コースに並べられた23個の流氷
2020年8月7日。JR高輪ゲートウェイ駅前。この日の東京の気温は35度を越え、今年初の熱中症アラートが発令され、猛暑日となりました。立っているだけで汗が滴り落ちるような日です。この駅前の特設広場に、大きな氷の塊が並べられました。遠く北海道網走から4日間かけて20t積載可能なトレーラー3台で運び込まれた35tの流氷です。
23個もの塊に切り分けられた流氷をアスファルトの路面に設置し、ミスト付き送風機で風を送り、通常のアスファルト上と比べてどの程度温度が下がるのか、また体感温度がどの程度下がるのか・・・「COOL IT DOWNプロジェクト」と名付けられたプロジェクトの開始となる実証実験です。
実際にこの氷の塊に触ってみると、ひんやりと涼しい。天然の氷ならではのしっかりとした冷たさが伝わってきます。氷と氷との間に置かれたミスト付きの送風機の前に立つと、冷蔵庫の扉を開け放った際に感じる冷気が流れてきました。この時だけは、炎天下の東京にいることを忘れるようです。皆が注目する中、これらの仕掛けにより温度を測定したところ、下がった温度は実に5.1度。「35.2度」であった気温が「30.1度」まで下がりました。
陸上競技・十種競技の元日本チャンピオンの武井壮氏が、特設会場に置かれた流氷の前を走り抜け、温度の変化を体感する試みも行いました。武井氏は、送風機による横風の影響があるので、競技そのもの使うことはともかくとしても、観客席や選手のウォーミングアップの場所とかで使えば、その効果が大いに期待できると語りました。また、この実証実験の監修を担った東京大学生産技術研究所の大岡龍三教授も、監修役としては、実際に効果が出たことについてほっとしたとのことでしたが、予想以上の効果に驚きの様子を隠せない様子でした。
北海道オホーツク海に面する網走や紋別の海岸には毎年大量の流氷が流れ着き、海面が流氷で覆いつくされると漁に出ることもできなくなります。いわば海の「やっかいもの」です。一方で、年々深刻さを増す地球温暖化。その対策に、各国とも頭を悩ませています。そのような中で、このやっかいものの流氷や北国に降り積もる雪でもって、都会を冷やすことができないものか・・・
これが今回のプロジェクトの発想の発端です。当日の記者会見で登壇した3人、武井氏、大岡氏、そして、この実証事件の資金面で協力した(株)トラストバンク取締役の福留大士氏が、揃って口にしたのは「これって本気なの?」。このプロジェクトの企画を初めて聞いた際に、いずれもそのように思ったそうです。しかし、関係者の熱い思いを聞くにつれて、よしやろう、という気持ちになって行ったといいます。
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」SDGs。
これらを達成するためには、我々一人ひとりの普段の何気ない取り組みもさることながら、課題を感じたその人の熱い思いが多くの人々の思いを動かし、大きな取り組みへとつながっていくこともあるでしょう。今回のプロジェクトは、そのような可能性を強く感じさせる取組みでした。むろん、当日の記者会見でも述べられていましたが、仮にこのプロジェクトを続けるとなると、氷(雪)の輸送コストや設置場所など、様々な課題があります。しかし、地球温暖化を抑えるなどして、次世代に、豊かな自然と住み続けることのできる住環境をつないでいく・・・この大きな目標に向けて、今回のプロジェクトが、課題をクリアし、「サスナテブル」な社会を築くことにつながっていくことを心から願うものです。
なお、この「COOL IT DOWN」プロジェクト全体では、北海道網走市から流氷約180t(139個分)と富山県立山町から雪約600tが運ばれることになっています。環境に優しい天然の冷却「流氷」は、この実証実験終了後も、8月18日までJR高輪ゲートウェイ駅特設会場に置かれており、その後も9月上旬まで東京都内数か所で展示予定です。また、8月下旬より栃木県那須郡にある「那須ハイランドパーク」にて、那須高原「真夏のサマースキー2020プロジェクト」と銘打ち、富山県で採取した雪を使って全長100m、厚さ1mの「真夏のスキー場」の開設も進めています。
このためのクラウドファンディングも、(株)トラストバンクが運営するふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」で展開中です。
興味ある方は、下記ホームページをご覧ください。
おわり