人工知能(AI)の普及や脱炭素社会への転換を支えるため、世界各地でデータセンターや大規模太陽光発電所などの建設が進められています。
いずれも、現代社会に必要なデジタル技術や再生可能エネルギーを支える重要な施設です。しかし最近、その建設をめぐって地域住民の反対運動が広がり、計画の中止や延期、さらには行政による開発許可の取り消しにまで至る事例が相次いでいます。
これらの動きは、単なる「開発に反対する住民」と「技術を推進する企業」の対立ではありません。
急速に巨大化する新しい社会インフラを、誰が、どこに、どのような手続きで建設し、その利益と負担を誰が引き受けるのか。そして、その開発によって水や森林、生態系などの自然環境にどのような影響が生じるのか。
AIや脱炭素という、これからの社会に不可欠とされる技術が急速に拡大するなかで、その技術を支える巨大インフラと、地域の暮らしや自然環境との関係が改めて問われ始めています。

画像:SDGs JAPAN PORTAL 編集部制作
AIを支えるデータセンターが地域の「巨大施設」に
AIは、目に見えないデジタル技術のように感じられます。しかし、実際にAIを動かしているのは、大量の半導体やサーバーを収容する巨大なデータセンターです。
生成AIの計算には大量の電力が必要となり、機器から発生する熱を取り除くためには、冷却設備と水が必要になります。さらに、非常時に備えた発電機、変電設備、送電線なども設置されます。
国連大学水・環境・健康研究所(UNU-INWEH)が2026年6月に発表した報告書「AIのエネルギー使用に伴う環境コストーー炭素排出量、水使用量、土地面積(Environmental Cost of AI’s Energy Use : Carbon, Water and Land Footprints)」 (参照1、2) は、AIの急速な普及に伴い、データセンターによる電力、水、土地の使用量が大幅に増加すると警告しました。
報告書によると、2030年には世界のデータセンターの消費電力が945テラワット時に達し、AIに関連して消費される水は年間約9兆3000億リットルに上る可能性があります。これは、サハラ以南のアフリカに暮らす約13億人の基本的な年間生活用水需要に匹敵する規模とされています。
ただし、この比較は、データセンターの水をアフリカへ直接振り向けられるという意味ではありません。重要なのは、AIが仮想空間だけで動くものではなく、現実の地域で電力や水、土地を大量に必要とする物理的な産業でもあることです。
私たちが日常的に利用するAIの背後には、こうした巨大な物理的インフラと、その環境負荷が存在しています。
米国では住民運動によって2026年1月から3月だけでも75件の計画に影響
データセンター建設が急速に進む米国では、地域住民による反対運動が大きな社会問題になり始めています。(参照3)
米国の調査団体Data Center Watch(参照4)によると、2026年1月から3月までの3カ月間に、住民運動などの影響を受けて中止や延期などの影響を受けたデータセンター計画は75件に達し、事業総額は約1300億ドル、日本円で約20兆円を超える規模とされています。
住民が懸念しているのは、電力料金の上昇、水不足、冷却設備や非常用発電機による騒音、大気汚染、景観の変化などです。大規模なデータセンターは大量の土地や電力を利用する一方、工場などと比べて地域に生み出す雇用が少ないという指摘もあります。
データセンターが集中する米国バージニア州北部では、事業者が施設内部を公開し、防音設備や水の再利用、送変電設備への投資などを説明する取り組みも始まっています(参照5)。
問題が施設そのものだけではなく、情報開示の不足や、住民との対話が建設計画の後から行われることにあるとの認識が広がっているためです。
日本でも「得体の知れない施設」への不信
日本でも同様の問題が起きています。
千葉県流山市では、住宅地に近い市役所前の土地に、高さ約28メートルのデータセンターを建設する計画が進められていました。しかし、住民説明会で実際の運営事業者や工事方法などについて十分な回答が得られず、住民の不信感が高まりました。
住民側は、データセンター建設を可能にした用途地域の変更をめぐって市を提訴しました。最終的に事業者は、地域の反対が強いことを理由として、2023年12月に計画を撤回しています。(参照6)
データセンターは、従来は商業地域や工業地域に建てられることが多い施設でした。しかし、AI需要の拡大と施設の巨大化によって、住宅地に近い郊外へ建設される例が増えています。
