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【トレンド・ウォッチ】海から人が消える夏―猛暑を社会の再設計につなげる

夏になれば海へ行く。子どもたちは公園で遊び、地域では祭りが開かれ、炎天下の競技場ではスポーツが行われる。こうした、長い間当たり前と思われてきた「日本の夏」の風景が、いま変わり始めています。

 

画像:SDGs JAPAN PORTAL 編集部制作

 

 

海水浴人口は、この約40年間で大きく減少しました。

TBS NEWS DIGが公益財団法人日本生産性本部の「レジャー白書」をもとに報じたところによると、海水浴の参加人口は、1985年の約3,790万人から2024年には約440万人へ、9割近く減少しています【参照1】。

この長期的な「海離れ」には、余暇の過ごし方の多様化、海までの距離や移動の手間、日焼けへの抵抗感、時間がないことなど、さまざまな理由が重なっています。したがって、約40年間にわたる海水浴人口の減少を、猛暑や地球温暖化だけで説明することはできません。

しかし近年、すでに進んでいた海離れとは別に、「暑すぎる」という新たな問題が、夏の海辺に加わりました。日陰の少ない砂浜、強い日差し、焼けるような砂、高温になる駐車場。かつて暑さをしのぐために訪れた海辺でも、いまは海水浴そのものに加えて、滞在中の厳しい暑さや熱中症を警戒しなければならなくなっています。

 

ニュースの紹介―海だけではない「外で過ごせない夏」

猛暑による行動の変化は、海水浴だけにとどまりません。

気候変動が健康に及ぼす影響について啓発活動を行う「医師たちの気候変動啓発プロジェクト」と東京科学大学未来社会創成研究院が、全国の3~9歳の子どもを持つ保護者800人を対象に行った調査では、子どもが外遊びをできなかった理由として、77%が「暑すぎたから」と回答しました【参照2】。

公園の遊具や地面も高温になり、個人の努力では限界を感じて、保護者は安全に遊べる屋内施設など、代わりの場所を探さざるを得なくなっています。

 

スポーツも、従来どおりには実施できません。

日本陸上競技連盟は、2026年度以降の主催競技会について、日本スポーツ協会の「熱中症予防のための運動指針」に沿って、暑さ指数(WBGT)が28以上の場合には長時間の活動を避け、31以上では原則として競技を中止、中断または延期するとしています【参照3】。暑さ指数(WBGT)とは、気温だけでなく、湿度や日射・照り返しなどの熱も取り入れて、熱中症の危険度を示す指標です。数値が28以上で「厳重警戒」、31以上で「危険」とされます【参照4】。暑さを前提に、競技の時間や運営方法そのものを変えなければ、安全を確保できない時代になったのです。

 

地域の夏祭りでも、変化が始まっています。

猛暑と熱中症を避けるため、開催時期を8月から6月や9月へ移したり、開催そのものを中止したりする自治体が出ています【参照5】。これは単なる日程変更ではありません。祭り、海水浴、スポーツなどによって形づくられてきた「日本の夏」という季節文化そのものが、気候に合わせて組み替えられ始めているのです。

 

暑いからといって活動をやめられない人もいます。

建設、農業、配達、運輸など、屋外や高温環境で働く人々は、健康上の危険にさらされるだけでなく、労働時間や生産性の低下による経済的な影響も受けます。とりわけ、働く時間を自分で調整しにくい人や、休業によって収入が不安定になりやすい人ほど、その影響は深刻です【参照6】。

 

外出を控え、家にいれば安全とも限りません。

総務省消防庁によると、2026年7月20日から26日までの1週間に、全国で18,591人が熱中症によって救急搬送されました。発生場所で最も多かったのは住居で、全体の約4割を占めています【参照7】。

高齢者には暑さを感じにくい人もおり、電気料金を気にして冷房を控える場合もあります。猛暑は、人を屋外から家の中へ追いやり、その家の中でも生命を脅かします。

2026年4月、気象庁は最高気温40℃以上の日を「酷暑日」と呼ぶことを正式に決めました【参照8】。40℃という気温を、まれな異常事態ではなく、社会が備えるべき気象現象として扱わざるを得なくなったことを象徴しています。

 

トレンド―夏は「活動する季節」から「避ける季節」へ

ここから見えてくるトレンドは明確です。

猛暑は健康被害をもたらすだけでなく、私たちが「いつ、どこで、何をするか」を変え始めています。

海へ行かない。昼間は外で遊ばない。競技や祭りの時期を移す。外出や旅行を控える。働く時間を変更する。

夏は、人々を屋外へ誘う季節から、暑さを避けて行動を組み替える季節へ変わりつつあります。

個々の熱波には、それぞれ直接的な気象要因があります。しかし、人為的な気候変動は、自然に生じる高温を以前より強く、発生しやすく、危険なものにしていることが、近年の研究によって示されています【参照9】。

もはや、一時的に暑さを我慢し、夏が過ぎるのを待てばよいという問題ではありません。暮らしの時間割、公共空間、働き方、学校やスポーツ、地域文化を、変化した気候の中でどう持続させるかが問われています。

 

■SDGsとの関係―変化を社会の仕組みで受け止める

 猛暑への対策として、熱中症への注意を呼びかけ、イベント会場に救護所を設置することは必要です。しかし、それだけでは、変わってしまった気候の中へ従来どおりの行動を戻そうとする対症療法にとどまります。

