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北九州市が挑むアーバンスポーツの聖地化—都市と若者、そして未来への挑戦〜ワールドスケートボードストリート 2025 北九州〜

2025 年 11 ⽉のスケートボード国際⼤会「ワールドスケートボードストリート 2025 北九州」の開催を前に、北九州市でアーバンスポーツ・アクションスポーツの振興を牽引する⼤下義邦さんに、都市とスポーツの関係、そして国際スケートボード⼤会を通じて⽬指す未来についてお話を伺いました。北九州市がアーバンスポーツ・アクションスポーツを積極的に推進する意義、その背景や地域社会への影響、今後の展望に迫ります。

 

話し⼿/ ⼤下義邦さん

北九州市都市ブランド創造局スポーツ部スポーツ振興課
アーバンスポーツ担当課⻑

聞き⼿/⻘⼭明

⼀般社団法⼈未来投資研究所

インタビュー 2025 年 9 ⽉ 11 ⽇

 

 

AI ⽣成イメージ

 

 

「ワールドスケートボードストリート 2025 北九州」開催決定の背景

――本⽇はお時間をいただき、ありがとうございます。まず、簡単に⾃⼰紹介をお願いできますか。

⼤下:   北九州市役所スポーツ振興課でアーバンスポーツを担当しております⼤下です。よろしくお願いいたします。

 

――ありがとうございます。早速ですが、今度北九州市で開催されるスケートボード⼤会について、⽇程や概要、開催の趣旨を教えていただけますか。

⼤下: 今回開催するのは「ワールドスケートボードストリート 2025 北九州」です。北九州市はこれまでブレイキンの国際⼤会や、昨年はパルクールの世界選⼿権を実施してきました。その流れで次に注⽬したのがスケートボードです。⽔⾯下で調整を重ね、2025 年 11 ⽉にスケートボードの国際⼤会を開催できる運びとなりました。

 

――この⼤会が北九州市で開催されることになったきっかけは何だったのでしょうか。

⼤下: 我々北九州市では、アーバンスポーツに積極的に⼒を⼊れています。国際⼤会の誘致は、街の賑わいや地域経済の活性化、市⺠のシビックプライドの醸成、さらには国内外への都市プロモーションとしても⾮常に重要なツールです。こうした観点から、北九州市側からも積極的にアプローチし、今回の開催が実現しました。

 

 

国際⼤会の誘致と市⺠・地域社会の反応

――福岡県全体としてスポーツ振興に熱⼼だと感じますが、北九州市でも様々な国際⼤会が開催されています。市⺠や地元企業からの反応はいかがでしょうか。

⼤下: ここ最近、⼤規模な国際スポーツ⼤会が頻繁に開催され、市⺠の関⼼も⾮常に⾼まっています。次は何をするのかという期待値も年々上がっており、我々としてはプレッシャーも感じていますが、その要望に対して⼀つでも多く応えていきたいと思っています。地元経済に対する効果も⼤きく、例えば 2024 年 6 ⽉に開催したバレーボールネーションズリーグの際には、ミールクーポンを導⼊したことにより、選⼿やスタッフが街に繰り出し、街にお⾦が落ちるなど、経済的な波及効果も実感されています。今回のスケートボード国際⼤会においても地元の⽅々から「何かコラボできることはないか」といった問い合わせも増えています。

 

――国際⼤会による外国⼈来訪者の増加に関して、地域社会への影響はありましたか。

⼤下: 北九州や九州全体の地理的条件から以前はアジア圏の⽅が多かったのですが、バレーボールの国際⼤会では欧⽶圏の⽅も多く来られました。それにより、飲⾷店などでも外国語メニューを⽤意したり、アプリを使ってコミュニケーションを取るようになったりと、海外からの来訪者を受け⼊れる体制が少しずつ整ってきています。国際都市としての成熟が進んできていると感じます。

 

 

⼦どもたちへの影響と教育的意義

――国際スポーツ⼤会の開催は、⼦どもたちや教育機関にどのような影響を与えていますか。

⼤下: 海外のトップアスリートを⽣で⾒る機会はなかなかありません。そこで、スケートボード⼤会ではチケット価格を抑え、現地での観戦を推奨したり、⼦どもたちを会場に招待する取り組みを⾏います。また、トップ選⼿を学校に招き、⼦どもたちに直接アスリートと接する機会を提供するなど「インリーチ・アウトリーチ」双⽅の取り組みを実施しています。⼦どもたちの表情を⾒ると⾮常に⽣き⽣きとしていて、⼤きな影響を与えていると実感しています。

