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SDGsスポーツ大会:選手、スタッフ、観客一体となったごみ回収・分別協力、 そしてゴミ処理技術のイノベーションへ ~SDGsから発想されたVNL2024福岡大会におけるゴミ処理~

大規模なスポーツ大会では、大勢の観客が訪れて試合を楽しみます。自ずと多くのゴミも発生し、環境に及ぼす影響も無視できません。「買取大吉 バレーボールネーションズリーグ2024福岡大会(VNL2024福岡大会)」(*)では、大会の企画段階から、この課題を意識して取り組んで来ました。本稿では、このゴミ処理にスポットを当てて、取組内容とその意義をお伝えしたいと思います。

(*)2024年6月4日~16日、西日本総合展示場(福岡県北九州市)、国際バレーボール連盟(FIVB)/Volleyball World(VW)、VNL2024福岡大会組織委員会主催

 

  • 大会のSDGs的意義
  • 大会における特徴的なゴミ
  • 大会のゴミ処理方針と、福岡県が推進する「ワンヘルス」
  • 技術イノベーションに繋がる廃棄物処理
  • 選手、スタッフ、観客の協力
  • おわりに

大会のSDGs的意義

VNL2024福岡大会の大きな特徴は、大会の主催者であるFIVB/VWとその開催地元である福岡県がパートナーシップを組んで、企画段階から、SDGsを意識して取り組んだことにあります。まさに、大会そのものが持続可能な開発を目指す事業であり、大会とSDGsが一体となった取組になっています。

大会そのものは、多くの観客を集め、各種メディアに取り上げられるなど大きな盛り上がりを見せました。SDGsを進めることが、その事業の成功に繋がることの証左になった大会と言えます。

大会における特徴的なゴミ

今回のような大規模なスポーツ大会の場合、環境への影響として指摘されるのは、そこで発生する大量のゴミです。会場内ならまだしも、周辺にも散らかることがあり、地元にネガティブな印象を与えかねません。

VNL福岡大会では、一日平均で7千人、最も多い日では何と1万3千人、開催期間トータルで8万4千人以上の観客が来場し、当然、プラスチックや紙くずなどのゴミも多く出て来ます。

大会運営の企画段階で課題になった特徴的なゴミは、スティックバルーンと弁当がらでした。このスティックバルーンは、試合の際に、手に持って打ち鳴らすなど、バレーボールの応援に欠かせないグッズです。激しく打ちたたいたりしますので、少々の衝撃では形がくずれにくい仕様になっています。

また、これまでの大会であれば、大会運営スタッフにお弁当を提供しています。本大会においても、同じようにお弁当を出すとすれば、大会期間中に数千食が必要と想定されていました。

これらについては、別稿のフードロス削減に向けた取組として、ミールチケット方式による食事の提供を行うことになりました。このことにより、フードロスはゼロとなり、少なくとも、スタッフ用のお弁当を大幅に削減することとなり、弁当がらの発生をも抑えることができました。それでもなお、一般の観客が食べた後の容器や、スタッフがミールチケットで購入したお弁当などの弁当がらが残ります。

また、会場には、約8千席の仮設スタンドが組み立てられました。これらは当然ですが、大会が終われば撤去されるものです。この仮設スタンドそのものは、鉄骨を組み合わせたしっかりしたものですが、階段や通路部分、コートの下には、木材(コンパネ)が敷き詰められました。また、通路部分その他には、パンチカーペットが敷かれていました。

大会のゴミ処理方針と、福岡県が推進する「ワンヘルス」

組織委員会では、大会に特徴的なゴミを含む大量のゴミについて、単なる廃棄物処理に終わらせることなく、地元自治体を含む大会関係者がSDGsを主体的に進める立場に立って、議論を重ね、そのゴミの種類によって、技術イノベーションに繋がる処理と通常の廃棄物処理とを組み合わせたメリハリの利いた取組が行われました。まさしく、大会そのものがSDGsを体現したものになったように思います。

本大会でのこのようなゴミ処理におけるSDGs推進の取り組みがスムーズに実現した大きな理由の一つは、福岡県が推進している「One Health(ワンヘルス)」にあります。これは、「人と動物と環境の健全性は一つ」と捉え、これらを一体的に守ろうという考え方です。FIVB事務総長のファビオ・アゼベド氏は、VNL2024の日本での開催地を福岡県に選んだ重要な決め手は、県が「ワンヘルス」を推進していることであると述べています。