日本の建築制度では、データセンターが独立した施設用途として明確に位置付けられておらず、場合によっては「事務所」などとして扱われます。電力消費量や騒音、非常用発電設備などの実態に即した立地規制や住民説明の仕組みが、技術の急速な変化に追いついていないことも問題です。
ここでも住民が問うているのは、AIそのものの是非ではありません。
「この施設が自分たちの街に建つことで、暮らしはどう変わるのか」という、極めて具体的な問いです。
メガソーラーでも開発許可を司法が見直す
同じ時期、再生可能エネルギーを支えるメガソーラーでも、地域の安全を重視する司法判断が示されました。
奈良県平群町の山林で計画されている大規模太陽光発電所をめぐり、大阪高等裁判所は、奈良県が出した開発許可を取り消す判決を言い渡しました。
周辺住民は、開発地の下流を流れる河川の排水能力や、洪水調整池の容量が十分に検討されておらず、豪雨時に水害や土砂災害が起きる危険があると訴えていました。
大阪高裁は、洪水調整池の容量を決めるために用いられた降雨量の基準が合理性を欠いているとして、県の許可を違法と判断しました。奈良県は最高裁への上告を断念しましたが、事業者側は上告しており、訴訟は継続しています。(参照7)
再生可能エネルギーは、気候変動対策に不可欠です。しかし、脱炭素という目的が正しくても、個々の開発による森林の大規模な改変や生態系への影響、水害や土砂災害のリスク、地域住民の安全が軽視されてよいわけではありません。
この問題は、環境を守るための技術であっても、その導入の過程で別の環境破壊を引き起こす可能性があるという、現代の環境政策が抱える難しい課題を浮かび上がらせています。
トレンド――暮らしから環境を問い直す動き
今回の一連のニュースから見えてくるのは、単に「巨大施設に対する住民の反対が増えている」ということではありません。
そこには、少なくとも二つの新しい潮流が見えてきます。
第一は、AIや脱炭素を支える巨大技術インフラが、地域社会だけでなく、自然環境との関係についても改めて問われ始めていることです。
これまで、データセンターは「デジタル社会を支える設備」、メガソーラーは「脱炭素を進める環境施設」として、その必要性や公共的価値が強調されてきました。
しかし、施設が巨大化すれば、大量の電力、水、土地が必要になります。森林が伐採されれば、生態系や水循環、防災にも影響が及びます。
「AIを発展させること」や「再生可能エネルギーを増やすこと」という目的だけではなく、それを支える施設そのものが、地域社会や自然環境と持続可能な関係を築いているのかが問われるようになってきたのです。言い換えれば、「環境のための技術」や「未来のための技術」であっても、その環境負荷や社会的負荷を含めて評価しなければならない時代に入ったと言えるでしょう。
そして第二は、環境問題をめぐる人々の関わり方そのものの変化です。
これまで地球温暖化や生物多様性の喪失などの環境問題は、科学者の研究や国際機関の報告などを通じて社会に警告され、国や自治体が政策として対応するという、いわば「上から提起される課題」という側面がありました。
もちろん、地域住民による公害反対運動や自然保護運動は以前から存在しています。しかし現在起きている動きには、それらともつながりながら、もう一つの広がりが見えます。
住民が訴えているのは、
「この地域の水は大丈夫なのか」
「この森を切ってしまってよいのか」
「豪雨のとき、この街は安全なのか」
「この電力負担を誰が引き受けるのか」
「この景観や暮らしはどう変わるのか」
という、自分たちの日常生活から生まれた問いです。
そして、こうした生活に根ざした問いが、結果として水資源や森林、生態系、エネルギーのあり方という、より大きな環境問題へとつながっています。
環境問題が、専門家や行政だけが扱う遠い問題ではなく、「自分たちがどのような場所で、どのように暮らしていくのか」という住民自身の問題として捉え直され始めているのです。
この「暮らしから環境を問い直す」動きは、今後の技術開発や環境政策のあり方を変えていく、一つの重要な潮流になる可能性があります。
SDGsとの関係
今回の問題は、SDGs目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標11「住み続けられるまちづくりを」、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標15「陸の豊かさも守ろう」、目標16「平和と公正をすべての人に」と深く関係しています。