 

メディアとの連携と都市プロモーション

――⼤会開催にあたり、メディアや広報との連携、都市全体への効果についてはどのようにお考えですか。

⼤下:    まず市⺠に知ってもらうこと、そして国内外へ広くアピールすることを重視しています。また、訪れた⽅にいかに満⾜してもらうかも課題です。例えば⼤会に連動したクーポン や、⼤会チケットの提⽰で飲⾷店の割引を受けられる「ウェルカムキャンペーン」を実施するなど、街ぐるみで盛り上げる取り組みを進めています。これらの取り組みは毎年のルーティンになりつつあります。

 

スケートボードの魅⼒とイメージ改⾰「パークからストリートへ」

――今回のスケートボード⼤会に関して、主催者側から⾒たスケートボードの魅⼒や意義についてお聞かせください。

⼤下: スケートボードは近年競技化が進み、オリンピックで⽇本選⼿が⾦メダルを獲得したことで注⽬されていますが、元々はカルチャーとしての⾯があり、その部分も⼤切にしたいという思いがあります。全国的にスケートボードは「危険」「迷惑」といったイメージで街中から排除され、専⽤パークに押し込められている状況があります。しかし我々は、若者を応援したい、街の中で楽しく⾃由にやりたいという若者の思いを叶えたい、そういう環境を⽬指したいと考えています。「パークからストリートへ」というキーワードのもと、競技(パーク)だけでなくカルチャー(ストリート)としてスケートボードを街なかに戻したい、そういう環境としてのストリートに戻したい、という思いがあります。

 

――スケートボードのイメージ改⾰のために、具体的な取り組みは考えていますか。

⼤下:   マナー啓発やイメージ向上のための体験会を開催したり、スケートボードをより⾝近に感じてもらう取り組みを進めています。街なかで滑ることは⼀朝⼀⼣にできることではなく、 10 年 20 年かけて浸透させていく必要があります。そのためにはスケーターや地元の⼈々と⾏政が⼀緒になって、時間をかけて取り組んでいくことが重要だと考えています。

⼀般の⼈たちにとってスケートボードはまだまだマイナーな競技であり、カルチャーとしても⼀部の⼈しかやっていないものです。それをこういう国際⼤会開催によって、少しでも多くの⼈に⾒てもらい、⼀部の⼈々による悪いイメージではなく、すごくカッコ良く楽しいものなんだということを広く知ってもらうきっかけとしたいと思っています。

 

「スケートボード=悪いこと」という誤解の払拭に向けて

――スケートボードに対して否定的なイメージを持つ市⺠の⽅も多いと思います。そういった⽅々へのメッセージはありますか。

⼤下: スケートボードを持っているからといって悪い⼈ではありません。多くのスケートボーダーは礼儀正しく、また北九州市で新たに始めている⼩中学⽣も皆さんとても礼儀正しい⽅ばかりです。今は⼀部の悪いイメージだけがクローズアップされていますが、これからはそのイメージを少しずつ変えていきたいと思っています。

 

アーバンスポーツ特有の⽂化と相互リスペクト

――スケートボードの⼤会では、選⼿同⼠がリスペクトし合い、競い合いながらも⽀え合う⽂化があると聞きますが、それはどういうことでしょうか。

⼤下: アーバンスポーツ全体に共通していますが、他のスポーツとは違い、⽇頃から、また競技中でもお互いを讃え合い、リスペクトし合う⽂化が強いです。パルクール世界選⼿権の時など、すごく難しい技が決まった瞬間に周りの選⼿たちが競技エリアのステージに乗り込んで抱き合うなど、他のスポーツでは⾒られない光景がありました。スケートボードでも、難しいトリックが決まった瞬間に周囲の選⼿が⽴ち上がって拍⼿したり、抱き合ったりする光景が⾒られます。これはアーバンスポーツならではの魅⼒だと思います。これは、スポーツが本来持つ⾮常に素晴らしい⼈間性の現れだと思います。

 

⽣活空間とアーバンスポーツの共存

――アーバンスポーツは⽣活空間と深く結びついていると思います。北九州市として、スポーツと街の共存についてどのように考えていますか。

⼤下: 我々はアーバンスポーツ全体を推進したいと思っています。スケートボードだけでなく、パルクールやクライミングなども、元々は街なかの遊びから始まったものです。そういったアーバンスポーツが街なかで特別な⽤具や施設がなくても気軽にできるような、アーバンスポーツと街の共存を実現することで、北九州市が「⾯⽩い街だ」「住み続けたい街だ」と若者に思ってもらえるような施策をどんどん打ち出していきたいと考えています。

