地球温暖化、海洋プラスチック、資源の枯渇…。私たちの未来を脅かす環境問題は、日々深刻さを増しています。その中でも日本が抱える大きな課題が「廃棄物処理」に関するものです。
たとえば、日本の一般廃棄物のリサイクル率は19.5%(2023年度)と、欧米の50%超と比べて著しく低く、また廃棄物の約8割を焼却処理に頼る現状では、CO₂排出量の多さや最終処分場のひっ迫といった問題も深刻です。土地の限られた日本では、これ以上の埋立地確保も難しく、持続可能な処理方法が求められています。
そんな現状を打破するために、新たな技術に挑戦する企業が広島にあります。

株式会社輝陽の広島工場
「捨てる」から「活かす」へ
以前、バレーボールネーションズリーグの記事でも紹介した、広島県に拠点を構える株式会社輝陽は、1990年から産業廃棄物などの収集・運搬・処理を通じて地域社会を支えてきた従業員10名ほどの小さな企業です。焼却による処理に頼らず、「CO2を出さない、燃やさない」新しい方法を追求し続けてきました。
輝陽は、廃棄物を「捨てるもの」ではなく、「有用な循環資源」として捉えています。これは、環境問題に対する同社の哲学です。
そんな未来志向の企業哲学から着目したのが、世界でも画期的なリサイクルシステム「遠赤外線触媒還元システム(eMAC)」(※以下eMAC)です。
しかしこの画期的なeMACの完全実用化にはまだまだ克服しなければならない課題が山積しています。輝陽はこのeMacの完全実用化を目指して日々奮闘し、そしてその目標達成に急速に近づいている稀有な会社なのです。
eMACとは──廃棄物が資源に生まれ変わる仕組み
eMACは、遠赤外線と低酸素状態で、廃棄物と還元触媒による化学反応を起こし熱分解する技術です。従来の焼却処理と異なり、燃焼工程を伴わないためCO2の排出はほとんどありません。
このシステムには以下の特徴があります。
・CO2排出量を大幅削減
・重金属などの有害物質を無害化(不溶化)
・廃プラスチックや焼却灰、汚泥などを減容・再資源化
・処理後の生成物は水質浄化材やコンクリート強化剤、土壌改良剤として再利用
難解な印象を受けるかもしれませんが、端的に言えば、「どんなゴミでも燃やすことなく、資源に変える未来型の処理技術」だと言えましょう。

遠赤外線触媒還元システム(eMAC)
SDGsへの貢献
日本では、廃棄物の約8割が焼却され、焼却灰は埋立地に処分されるのが主流です。しかし、土壌汚染リスクのある埋立地の増設は現実的ではなく、限界を迎えつつあります。
eMACは、こうした背景のもと、焼却に頼らずCO2を出さない循環型処理方法を目指して、実用化に向けての準備が進められてきました。
これにより、以下のSDGs目標に貢献しています:
◆目標12:つくる責任、つかう責任
◆目標13:気候変動に具体的な対策を
◆目標14:海の豊かさを守ろう
◆目標15:陸の豊かさも守ろう
未来型の廃棄物処理のあり方
また、すでに輝陽が運用している高温高圧加水分解システムでは、従来の焼却処理に比べてCO2排出量を1/7に抑えることができています。そして、eMACでは、さらに進んで1/25という驚異的な削減率が見込まれています。
そして、高温高圧加水分解システムでは、ごみの種類にかかわらず、いわばあらゆる種類のゴミを一塊として一挙に処理することが可能になります。このシステムとeMACを組み合わせることにより、将来、ごみの分別採集といった煩雑な過程を単純化し、また分別によるプラスチックの再利用に伴うマイクロプラスチックの拡散、汚染の削減につながる可能性も秘めています。
前述の日本で山積する課題に対して、廃プラスチックのケミカルリサイクル(使用済みの資源を化学的に分解し、原料に変えてリサイクルする方法)を可能にし、CO₂大量排出のリスクを抑え、最終処分場の延命化も行えるのが、eMACです。燃やさずに資源として活かす――それはまさに、未来型の廃棄物処理のあり方です。

高温高圧加水分解システム
eMAC社員の声に見る、企業文化と覚悟
取材をする中で印象的だったのは、輝陽の社員一人ひとりの環境問題に対する真摯な姿勢とeMACに対する希望でした。幹部の一人はこう語ってくれました―「eMACこそ、地球の環境問題のゲームチェンジャーになりうる技術だと確信しています。この技術を、広島から世界に広げていくことが私の夢なんです」
小さな企業が挑む、大きな未来
eMACという先進的な技術を、世界に先駆けて実用化しようとする輝陽。その背景には、「廃棄物はもう“捨てるもの”ではなく、活かすもの」という強い信念があります。
限られた資源とスペース、そして地球の未来に対して、一歩踏み出したこの企業の理想は、広島という一地域を超えて、日本と世界の未来へと羽ばたいていきます。
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取材・文:SDGs JAPAN PORTAL 編集部
株式会社輝陽ホームページ