このワンヘルスの柱の一つに「環境保護」が言われています。生物多様性の保全や地球温暖化対策に取り組むとともに、大気、水及び土壌環境の保全を図ることとされています。本稿で紹介する、大会で発生したゴミの処理についても、この福岡県が実行しているワンヘルスの取組が企画推進を支える土台となりました。

技術イノベーションに繋がる廃棄物処理

さて、このイノベーション用のゴミとして、組織委員会が選んだのが、先ほど述べたスティックバルーンと、弁当がら、そして、仮設スタンドの木材(コンパネ)とカーペットでした。いずれも大規模なバレーボールの大会を象徴するものです。これらを処理するパートナーとなったのは、株式会社輝陽(広島県広島市。工場は広島県山県郡北広島町)でした。

後から述べるように、選手やスタッフ、観客の皆さんが協力して分別したスティックバルーンなどのゴミを、大会会場がある北九州市から広島県に運んでいます。これらの廃棄物の収集・運搬、処理をするためには、都道府県知事(政令市長)の許可が必要です。そして、今回のように、広島県の処理業者(㈱輝陽)が、広島県外(今回の場合は福岡県北九州市)の廃棄物を収集・運搬し、広島県内で処理するためには、広島県の承認が要ります。当然のことながら、大会実行委員長がその手続きを行っています。廃棄物処理に当たって、厳格な運用がされていることを改めて知ることができました。

今回の廃棄物処理のパートナーである㈱輝陽は、持続可能な循環型社会の実現のため、積極的な技術開発・導入に取り組んでいる企業です。

同社が2010年(平成22年)から導入している高温高圧加水分解システムは、230℃、30気圧の飽和蒸気で廃棄物を分解滅菌処理するもので、焼却工程がないため、CO2をほとんど排出せず、ダイオキシンなどの有害物が生成されることはないとされています。また、弁当がらのように、食べ残しなど有機物が入り混じっているため再利用が難しいとされる混合廃棄物であったとしても、リサイクル燃料等に再利用することもできるシステムです。

この高温高圧加水分解装置で処理したものは、写真(右端)のような小粒で扱いやすいリサイクル燃料となっています。廃棄物の種類によっては、燃料化できず、再利用が難しいものもあります。それらは、最終的には埋立処分されることになりますが、量的には、当初に比べて5分の1以下に減容化されており、また滅菌処理されていますので、埋め立てても安全で、いずれは土に帰ることになります。これを推し進めて行けば、循環型社会の実現に大いに貢献するものになって行くと期待されます。

高温高圧加水分解装置での処理によって、リサイクル燃料(一部残渣)が生成され、廃棄物処理法上は、廃棄物としての処理はしっかりと終えたことになります。今回は、このリサイクル燃料の更なる減容化や、資源化を図るための新たな廃棄物処理技術の実用化に向けた素材として活用しようとしています。

このほかの、いわば一般ゴミである、ペットボトル、段ボール、紙やガムテープなどは、会場である西日本総合展示場新館(福岡県北九州市)の指定処理業者に委託することになりました。これは、地元の処理業者の収集・運搬、処理費用が安価なので、大会コスト縮減の観点を踏まえて、一般ゴミを指定処理業者に委ねることにより、廃棄物処理全体としてのバランスを取ったものです。これらのゴミのうち、段ボール、紙、テープなどは焼却に回されていますが、ペットボトル、缶、ビンなどは、地元自治体(北九州市)の指導に従ってリサイクルされており、環境にも配慮した廃棄物処理となっています。

選手、スタッフ、観客の協力

これらの廃棄物処理を具体的に進めるためには、大会で出るゴミをきっちりと分別することが大きなポイントとなります。そのためには、選手、スタッフ、観客の皆さんの協力が不可欠です。組織委員会は、この点についても積極的に関わっています。関係するすべての人たちを巻き込もうとする姿勢は特筆すべきものでしょう。結果として、多くの方々の理解と協力を得て、事業を進めることができたのです。

①観客への協力依頼

イベント会場となった、試合会場に隣接する、あさの汐風公園(パブリックビューイングの設置場所)と試合会場の2か所に、ゴミステーションを設置するとともに、来場者の方々に分別を呼び掛けています(弁当がら、コップなどの廃プラスチック類、ペットボトル、カン、燃えるゴミ)。合わせて、大会の参加選手から分別を呼び掛けるメッセージ動画も放映しています。また、会場の入り口付近には、スティックバルーンの回収ボックスも設けています。

これに関連して、試合前後の館内放送では、次のようなアナウンスをしたそうです。

「本大会は、次の世代もスポーツを楽しめるよう、サステナブルな大会を目指し、取り組んでいます。応援後のスティックバルーンは、お帰りの際に座席に置いていただくか、出口の回収ボックスに入れてください。」

