2026年4月22日、東京国際フォーラムで開催された第41回世界獣医師会大会(WVC2026)。世界中から獣医師が東京に集結するこの国際的な大舞台で、オリエンタルバイオ株式会社 研究開発部スペシャルアドバイザー・横田隆氏(医学博士・農学博士)が獣医師向けランチョンセミナーに登壇しました。「ヒトの健康から動物の健康へ:ワンヘルス推進におけるNTエキスの可能性の検討」と題したこの講演では、大豆発酵エキス「NT」の研究開発の歩みと、その先に見えてきたワンヘルスとの接点が語られました。30年にわたる産学連携の軌跡は、食品科学が人と動物と環境をつなぐ可能性を示す実践事例として、世界各国から集った獣医師らの注目を集めました。
ワンヘルスが求められる時代背景
「人の健康」「動物の健康」「環境の健全性」は、それぞれ独立して存在するものではなく、相互に深く結びついています。そのような認識のもとに生まれた概念が「ワンヘルス(One Health)」です。
2016年、福岡・北九州市で開催された「第2回世界獣医師会-世界医師会 “One Health” に関する国際会議」では「福岡宣言」が採択され、ワンヘルスの理念が世界へ向けて発信されました。さらに2022年には世界保健機関(WHO)、国連食糧農業機関(FAO)、世界動物保健機関(WOAH)、国連環境計画(UNEP)の四国際機関が連携し、「One Health Joint Plan of Action(2022–2026)」を公表しました。人獣共通感染症対策、薬剤耐性対策、食品安全、環境保全にわたる国際的な協調行動の枠組みが示されています。
日本においても厚生労働省・農林水産省・環境省が連携し、ワンヘルスの実践が国策として推進されています。そして今、この理念の観点から食品科学の分野に一石を投じる取り組みが注目を集めています。
「二刀流」の研究者が歩んだ30年の軌跡
2026年4月22日、東京国際フォーラム ガラス棟4階G409会場。獣医師ら約100名を対象としたランチョンセミナーで壇上に立ったのは、オリエンタルバイオ株式会社 研究開発部スペシャルアドバイザーを務める横田隆氏(医学博士・農学博士)です。
横田氏はその研究者人生について、次のように語り始めました。
「大学を出て研究生活をスタートして以降、様々な研究に関わる中で、ある出会いをきっかけにして、まあ今風に言えば医学分野での基礎研究と、農学分野における応用研究の二刀流の研究を進めることになりました。」
医学部の研究室では、老化やがんの病理組織学的解析、分子生物学的な遺伝子解析(DNAマイクロアレイ解析やゲノムシーケンシングを含む)に従事していました。一方で農学部の大学院では、自然界に存在する天然資源物質の生理活性を探索し、医学分野への応用を目指す研究に取り組んできたといいます。
横田氏がたどり着いた問いは、「発病してから治療するよりも先に、病気を予防すること」の重要性でした。
「私は老化やがんの研究を進めていく中で、病気の発症を未然に防いだり、老化の進行をなるべく遅らせて健康を維持できるような予防医学的な研究にも興味を持っていました。」
そして、その実現手段として横田氏が着目したのが「食品」でした。
「私は健康を維持するために必要な食品に、食品の中の成分にその可能性を見出すことにしました。食品の持っている栄養成分や生理活性物質を見つけ出し、実際に動物や人に効果があるのかを細胞や動物実験、および人での臨床試験を踏まえた医学的研究をすることで検証する。健康を維持するためのツールとして食品の持つ機能や可能性を形にすること、つまり医学分野の研究と農学分野の研究を融合させることで実現可能ではないか。」
活性酸素に着眼──「体内の敵」への防御
横田氏の研究の核心にあるのが、「活性酸素」と「酸化ストレス」です。
「私は慢性的な疾患の生活習慣病や加齢による変化は生きていく上で、長期間にわたって環境や体内で発生するストレスによるダメージの蓄積によることが多いのではないかと感じていました。発病してから治療することよりも先に病気を予防する、つまりダメージに対してまず防御することが重要ではないかと考えました。」
