、純粋な好奇心に基づく基礎研究が、後に環境、エネルギー、医療といった分野で持続可能な社会を実現するためのブレイクスルーとなった事例です。

 

SDGs達成における企業活動の重要性

科学的発見を社会に根付かせ、SDGsを達成するためには、北川氏が設立に関わったAtomisのような企業活動が非常に大きな力を持ちます。

• イノベーションの橋渡し:企業は、大学や研究機関で生まれた基礎的な「知」を、市場のニーズに合わせた具体的な製品やサービスに変換する「橋渡し役」を担います。
• 持続可能な化学の実践:MOF/PCPを応用した技術は、CO₂削減や効率的な資源利用を可能にする「サステナブル・ケミストリー(持続可能な化学)」の中核テーマとして世界的に注目されており、企業がこれを推進することで、目標 12「つくる責任、つかう責任」の実践にも繋がります。

 

日本の“ベンチャー精神”が拓く未来

京都大学の北川進氏によるノーベル化学賞受賞とその研究(MOF/PCP)の社会実装への流れは、マスコミで時に喧伝される「日本でベンチャー企業が育たない的」な思い込みを力強く否定するものです。
これは、むしろ日本の科学技術における伝統的な強み、すなわち純粋な好奇心に基づく基礎研究が、持続可能な社会実現のための応用へと結びつく文化を再認識させる重要な潮流を象徴しています。

北川氏の研究の真髄は、「構造を自在にデザインすることの面白さ」の追求という基礎科学の深掘りと並行して、「化学の力で社会に貢献したい」という強い意志(ベンチャー哲学)を統合する姿勢にあります。日本の多くのノーベル賞受賞者(江崎氏、田中氏、吉野氏、山中氏など)の功績が示してきたように、基礎科学の発見が、後に環境、エネルギー、医療といった分野のブレイクスルーにつながることは、日本の研究文化における長年の伝統なのです。

MOF研究の成果を基盤として京都大学発ベンチャー企業Atomisが設立されたことは、基礎研究者が自らの発見を社会課題解決の道具として積極的に活用する、具体的な「社会実装への明確なステップ」であり、企業が大学で生まれた基礎的な「知」を市場ニーズに合わせた具体的な製品やサービスに変換する「橋渡し役」を担う重要性を示しています。MOF/PCPの応用技術は、CO₂削減や効率的な資源利用を可能にする「サステナブル・ケミストリー」の中核テーマとして世界的に注目されており、エネルギー、産業、気候、資源といった複数の課題を横断的に支える科学的基盤となり得ます。

この社会実装への積極的な動きは、最近危惧されている日本における基礎研究の衰退に対する力強い回答となります。純粋な「知」の探求(ミクロな分子の世界)がAtomisのような企業活動を通じて社会価値を持つことで、その価値を生み出す基礎研究そのものへの投資と意欲が向上します。これは、基礎研究の活性化とSDGs達成の両方をもたらす「win-win」の結果です。私たちは、この日本の伝統的な「ベンチャー精神」と科学の力を信じ、自信をもって持続可能な未来を築くための活動を推進すべきではないでしょうか。

 

 

<この記事に関連するSDGsの目標>

 

ゴール07.エネルギーをみんなにそしてクリーンに

すべての人が、安くて安全で現代的なエネルギーを
ずっと利用できるようにしよう

 

ゴール09.産業と技術革新の基盤をつくろう

災害に強いインフラを整え、新しい技術を開発し、
みんなに役立つ安定した産業化を進めよう

 

ゴール12.つくる責任つかう責任

生産者も消費者も、地球の環境と人々の健康を守れるよう、
責任ある行動をとろう

 

ゴール13.気候変動に具体的な対策を

気候変動から地球を守るために、今すぐ行動を起こそう

 

 

関連するゴール

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