福岡県の中央に位置し、歴史と自然が息づく飯塚市は、今、新たな時代の幕開けを告げています。来る2025年10月には、「IFSC クライミンググランドファイナルズ福岡 2025」という国際的なスポーツクライミングの総合大会が開催されることが決定し、その準備が進められています。この大会は、新設される国別対抗戦「IFSC NATIONS GRAND FINALE」と、LA28パラリンピック大会で採用された8クラスのトップアスリートが参加する「IFSC PARA CLIMBING MASTERS」が日本で初めて同時開催される画期的なイベントです。国際スポーツクライミング連盟(IFSC)が掲げる「共生」の理念を象徴するこの大会は、障がいのあるアスリートとないアスリートが共に輝く場を提供し、最終日にはボルダー、リード、パラクライミングを融合させた新しい形式のエキシビションも予定されています。
飯塚市がこの歴史的な国際大会の開催地に選ばれた背景には、長年にわたり障がい者スポーツの振興に力を入れ、地域全体で共生社会を支える揺るぎない風土が根付いていることがあります。障がいのある人々も気軽にスポーツを楽しめるよう、行政、教育機関、市民団体などが連携し、多様な取り組みが進められているのです。この記事では、飯塚市が国際的な舞台で注目されるまでに至った、障がい者支援の取り組みと、そこから生まれる地域の素晴らしさに迫ります。

飯塚市
飯塚市の「共生社会」への揺るぎないコミットメント
飯塚市は、共生社会の実現を市の重要な目標として掲げ、障がい者スポーツの振興に積極的に取り組んでいます。その中心的な役割を担うのが、市内の障がい者活動拠点施設である「サン・アビリティーズいいづか」です。ここでは、体育館や研修室などを利用して、障がい者向けのスポーツ活動や文化活動の場が提供されています。市主催や地元団体主催のスポーツ大会、交流会が定期的に開催されており、障がいのある人々が社会に参加し、地域住民との交流を深める貴重な機会が創出されています。このような地道な活動が、飯塚市に「誰もがスポーツを楽しめる環境」を整備し、共生社会への歩みを加速させているのです。
国際舞台を牽引する車いすテニス大会の誘致
飯塚市における障がい者スポーツ活動の中で、特に全国的、そして国際的に注目されるのが「飯塚国際車いすテニス大会」(Japan Open)の開催です。飯塚市は、この国際大会を長年誘致し、開催してきた実績があり、地域全体で障がい者スポーツを支える確固たる風土が根付いています。
この大会は、アジアで唯一の国際テニス連盟公認スーパーシリーズ大会として、世界のトップ選手が集結する権威ある大会です。直近では、2025年4月15日から20日にかけて、第41回大会が「いいづかスポーツリゾート テニスコート」と「筑豊緑地テニスコート」で開催されました。この大会には、昨年のパリ・パラリンピックで金メダルを獲得した小田凱人選手や上地結衣選手といった、日本が誇るトップアスリートも出場し、観客を魅了しました。
大会事務局は、観客数の増加を見据え、観客席の整備や大型映像装置の導入など、観戦環境の充実に力を入れました。さらに、市民が気軽に会場に足を運べるよう、無料シャトルバスの運行も行われ、市民参加の機会が大きく広がりました。これにより、多くの人々が世界レベルの障がい者スポーツに触れ、その感動を共有する場が提供されたのです。
また、若手選手の育成にも力が注がれており、「KAMPOJUNIOR OPEN 2025」も飯塚市で開催されました。2025年7月25日から27日にかけて行われたこの大会には、飯塚市在住の矢野蒼大選手(嘉穂高校3年)を含む日本人ジュニア選手11名に加え、オーストラリアから5名、合計16名の選手が出場し、熱戦を繰り広げました。地元の矢野選手は決勝戦で勝利し、見事優勝を果たしました。この大会は、国際舞台を目指すジュニア選手たちにとって貴重な経験の場となり、同時期に国際テニス連盟(ITF)主催のアジアジュニアキャンプも併設され、飯塚市長も交流会に参加するなど、国際交流の輪が大きく広がりました。九州工業大学(飯塚キャンパス)の学生らがボランティアとして運営に協力するなど、地域ぐるみで障がい者スポーツを支える体制が整っています。
地域に根差した多様なパラスポーツの振興
「サン・アビリティーズいいづか」では、車いすテニスのような大規模な国際大会だけでなく、地域に根差した多様なパラスポーツの振興にも力を入れています。この施設では毎年概ね3種目のスポーツ大会が開催されています。具体的には、「さわやかスポーツ大会」「ふれあいSTT(サウンドテーブルテニス=盲人卓球)大会」「アーチェリー大会」が定期的に開催されており、これらは障がい者自身や地域住民を巻き込んだ交流の場となっています。
特筆すべきは、「さわやかスポーツ大会」の進化です。当初は運動会形式で行われていましたが、近年ではパラスポーツとして注目を集める「ボッチャ大会」として開催されるようになっています。2024年8月発行の広報誌にも、飯塚市在住の障がい者を対象とした「さわやかスポーツ『ボッチャ』大会」が9月29日に開催予定である旨が案内されるなど、市が後援する形で身体障がい者スポーツに適した競技会が積極的に行われています。