活性酸素は免疫や情報伝達に必要な「もろ刃のつるぎ」であると横田氏は説明します。呼吸によってミトコンドリアで発生するエネルギー産生の過程で、体内酸素の約1〜3%が活性酸素に変換されると推測されており、その過剰産生が細胞や組織へのダメージ(酸化ストレス)を引き起こします。
また、活性酸素は生活環境に潜む紫外線・大気汚染・タバコ・化学物質などによっても増加するとし、日常的な酸化防御の重要性を強調しました。さらに酸化ストレスの指標として知られるSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)活性量は動物の寿命と相関しており、
「人間のように活性酸素の発生量に対してSOD活性が高い動物が最も長寿で、ゾウは約70年、馬や猿、ゴリラは30から60年、犬猫は15年、ネズミは3年程度と言われています。」
と紹介しました。抗酸化能が生命の長さに直結するという視点は、動物を診る獣医師にとっても示唆に富む観点です。
発酵食品に「宝」を見つけた──NTエキス誕生の経緯
横田氏は大豆・にんにく・じゃがいも・ごま・玉ねぎなど複数の食品のラジカル消去活性を比較検討しましたが、単体では顕著な活性を示すものは見られませんでした。転機となったのが「発酵」への着目です。
「次に我々が注目したのは発酵成分でした。日本では古来から味噌や醤油、お酒などの発酵食品が健康の源でしたが、発酵食品には様々な薬理作用があり、食品加工の工程で抗酸化物質が生じることも報告されていました。」
納豆・味噌・インドネシアの発酵食品「テンペ」などを比較した結果、
「納豆が最も抗酸化能が高く、大豆成分だけでは抗酸化能の低かった大豆が納豆菌で発酵させることで顕著な抗酸化能の増加を認められました。」
これを足掛かりに、大豆の選定・発酵工程・有機溶媒による抽出方法を改良し、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)やマススペクトル、NMRを駆使した構造解析を経て、「最も抗酸化活性が高く安全で長期保存が可能な食品由来の抗酸化成分」の抽出に成功しました。
「それが大豆発酵エキスNTです。」
NTの分子量は約1064で、脂肪酸やリン脂質を構成とする配糖体を含む脂溶性の構造物であることが推定されています。一方で横田氏は、成分の生成・抽出を繰り返す中で抗酸化活性がどうしても消失してしまうため、「最終的な抗酸化活性成分の単一物質の化学構造は同定することができませんでした」とも率直に述べており、成分の完全な解明は今後の研究課題として残されています。
おから活用──廃棄物を「宝」へ転換する発想
NTエキスの開発において特筆すべき点の一つが、原料を「おから」へ切り替えたことです。
「コスト面と、廃棄物利用の観点から原料の大豆をおからに変えて…大豆由来の抗酸化成分とおから由来の発酵物の抗酸化活性に差がなくなることに成功しました。この廃棄物としてのおからを用いて抗酸化成分の抽出、生成に成功したことにより、環境への影響の軽減、廃棄コストの削減だけでなく、そこに廃棄物の再利用と付加価値化を見いだすことができました。」
豆腐製造過程で大量に発生するおからは、日本でも廃棄コストや廃棄方法が長年の課題とされてきた副産物です。それを高機能性素材へと転換したこの取り組みは、SDGs目標12「つくる責任・つかう責任」が掲げる資源の有効活用に直結する実践といえるでしょう。
横田氏はこの意義を次のように整理しています。
「学術的な意義として、新規性ということでは大豆発酵物由来の安定した抗酸化物質を得られること。実用性として使用添加と塗布後処理の両方で有効ではないかということ。経済性では安価で大量生産が可能であること。」
積み重なる科学的根拠──細胞実験から臨床試験まで
横田氏は多段階の研究成果を紹介しました。その概要を整理します。
① 細胞・動物実験でのin vitro・in vivo効果
NTはリノール酸・リノレン酸・DHA(ドコサヘキサエン酸)などの不飽和脂肪酸の酸化を抑制し、ビタミンE(トコフェロール)と同程度の過酸化脂質の増加抑制を示しました。またヒト内皮細胞の酸化障害による細胞死を「濃度依存的に顕著に抑制」したことも報告されています。炎症抑制に関しては、ネズミを用いた実験モデルで足浮腫の抑制や過酸化脂質の増加抑制が確認されています。
