江崎貴久さんへのインタヴュー 聞き手:青山アリア
今回は、観光と地域振興を、見事にまとめ上げ、日本発の地域振興型エコツーリズムを創造し、実践されている、江崎貴久さんに、地元鳥羽市で、お話を伺いました。江崎貴久さんは、老舗旅館「海月」の女将であり、有限会社OZ(オズ)の代表取締役として、また、伊勢志摩国立公園エコツーリズム推進協議会の会長として、長年新しい地域のあり方を提示し推進してこられているパイオニアです。この記事は、伊勢志摩観光一般に関する一連の長いインタビューの中から、海の豊かさ、ジェンダー、教育、働きがい、まちづくり、パートナーシップなど、SDGsに参考になる話題を取り上げ、江崎さん自身の言葉をできるだけ忠実に再現しながら、お届けします。
その➀ 鳥羽という地域
- 漁師町鳥羽:漁師さんたちが守る海の豊かさ
- 日本の資源利用のルール
- 漁業に携わる人々の変化
- 海女文化に象徴される漁村のジェンダーの平等性
その② 釣りの体験ツアー:観光客に地元の資源を楽しんでもらう
- 無人島ツアー:資源を守るのは地元の人たち
- 観光が土地の人と関わらないとできないということ
- 地域振興型の鳥羽式エコツーリズムの必然性
その③ 島っ子ガイド:教育の地域性と普遍性
- 子供たちから島全体、そして未来に
- エピローグ
鳥羽という地域
AA:-まず最初に伊勢志摩と鳥羽という地域についてお話し頂けますか?
EK:はい。この辺りは3,000年昔から海女さんが素潜りで貝を採っていたという漁港で、この海女さんたちが住む沿岸部と、神宮さんがずっと守り続ける森とを合わせて、伊勢志摩国立公園というエリアになっているところです。昔から、お伊勢参りにこられるたくさんのお客様をお迎えし続けてきて、もう長い歴史を持っている、そんな地域ですね。
最初の頃は、お伊勢参りのお客様も、この辺までは来られてなかったんです。鳥羽というのは、泊まり場っていう名前から来ていて、どちらかというと船の出入りで栄えてきた街なんですね。今は、近鉄とか線路がひかれて、伊勢神宮さんとセットになって、伊勢と鳥羽とか、志摩市で泊まっていただいています。
漁師町鳥羽:漁師さんたちが守る海の豊かさ
AA:――鳥羽には、やはり漁師さん達が多いのでしょうか?
EK:そうですね、多いですね。たくさんいます。あの、すごいなと思うのは、海の資源に対してすごく意識が高くて。漁業も発展しているので、その発展した漁業を取り入れるときに、必ず、自分たちの地域の資源がなくならないように、っていうルールを、自主的に必ず考えたり、決めたり、何かそれが、もう、身に染みている地域だと思いますね。
AA:――そういうのは、ルール化せずに、自然と身についているんですか?
EK:そうですね、最終的には、ルール化するんですけど。昔から決まっているものは、例えば海女さんも、小さいのは採らないと、自分たちで決めているサイズがあるんですけど、それが今三重県の条例になっているとか。だから、ルールは後付けなんですよね。現場に即したルールが出来上がって、それを行政が後でルールにするっていう。で、あんまりトップダウンでルールを、っていうのは、今まで文化的にはないというところがあって。漁業って、どんなことでも決める時に、まずは現場なんですよね。現場があって、現場のヒアリングとか、現場の状況に併せて、いろんなルールとか権利も出来ていくということがすごい面白くて。
そういうところをなかなか知るきっかけがないので、少し深さを知ってもらったり、天然の資源を扱うだけに、すごくいろんなことを、多くのこと考えているっていうところが、伝わったらいいなと思っているんです。
日本の資源利用のルール
AA:-素晴らしいですね。やはり現場でしか知れないことがいっぱいありますし、それが行政まで上がって、それが一つのルールとなっていくという、このサイクルはいつ頃から始まったのでしょうか?