必要なのは、変わり始めた人々の行動を、社会の側が受け止めることです。

海岸や公園、通学路、商店街に樹木や日陰、給水設備を整える。海辺を、炎天下で泳ぐだけの場所ではなく、朝夕や季節を通して過ごせる公共空間へ変える。学校、スポーツ、屋外労働を早朝や夕方中心に組み替える。体育館や公共施設を、子どもや高齢者が無料または低料金で過ごせる夏の居場所として開放する。

祭りや競技会も、昔と同じ日程を守ることだけを伝統の継承と考えず、安全に続けられる季節や形式へ移していく必要があります。

さらに、酷暑時に仕事を中断・短縮することを個人の判断だけに任せず、賃金補償や休業制度を含む社会的な仕組みとして保障することも重要です。

これは、すべての人の健康を守る「目標3」、働く人の安全と生活を守る「目標8」、暑さへの対応力をめぐる格差を縮小する「目標10」、安全で持続可能な地域をつくる「目標11」、気候変動に適応する「目標13」に関わる課題です。

 

ポータルからのひと言

 猛暑によって、これまで当たり前だった夏の行動が変えられています。

海へ行かない。子どもを外で遊ばせない。祭りや競技の日程を移す。昼間の外出を控える。一方で、暑くても、生活のために働き続けなければならない人もいます。

これらを、暑さに対する一人ひとりの行動の変化として終わらせてはなりません。個人が外出を控え、冷房の効いた場所へ避難し、危険を避けながら夏をやり過ごすだけでは、夏の活動は縮小し、安全に過ごせる人とそうでない人との格差も広がっていきます。

いま必要なのは、猛暑に合わせて人々の行動を変えるだけでなく、変わり始めた行動に合わせて、社会の側をつくり直すことです。

日陰や給水設備のある公共空間を増やす。学校、スポーツ、祭り、屋外労働の時間を組み替える。公共施設を子どもや高齢者の夏の居場所として開く。暑さのために仕事を中断する人の生活を、社会の仕組みで支える。

こうした取り組みは、猛暑へのやむを得ない対策にとどまりません。朝夕の時間を生かし、休息を正当に認め、誰もが利用できる公共空間を豊かにすることは、これまでの社会のあり方そのものを見直すことにつながります。

そして、この社会の再設計こそ、温暖化がすでに進行している現実の中で、SDGsの達成を目指す具体的な取り組みではないでしょうか。気候変動への対応を、温室効果ガスの削減だけでなく、変化した気候のもとでも、すべての人が安全に、豊かに暮らし続けられる社会をつくることとして捉え直す必要があります。

猛暑が私たちの行動を変えてしまった—そこで終わるのではなく、その変化を、誰もがより安全に、豊かに暮らせる社会の再設計へつなげられるか。

海から人が消える夏は、失われていく風景であると同時に、新しい夏の暮らしをつくり始めるべき時が来たことを、私たちに知らせているのではないでしょうか。

 

 

【参照】

1.TBS NEWS DIG「猛暑に日焼け…だけじゃない!海水浴客が約40年で9割減 進む“海離れ”のワケとは?

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2814346

2.医師たちの気候変動啓発プロジェクト、東京科学大学未来社会創成研究院「夏の暑さによる子どもの外遊びの変化に関する実態調査――猛暑が変えた“外で遊べない夏”に直面する親たちの声」(2025年7月16日)

https://dr4cc.jp/pressrelease-july2025/

医師たちの気候変動啓発プロジェクト

https://dr4cc.jp/

東京科学大学未来社会創成研究院

https://www.isct.ac.jp/ja/001/about/organizations/institute-of-future-science

3.日本陸上競技連盟「主催競技会における暑熱対策について(2026年度以降)

https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202510/syonetsu-2026.pdf

4.環境省「暑さ指数(WBGT)について

https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php

5.東海テレビNEWS「猛暑避け梅雨の時期に…夏祭りを『6月』に前倒しした自治体の思惑 8月の盆踊りや花火は『熱中症対策にも限界』」(2025年6月13日)

https://www.tokai-tv.com/tokainews/feature/article_20250613_40842

6.世界保健機関(WHO)・世界気象機関(WMO)「Climate change and workplace heat stress: technical report and guidance」(2025年8月22日)

https://www.who.int/publications/i/item/9789240099814

国際労働機関(ILO)「Working on a warmer planet: The impact of heat stress on labour productivity and decent work」(2019年7月1日)

https://www.ilo.org/publications/major-publications/working-warmer-planet-effect-heat-stress-productivity-and-decent-work

7.総務省消防庁「熱中症情報――令和8年7月13日~19日の救急搬送状況

https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/post3.html

8.気象庁「最高気温が40℃以上の日の名称を『酷暑日』に決定」(2026年4月17日)

https://www.jma.go.jp/jma/press/2604/17a/20260417_40degree_name.pdf

9.World Weather Attribution「Fossil fuel emissions have rapidly worsened European heatwaves in just a few decades」(2026年6月26日)

https://www.worldweatherattribution.org/fossil-fuel-emissions-have-rapidly-worsened-european-heatwaves-in-just-a-few-decades/

 

 

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