昨年のパルクール世界選⼿権の際には、その横の道路を封鎖して、スケートボードの体験会、BMXのデモンストレーション、ブレイキンの体験会などを⾏ったり、北九州市最⼤のお祭り「わっしょい百万夏まつり」の⼀⾓で、アーバンスポーツフェスティバルを⾏ったりと、アー バンスポーツ全体を広めていっています。

北九州市は⾼齢化が進むとともに若者の流出が激しいのですが、その中で若者に⼈気のあるアーバンスポーツがキラーコンテンツになって、⾃治体の⼤きな⽬標の⼀つである⼈⼝増加、市の存続に繋げたいと思っています。

 

SDGs・エコフレンドリーな⼤会運営と都市の未来

――北九州市はSDGs・持続可能な都市づくりにも積極的ですが、国際⼤会との結びつきについてお聞かせください。

⼤下:   北九州市は環境未来都市・SDGs 先進都市でもあります。国際スポーツ⼤会においても、エコフレンドリーな⼤会運営を⽬指しており、例えば 2024 年 6 ⽉に開催したバレーボールネーションズリーグの際にはフードロス削減のためにミールクーポンを導⼊しました。その効果は絶⼤で、今では、北九州市で⾏う国際スポーツ⼤会において、ミールクーポン導⼊は当たり前になっています。そして、それ以上の取り組みとして何ができるかを市役所でも⼀⽣懸命考え、さらにブラッシュアップ、バージョンアップし、よりよい取り組みを進めていきたいと思っています。

 

――都市の⽣活における持続可能性、環境問題にもアーバンスポーツが関わる余地があると思いますが、いかがですか。

⼤下: ⼦どもたちをはじめ⼈々が暮らしやすい街づくりとして、⾞社会からウォーカブルな街への転換を⽬指し、⾞の利⽤を減らしてアーバンスポーツと共存できる賑わいのある街づくりにチャレンジしたいと考えています。

 

未来への展望―アーバンスポーツの聖地化へ

――最後に、スケートボード⼤会を中⼼とした今後の展望や、皆さんに伝えたい思いをお願いします。

⼤下: 北九州市はアーバンスポーツの聖地化に向けて、今まさにキックオフしている段階です。今回のワールドスケートボードツアーをきっかけに、その取り組みをさらに加速させ、⽇本全国、世界から「アーバンスポーツの聖地」と⾔われるような街にしていきたいと考えています。ぜひ北九州市の今後の取り組みにご注⽬いただき、この⼤会を通じてその魅⼒を体感していただきたいです。

 

――ご活躍を期待しております。本⽇はありがとうございました。

⼤下:    ありがとうございました。

 

北九州市がアーバンスポーツ・アクションスポーツを通じて描く未来は、都市と⼈そして⽂化の新たな共存のかたちです。スケートボードをはじめとするアーバンスポーツの可能性が、街と若者、そして地域社会全体に新しい価値をもたらすことを期待しています。

 

※本記事は北九州市都市ブランド創造局スポーツ部スポーツ振興課アーバンスポーツ担当課⻑・⼤下義邦⽒へのインタビューをもとに構成しています。

 

⼤会概要

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⼤会名称

ワールドスケートボードストリート 2025 北九州(World Skateboarding Tour Street 2025 KITAKYUSHU)

開催期間

2025年11月23日(日)〜11月30日(日)

開催場所

北九州メッセ(旧⻄⽇本総合展⽰場新館)

福岡県北九州市⼩倉北区浅野 3 丁⽬ 8 番 1 号

主催                      北九州市

参加国数              45 カ国・地域

参加選⼿数           約 200 ⼈(男⼦・⼥⼦含む)

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北九州市公式ページ:https://www.city.kitakyushu.lg.jp/contents/k083_00024.html

ワールドスケートボード 2025 北九州公式:https://wstjapan.jp/

北九州ノコト:https://kitaq.media/115230/

 

 

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◆<AIポッドキャスト>【SDGs JAPAN PORTAL】「持続可能な国際スポーツ大会のさらなる進化を目指して──VNL2025千葉大会の挑戦」を、YouTubeにアップしました。AIのトークによるポッドキャストで、VNL2025千葉大会の素晴らしさを、音声でダイレクトに感じられる番組となっています。ぜひご視聴ください。

https://youtu.be/xm_V6FdmeNc?feature=shared

 

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