デジタル化や脱炭素化を進めること自体は、持続可能な社会の実現に重要です。しかし、一つの目標を推進するために、別の地域の水資源、森林、生態系、安全、生活環境、住民参加が損なわれるなら、それはSDGsが目指す統合的な持続可能性とは言えません。
技術革新、環境保全、地域社会をそれぞれ別の問題として扱うのではなく、その三つを同時に考えることが求められています。
技術の導入量や発電容量だけではなく、立地の妥当性、環境負荷の公開、地域への利益還元、災害リスク、そして住民が意思決定に参加できる仕組みまで含めて評価する必要があるでしょう。
ポータルから一言
データセンターも太陽光発電所も、現代社会に必要な施設です。しかし、「必要である」ということと、「どこに、どのように建ててもよい」ということは同じではありません。
これまでの技術開発では、まず大きな計画を作り、その後に住民へ説明し、理解を求めるという手順も少なくありませんでした。しかし、住民は開発を妨げる外部の存在ではなく、その土地で暮らし、環境の変化や結果を日々引き受ける当事者です。
そして今回のニュースは、私たちが「環境」という言葉で思い浮かべる対象そのものが変わりつつあることも示しています。
環境とは、遠くの森林や河川だけではありません。住宅地や公園、街路樹、地下水、景観だけでなく、人々が暮らし、働き、子どもたちが遊び、地域の文化が育まれる街そのものもまた、私たちが守るべき環境です。
AIや脱炭素を支える巨大インフラが都市や地域社会の身近な場所へ広がる現在、環境問題は大都市に暮らす人々にとっても、自らの日常生活そのものに関わる問題となり始めています。
技術が巨大になればなるほど、その計画の初めから地域社会を意思決定に加え、電力、水、土地、自然環境、災害リスク、費用と利益について具体的な情報を共有する必要があります。
AIや再生可能エネルギーが真に持続可能であるためには、それを支える施設の建設過程そのものも、地域の暮らしや自然環境と調和したものでなければならないのではないでしょうか。
【参照】
参照1
36Kr Japan/Yahoo!ニュース
「AIが飲み込む水、アフリカ13億人の生活用水に匹敵――国連大学が警告、『丁寧すぎる指示』も負荷に」
https://news.yahoo.co.jp/articles/4dbb169ae0749782f30fca561ffb2d2e5aa4ac27
参照2
国連大学水・環境・健康研究所(UNU-INWEH)
“Environmental Cost of Artificial Intelligence: Carbon, Water, and Land Footprints”
2026年6月3日
https://unu.edu/inweh/collection/environmental-cost-of-AIs-Enrgy-Use-Carbon-water-and-land-footprints
参照3
Yahoo!ニュース エキスパート/猪瀬聖
「データセンター建設、米国で社会問題に 世論は圧倒的に反対 貧富対立の構図も 日本は何を学ぶべきか」
2026年7月
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/920fc24cd79c122b4c6278b297011a3122c520fc
参照4
Data Center WatchのQ1 2026
https://www.datacenterwatch.org/q1-2026
参照5
FNNプライムオンライン
「AI時代の『データセンター』建設ラッシュ最前線 地域の反発や不安も・・・共存の道探る現場」
2026年4月23日
https://www.fnn.jp/articles/-/1033385
参照6
日経クロステック
「データセンター建設が住民の反対で頓挫、大規模化と住宅近接で『迷惑施設』扱い」
2024年4月5日
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00989/033000146/
参照7
Yahoo!ニュース エキスパート/前田恒彦
「豪雨リスク軽視のメガソーラー開発にNO!業者上告も県上告断念で異例の展開に」
2026年7月
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/beb01499a3a7d1d85f03dc4a61f87f227ee226ce
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