「Mitsuwa」― 全米の朝を変える日本食の熱量
2025年11月のある朝、カリフォルニア州サイプレスに新たにオープンした「ミツワマーケットプレイス」の入り口には、開店前から長蛇の列ができていました。シャッターが上がった瞬間、日本直送の鮮魚や、各地の食文化を紹介する「地域フェア」の限定品へと人々が駆け寄る光景は、いまやアメリカで見慣れた日常となりつつあります。
かつては在米日本人が故郷を懐かしむ場所だったこの店の客層は、いまや大多数が非日系人です。全米13店舗へと拡大したミツワが提供するのは、単なる食料品ではありません。日本の「品質」と「誠実さ」、そして高インフレが続くアメリカ社会において人々の心をつかむ「圧倒的なバリュー(確かな価値)」です。
なぜ「WASHOKU」は、経済が揺れ動く時代においても、これほど強く人々を惹きつけるのでしょうか。その裏側には、単なる美味しさを超えた、時代と地球を生き抜くための「知恵」があります。

ユネスコが認めた「和食」という名のサステナブル文化
2013年、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された際、国際社会が評価したのは、料理の技術だけではありませんでした。その根底にある「自然への尊重」という精神性こそが、世界の目を引きつけたのです。
・一汁三菜の機能美
旬の野菜・米・魚をバランスよく組み合わせるスタイルは、過剰な脂質摂取を抑え、生活習慣病の予防に寄与します。これはまさに、SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」の実践そのものです。
・大豆文化の地球貢献
味噌・醤油・納豆・豆腐——日本が誇る大豆由来のタンパク質は、畜産に比べて温室効果ガスの排出量を大幅に削減できます。目標13「気候変動に具体的な対策を」への有力な解答であり、限られた耕作地で効率よく栄養を確保できることから、目標2「飢餓をゼロに」を支える「地球にやさしいプロテイン」として世界的に注目が集まっています。
・「MOTTAINAI」が生んだ保存・発酵技術の真価
日本食に広く、深く浸透している「発酵」や「乾燥」の技術は、目標12「つくる責任 つかう責任」に対する、日本からの時空を超えた回答と言えます。
・食材を使い切る知恵
旬の食材を保存し、皮から根、骨まで余さず使い切る「始末」の文化は、資源に乏しい島国日本が長年培ってきた生活の知恵です。これが今、食品ロスへの意識が高まる世界の消費者に「節約術」ではなく「エシカルな調理哲学」として高く評価されています。
・豊かな水資源の循環
和食の根幹をなす「だし」や「炊飯」は、豊かな水資源に支えられた文化です。食を通じて水の大切さを体感できることは、目標6「安全な水とトイレを世界中に」の重みを伝え、健全な水循環を守る意識を自然と育みます。
これらの技術の底流にあるのは、単なる合理的な節約心ではありません。自然の恵みすべてに命が宿ると考え、その尊厳を最後まで全うさせようとする「MOTTAINAI」の精神です。この「命を使い切る」という日本独自の倫理観こそが、飽食の時代においても世界中の人々が和食に栄養以上の「誠実さ」を感じ取る、深い理由なのです。
教育・ビジネス・観光を繋ぐ「社会実装」のエビデンス
素晴らしい和食文化を次世代へ持続させるには、理念を「仕組み」へと落とし込む社会実装が欠かせません。その先駆的な事例が、日本各地で着実に広がっています。
・教育現場の多様なアプローチ
当サイト(SDGs JAPAN PORTAL)でもご紹介した横浜市立大学(YCU)は、生協食堂へのサステナブルシーフード常設導入を日本で初めて実現し、「消費の変革」を学生自らが主導しました。一方、東京海洋大学は「水産サステナビリティ講座」を通じ、MSC・ASC認証制度の普及において理論的な支柱となり、料理人ネットワーク「Chefs for the Blue」や産業界と連携した専門教育をリードしています。
・ビジネスと観光の変革
パナソニック ホールディングスが先鞭をつけた社食へのサステナブルシーフード導入の流れは、イオンやセブン&アイといった小売業、マクドナルド(フィレオフィッシュへのMSC認証使用)などの外食産業へと拡大しています。
くら寿司は、低利用魚の積極活用や水産専門子会社「KURAおさかなファーム」によるAIスマート養殖・オーガニックフィッシュ生産という独自の循環型モデルを構築しています。全国で展開する出張授業「お寿司で学ぶSDGs」は子どもたちへの環境教育としても注目を集め、消費者との接点を劇的に広げています。さらに、オリックス・ホテルマネジメントが運営する「佳ら久」などの旅館では、伝統的な「おもてなし」の中に認証食材を組み込む動きが加速しています。インバウンド旅行者に日本のサステナビリティを体感させる重要な場となり、目標8・9・11の推進に直結するエンジンとなっています。
ワンヘルスの視点 ― 今日の一皿が未来を創る
「人の健康」「動物の健康」「環境の健康」は密接に繋がり、一つである——。当SDGs JAPAN PORTALで度々取り上げているこの「ワンヘルス」の視点は、2026年においてSDGsの加速に欠かせない視座として、WHO(世界保健機関)、FAO(国連食糧農業機関)、国連環境計画(UNEP)、国際獣疫事務局(WOAH)の4機関が2030年に向けた共同声明を発出するほど国際的に重視されています。
私たちがサステナブルな魚を選ぶことは、目標14「海の豊かさを守ろう」に直結し、健全な海洋生態系は連鎖的に目標15「陸の豊かさも守ろう」を支えます。環境負荷の低い食事の選択は資源争奪を回避し目標16「平和と公正をすべての人に」への貢献となり、適切な賃金が保証される認証品を選ぶことは目標1「貧困をなくそう」を支持することに他なりません。
全米12店舗に広がった「ミツワ」の活気ある朝の光景から、日本の学食、地方旅館の洗練された一皿まで。伝統的な和の知恵を、現代の科学的な認証制度や循環型の資源保護モデルで補完する「賢い選択」の積み重ねこそが、SDGs 17すべてのゴールを前進させ、未来の海と食卓の景色を美しく描き出す力となるのです。
【参考情報】
- ミツワマーケットプレイス 全米12店舗展開(2025年9月)
- 第7回ジャパン・サステナブルシーフード・アワード 公募開始(2026年4月)
- くら寿司×KURAおさかなファーム:AIスマート養殖の挑戦(2026年3月)
- 2030年までのワンヘルス協力 4者共同声明(2026年2月)
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◆学食・社食から海を守る―サステナブルシーフードが拓く「食」の未来
https://japan-sdgs.or.jp/news/6615.html