これまでの大会であれば、会場周辺にスティックバルーンが廃棄されていたこともあったそうですが、今回は見当たりませんでした。観客の意識向上にも大きく貢献したと言うべきでしょう。

②スタッフの積極的協力

試合会場となった西日本総合展示場の1階には、ゴミ庫が設けられています。スタッフ用の実施要領(運営マニュアル)には、プラスチック、ペットボトルなどを種類ごとに分けて、ゴミを廃棄するよう書かれており、ゴミの集積場に持って行く時間帯も示されています。特に、生ごみが混じる物については、冷蔵のゴミ庫に持って行くことになっていました。これらについては、それぞれのリーダーを通じて、今回のゴミ処理の意義を説明しています。いずれのスタッフも積極的に受け止め、この分別処理を行ったそうです。

③選手の関わり

SDGsの啓もう活動の一環として、日本代表・山本智大選手によるSDGs呼びかけ動画を製作しています。大会におけるリサイクルの取組をPRするとともに、観客の皆さんに協力をお願いする内容になっています。これを受け止めて、実際にそのようにしてくださった方も多かったのではないでしょうか。また、別稿のフードロスの取組に当たって、選手が食べ残しを無くすよう努めています。選手もまた、今回のSDGsの取組に共感して、積極的に関わったと言うことができると思います。

おわりに

VNL福岡大会のように、大規模な国際スポーツ大会の場合、その経済効果など、地元に大きな恩恵がある一方で、ゴミの排出など、負の影響も指摘されて来ました。この大会における廃棄物処理の進め方は、それに対する解の一つになるように思います。

冒頭に述べたように、大会関係者がパートナーシップを組み、それぞれが協力して、SDGsを意識して事業を進めています。廃棄物処理についても、コストを意識しつつも、同時にイノベーションに向けた取組となっています。

そして、ワンヘルスとの関わりも忘れてはならないと思います。どの自治体でも、手法は異なっていたとしても、環境に対する取組を進めていますが、福岡県では、人と動物の健康と環境の健全性を一つと捉え、一体的に守っていくとのワンヘルスの基本理念を掲げて施策を展開しています。この際、医師や獣医師、研究者だけでなく、行政や企業、県民が一緒になって、様々な課題の解決に取り組んでいくこととしています。このような背景があればこそ、従来手法とイノベーションを組み合わせた今回の廃棄物処理について、積極的な地元理解を得て、スムーズに実施することができたように思います。

現在の廃棄物処理は、主に化石燃料を使用した焼却処理が行われています。その際に排出されるCO2に加え、焼却灰を埋め立てることによる土壌への影響など、環境に大きな負荷が掛かっているのが現状です。環境保護の視点からは、これまで通りの焼却処理から、環境負荷が少なく、再利用も可能な方法への転換が求められているところです。

今回取り上げたような廃棄物における技術イノベーションが進めば、広く社会において、リサイクル処理が進み、スポーツ大会の枠を超えて、積極的な影響をもたらすものになるでしょう。大会で発生したゴミが、技術イノベーションに役立てば、VNL2024福岡大会の関係者、観客すべてが、未来に向けて貢献したことになります。

また、バレーボールという競技の性格上、選手や観客に比較的若い人が多く、この世代は、学校などでSDGsに馴染んでいます。そのこともあって、今回のSDGs的取組について、観客の多くが素直に受け止め、行動していたように思います。特に、本稿で取り上げたゴミ処理については、ゴミの分別が大前提になるところ、選手、スタッフ、観客の積極的な協力あればこそスムーズに実施できました。そこには、歯を食いしばってSDGsに取り組むのではなく、むしろ、楽しみながら、自ら進んで行動している印象すらあります。これは、組織委員会のSDGsに真摯に向き合う姿勢の賜物でしょう。

これまでのように、大会にSDGs的要素を取り入れて運営したというのではなく、大会そのものがSDGs事業になりました。そして、大会がSDGs事業になることにより、大規模なスポーツ大会の負の影響を払拭し、むしろ大会を続けてほしい、またこのまちに来てほしいと思えるものになって行けば、まさしく、大会が持続可能な取り組みになったと言うことができます。

ゴミ処理という、どちらかと言えば、裏方の事業を通じて、SDGsの視点から積極的な意義を見出した大会になったように思います。

資料提供:VNL2024福岡大会組織委員会(SDGs部門)

文責:喜多茂樹

 

 

 

 

 

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