② 動脈硬化(アテローム)抑制──ウサギモデル
高コレステロール食を摂取したウサギを用いたアテローム発症モデルでは、NTの5か月間経口投与によって酸化LDLコレステロールの上昇抑制および大動脈内膜のアテローム病変の軽減が認められました。
「NTは血液中のLDLコレステロールの酸化を阻害し、また活性酸素による酸化障害を抑制することでマクロファージの飽和化を防ぎ、アテロームの発症進行を抑制できることが示唆されました。」
③ ユニバーサル抗酸化能の確認
NTの抗酸化能を多面的に評価した研究では、スーパーオキシド、ヒドロキシラジカル、過酸化水素、ペルオキシナイトライトなど、体内で発生する様々な種類の活性酸素、ラジカルすべてに対してNTが消去活性を持つことが確認されました。
「ミトコンドリアで発生する反応性の高い一次活性酸素(スーパーオキシド)、過酸化水素、ヒドロキシラジカル、ペルオキシナイトライトなどの様々なタイプに変化する活性酸素やラジカルに対しても対応でき、消去することで酸化障害を防御することが明らかになりました。」
④ 心肺停止蘇生モデルでの生存率改善
全身性虚血再灌流障害を引き起こす心肺停止蘇生モデルを用いた動物実験では、NTの14日間経口投与(心肺停止前後7日間ずつ)により、
「心肺停止7日後の生存率は対照群と比較して、低体温群、NT群、NTプラス低体温群でともに約50パーセントの生存率の増加が認められました。またYMASでの行動試験では対照群と比較してNT群、NTプラス低体温群で有意に改善を認めました。さらにNT投与による酸化物質の軽減効果や脳機能のスコアの改善も認められました。」
脳海馬の神経細胞の減少抑制も確認されており、「重症患者に対する新たなニュートリションテラピーとして期待」されると横田氏は述べました。
⑤ 慢性維持透析患者を対象とした臨床試験
透析クリニックにて慢性維持透析患者18名を対象に、非盲検・非ランダム化による前向き介入試験を実施。NT含有食品を1日90mL、6か月間経口摂取した投与群と非投与群を比較した結果、
「血液中の炎症・酸化障害マーカーのMCP-1、8-OHdG、CRPと心臓機能マーカーのBNPの増加を抑制し、エコーによって動脈硬化の指標である頸動脈内膜中膜複合体の肥厚の改善が認められました。」
「NT含有食品の抗酸化作用・抗炎症作用によって慢性維持透析患者の心臓保護や腎機能保護する作用を有する可能性と、動脈硬化の進行を軽減する可能性が示唆されました。」
社会実装が届けた「声」──ヒトから伴侶動物へ
研究が商品「ラフィーネアルファ」として製品化された後、横田氏が近くで受け取ることになったのは、実際の利用者の声でした。
「例えば、脳梗塞を発症なさった方、夫婦で大病を乗り越えられた方、血圧が高く気力が衰えた方、気弱体質に長年悩んでいた方。何年も商品の摂取を継続され、今は元気で幸せな時間や有意義な日々を過ごしているとおっしゃる方々の一部の声です。」
さらに注目すべきは、ペット(伴侶動物)への利用に関するユーザーの声です。
「お客様の中にはご自身と一緒に生活されている伴侶動物にも商品を摂取させている方が多くいます。そういった方々のお話では、家族同様に生活していく中での感想は、元気を取り戻したというご意見が最も多かったように思います。例えば、食欲が出てきたワンちゃん、体調が良くなったワンちゃん、毛艶が良くなったワンちゃん、不調が良くなってきたワンちゃん。」
こうした声が積み重なったことを受け、大学の獣医学部と協力してペット犬4匹を対象に市販ドライフードへNTを添加した3か月間の摂取試験を実施しました。血液生化学的検査(糖尿病・脂質異常症・肝機能・腎機能関連項目)、嗜好性、体重、血圧等を詳細に調べた結果、
「特に副作用の兆候は認められず、嗜好性にも特に変化はありませんでした。」
小規模ながらも、伴侶動物への安全性を確認した初期的な検証データとして意義のある一歩です。
NTエキスとワンヘルスの交差点
横田氏はここで、自らの研究の歩みと「ワンヘルス」の概念が交差することに気づいたと語ります。
「今回本学会にあたり開催のテーマである人と動物と環境の健康を一つと考えるワンヘルス宣言が、実は私たちが考えてきたこととつながっているということです。」