また、視覚障がい者向けの「ふれあいSTT大会」も毎年開催されています。この大会では、ボランティアや市民も一緒に音の鳴るボールで卓球を楽しみ、障がいの有無を超えた交流を深めています。これらの大会には、障がいの有無を問わず約100人から200人規模の人々が参加し、RKB毎日放送や西日本新聞などの地元メディアでも取り上げられる実績を持つなど、市民の関心も非常に高いことが伺えます。その他、アーチェリー大会や地域スポーツフェスティバルなどもサン・アビリティーズいいづかを中心に定期的に実施されており、市と障がい者団体が連携して情報発信や参加促進に努めています。
地域全体で育む「支え合い」のスポーツ文化
飯塚市では、障がい者スポーツの振興を行政や施設だけでなく、市民団体、学校、企業といった地域全体で支える「支え合い」の文化が深く根付いています。
障がい児・者とその家族を対象としたバスケットボール教室「ドリームキッズ」は、サン・アビリティーズいいづかを会場に毎週木曜の夜に活動しています。ここでは、障がいのある子どもたちやその保護者が、ボランティアと共にスポーツを楽しみ、心地よい汗を流しています。このようなクラブ活動は、スポーツを通じた健康増進だけでなく、家族間の交流や地域社会とのつながりを深める上で重要な役割を果たしています。
また、飯塚市スポーツ協会をはじめとする地元のスポーツ団体も、年齢や障がいの有無を問わず誰もが楽しめるニュースポーツ大会を積極的に開催しています。モルックや囲碁ボールなど、多種多様なニュースポーツイベントを通じて、幅広い市民がスポーツに参加する機会が創出されています。
教育機関の積極的な関与も飯塚市の特徴です。前述の車いすテニス大会では、九州工業大学飯塚キャンパスの学生や地元の高校生が、ボールパーソンなどの運営ボランティアとして協力しています。このように、学生が地域イベントに主体的に参画することで、市民全体の障がい者スポーツに対する理解と支援がさらに広がっています。
さらに、民間企業やNPOも、障がい者スポーツを盛り上げる活動に積極的に協力しています。例えば、自費出版による障がい者ガイドブックへの掲載や、地域企業の寄付協賛など、様々な形で障がい者スポーツの環境整備が進められています。このような官民協働の取り組みが、飯塚市の共生社会を築く上で大きな推進力となっています。
飯塚市:歴史と未来を紡ぐ「学園都市」としての魅力
福岡県の中央部に位置する飯塚市は、その豊かな自然と歴史的背景、そして未来を志向する学園都市としての顔も持ち合わせています。かつて炭鉱町として発展し、ボタ山や旧伊藤伝右衛門邸など、炭鉱時代の面影を残す施設が点在する一方、江戸時代には長崎街道の宿場町として栄え、豊かな菓子文化「シュガーロード」が花開いた歴史もあります。
2006年の合併を経て、現在の飯塚市は弥生時代から続く深い歴史を持つとともに、近畿大学産業理工学部、近畿大学九州短期大学、九州工業大学情報工学部といった3つのキャンパスを擁する学園都市として、未来を担う人材の育成に力を入れています。JR筑豊本線や篠栗線が通り、博多駅まで約40分、小倉駅まで約60分という利便性の良さに加え、三郡山地や遠賀川など豊かな自然が広がる住みやすい街としても注目されています。
このような歴史と文化、そして教育の土壌が、飯塚市が多様性を受け入れ、共生社会を育むための強固な基盤となっていると言えるでしょう。市民一人ひとりが地域の活動に積極的に参加し、障がいのあるなしに関わらず、誰もが自分らしく輝ける社会を目指す飯塚市の姿は、まさにSDGsが掲げる「誰一人取り残さない」社会の実現を体現しています。
障がい者スポーツの希望を灯す飯塚市
この10年余りで、飯塚市では国際大会の誘致、地元大会の開催、そして教室やクラブ活動の充実を通じて、障がい者スポーツの環境が劇的に整備されてきました。市の広報誌やニュース報道でも頻繁に取り上げられ、市民の関心と理解が深まっています。今後も市民やボランティアとの連携を強化し、障がい者スポーツのさらなる普及促進が期待されています。
国際スポーツクライミング連盟(IFSC)が新設するシーズンを締めくくる総合大会「IFSC クライミンググランドファイナルズ」の開催地に飯塚市が選ばれたことは、障がい者スポーツに対する飯塚市の真摯な取り組みが高く評価された結果に他なりません。この大会を通じて、より多くの人々が飯塚市の魅力、そして共生社会の重要性を知り、障がいのある人もない人も共に生きる社会の実現に向けた歩みが、さらに加速することが期待されています。
飯塚市は、スポーツの力を借りて、障がいを越え、地域社会を活性化し、誰もが夢を追いかけられる未来を創造する先駆者として、これからも輝き続けるでしょう。
IFSC クライミンググランドファイナルズ福岡 2025 開催情報
大会名総称
IFSCクライミンググランドファイナルズ福岡2025IFSC NATIONS GRAND FINALE 2025 / IFSC Para Climbing Master
日程
2025年10月23日(木)~26日(日) / 4日間開催
会場
筑豊緑地公園 / いいづかスポーツ・リゾート・リトリート(福岡県飯塚市仁保8-37)
競技概要
男女混合の国別対抗戦とパラクライミングを合わせて開催
IFSC公式サイト(大会情報・ルール等)https://www.ifsc-climbing.org/
パラクライミング協会(JPCA)公式サイト https://www.jpca-climbing.org
福岡県スポーツ推進基金 https://fukuokasports.org
Live-Link https://www.live-link.life
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