EK:いや、恐らくね、日本て元々そういうところなんだと思うんですよ。こう机上で何か作って、現場に下すっていうのは、おそらくすごい危険なので、特に自然と共にある産業が多いっていうことがあって、元々そういうルールの作り方だったんじゃないのかなって思いますね。
例えば答志島の太平洋側のエリアなんか、一番漁業が盛んなんですけど、年間35種類以上の漁業を駆使して、魚に負荷を与えない。いろんな漁法とか魚種があると、例えば、鰆が少なくなってきたな、と思ったら、他の漁法を何かやろうよ、って。人によって、じゃあ今年は伊勢海老の刺し網にしようかな、とか、一本釣りに行こうかな、とか。道具持って、いろんな漁法を持っているから、調整できるっていうのがすごい面白い資源管理の仕方だなと思っているんですけど。
そんな中で、こうなごが、少なくなってしまって、もう7~8年、漁がストップしているんですね。それで、天然わかめを、最近とるようになったんですけど、思ったよりわかめがまだ育ってなかったらしいんですよ。そしたら何かもうみんなが、こう街角で会った時に、ワカメ小さかったなって、その日のうちに集まって、もう、みんなでやめようって気持ちになってるので、すぐいつから次する、って話に入れるっていう。なんか、それを聞いた時に、すごいなと思って。
今でも、そのルール、新しいことに対しても、なんというか、モニタリングみたいなところとか、で、いいか悪いかの判断基準ていうか、が、すごくしっかりしてるなあと思って。
あと、アカモクという海藻、最近、スーパー海藻って言われて、すごく注目を浴びて。で、牡蠣の養殖を主体でやっている漁村だと、海藻とって売っていこうってやるんですけど。自分たちの地域は、魚をたくさん獲るので、これは、魚の卵を産んだりとか、家になっていくところだから、獲るのやめよっていうふうに、決めたんですよ。同じ鳥羽市なんですけど、ひとつひとつの漁村を見てみると、その経営判断とかっていうのが、すごく面白いなって思います。
ルールが単なる決め事じゃなくて、なぜなのか、っていうことを、こう、ちゃんと受け継がれてるから、新しいことが出てきても、その考え方に基づいて、ちゃんと判断出来るという、それが、失いたくないな、と思って。
漁業に携わる人々の変化
AA:-最近漁業に関わる人口というのは昔と変わらずですか?
EK:いや、ずっと減ってきたんですけど、一次、二次、三次産業って比率が、いつの間にか、すごい三次産業が多くなって、一次産業が少しになってしまって。
で、元々お魚が美味しくて来てくださってるお客様が多い、海の関係が多い、ってのがあるのに、そこが少なくなっていって、このまま観光もできるのかな、っというのがあったんで。人口減少のこととかよく言われるんですけど、私たちは、その比率がいびつになっていくっていうほうが、何かリスクなんじゃないかなと思っていて。
で、そのころにちょうど、エコツーリズム協議会を鳥羽に作ったんです。
2010年ぐらいと思うんですけど、漁業のところにすごく行くという観光は、今までなかったし。観光のために観光やるんじゃなくて、やっぱり、その地域の役に立つために、観光を取り入れる、というようなことをしていた。
ちょうどその頃、漁村も漁村で、すごいいろんなことを頑張りはじめたんですよね。必ず週休二日にするとか、よそからお嫁さんが来てもらえるようにするとか、市場を土曜日は必ず休みにする。ここの漁業って、女性も参加するする地域なんですね。元々海女文化があるとこなんで、海女も行くし、ちりめん取りに行ったり、一本釣りにいったりするのも、奥さん一緒に行く地域なんですよ。そやから、夫婦が共に漁業に行っちゃうと、本当に子供が、うちにほったらかしになるんですよね。ちゃんと家族の時間が持てるようになって、ということと。後はその、島に若い人たちが帰って来た時に、ちゃんと漁夫ができるように 、ということを、すごい漁協のほうで考えて、効率よくしていったりとか、市場を大きくして衛生管理をするとか。
あと、当時50代、60代の漁師さんたちが、若いもんが帰って来たらって思って、いろんなことに取り組んできたのに、自分の息子に帰って来いって言うのを忘れたっていうことに気付いて。5〜6人かな、の漁師さんたちが、自分の息子に、皆で揃って帰ってこいって言ったら、そしたら、全員帰って来たんですよ。
やっぱり、島で生まれた子たちって、島独特のコミュニティーがあって、すごいこう人に対しての絆が深いんですよね。島って、そもそも資源が少ないじゃないですか。決まった分しかとる漁場もないし、船も親から引き継げんのは一人しかいないので、次男は、どっかに出ていくっていうのが普通なんです。けど、何せ、都会の生活とか、ちょっと、こう、人と人との間に線を引くみたいな生活が馴染めないんだと思うんです。そやから帰ってこいって言われたら、すぐ帰ってくる。今もう26〜7になった子たちが、この帰って来た子たちなんですけど。今も、帰ってくる若い子たちが多くて。
海女文化に象徴される漁村のジェンダーの平等性
AA:――海女さんの文化自体そうなんですけど、夫婦で漁に行かれるっていう感じで、この島では、特に女性は家で何々っていうような役割ではない。日本の他の地域、今の日本ですね、と、この女性の立ち位置というのは、違うと思われますか?
EK:そうですね。もともと、そういう文化ではないんですよね。ま、ちょっと、この昭和の間だけね、女性が家にとかって言われる時代があったとは思うんですけど、基本的に、あんまりその時代も、漁村はそんなことなかったんで、女性も一緒に海に行くっていうところですかね。
なんか、外向きには、男尊女卑に見えるんですけど、結局すごい女性が支えてるので、もう、漁までやるし。お金を稼ぐこと自体、女性が一緒に加わっているから、何か、おもてづらはお父さんのアレなんですけど、皆さんの話を聞いていると、お互いに役割分担なだけなので。そやから、家の中では、すごい女性に気を使い、立てて、外に出たときは、自分が威張ってるみたいな、見せて、ていう、それが多分、お互いのためなんですよね。