実際、横田氏とオリエンタルバイオが取り組んできたことを整理すると、以下の3点に集約されます。
- 人の健康:NTエキスの抗酸化・抗炎症作用によるヒトの健康維持・疾患予防への貢献
- 動物の健康:伴侶動物への応用、畜肉の脂質酸化抑制・鮮度保持による畜産動物の健康と食品ロス削減への寄与
- 環境への貢献:おから(廃棄物)の再利用・付加価値化による環境負荷の低減と循環型経済の実践
「これはまさに世界獣医師会の皆様がお考えになる人の健康、動物の健康、環境への健全性を1つの健康と考え対策するワンヘルスの考え方に近いものであったと認識しております。」
畜産動物へのサプリメント活用についても、横田氏は示唆に富む視点を提示しました。
「畜産用サプリメントは現在、栄養を足すというフェーズから社会課題を解決するというフェーズに移っているので、視点を変えて臨むのが大事ではないでしょうか。今後は健康食品業界にも、畜産動物の健康管理という視点をより一層取り入れることでワンヘルスの取り組みに貢献できると自負しております。」
「一個人・一企業」からのワンヘルスへの参加
横田氏は講演の後半で、ワンヘルスを「大きな組織だけが取り組むもの」とは捉えないよう呼びかけました。
「一個人、一企業が小さいながらにビジネスを通じて社会に貢献しようという取り組み、しようと取り組むことはワンヘルスの精神につながるのではないでしょうか。」
そして、誰もが今日からできる日常的なワンヘルスの実践例として以下を挙げました。
「人であれば抗生物質を正しく使う、手洗いやうがいを徹底する。動物であれば予防接種をきちんとする、野生動物との適切な距離を取る。環境であればエコバッグの徹底した利用、地産物の選択による輸送コストや使用数の削減、ごみの分別をきちんと行なうなど、多々あります。」
大きな国際的枠組みと、身近な日々の行動が連続するものである──横田氏の言葉はその本質を端的に示しています。
研究・産業・社会をつなぐ「理想的なサイクル」
横田氏が講演を通じて一貫して強調したのは、研究開発から社会実装、そしてユーザーボイスを受けての改善・リニューアルという「循環」の重要性です。
「研究開発、製品化、社会実装、ユーザーボイス、検証、研究、製品リニューアルの流れを一貫して行なうことは、研究者、企業、そして社会にとって、それぞれメリットのある体制・構造を呈しており、社会における理想的な循環を生むことができるとの思いに至っております。」
そして最後にこう結びました。
「私たちのような健康食品分野の事業者も参入してワンヘルスへの実現に向けてますます研究や商品開発、そして社会貢献への努力をしてまいりたいと思います。」
今後の展望
横田氏が30年にわたって積み重ねてきた研究は、細胞実験・動物実験から臨床現場での応用、さらには伴侶動物や畜産分野への展開へと、着実にその裾野を広げています。
食品由来の機能性素材の研究は、医薬品とは異なる長い時間軸の中で、ユーザーの声や現場との対話を繰り返しながら進化していくものです。今後も引き続き、さまざまな対象・場面でのデータが蓄積されていくことで、ワンヘルスの文脈における食品科学の可能性はさらに広がっていくことが期待されます。
参考リンク
・One Health Joint Plan of Action (2022–2026) ─ WHO
https://www.who.int/publications/b/66239
・One Health Joint Plan of Action ─ WOAH(PDF)
https://www.woah.org/app/uploads/2022/04/one-health-joint-plan-of-action-final.pdf
・福岡県ワンヘルス推進サイト「ワンヘルスの歩み」
https://fukuoka-onehealth.jp/history/
・オリエンタルバイオ株式会社 研究ページ
https://www.orientalbio.jp/business/research/
取材・文:SDGsポータル編集部
◆第41回世界獣医師会大会2026 公式サイト
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