働きたくても働けないお母さん。
彼女たちのポテンシャルを引き出し
介護の現場で活躍の場をつくる。
“働きたくても働けないお母さん”の増加が懸念されています。出産・育児をきっかけに家庭に入ったお母さんたちの多くが、社会進出をあきらめざるを得ない状況に陥っているのです。ある民間の人材会社が調べたところ、87%の女性が“結婚・出産後も働きたい”と考えていることが分かりました(株式会社エン・ジャパン調べ)。しかし、仕事への復帰には 仕事の条件、時間の制約、保育園・幼稚園などの空き状況、勤め先やパートナーの理解など数多くの壁があるようです。
このような状況の中、『あかしあ大河』では、2018年10月から『ワーキングマザープロジェクト』という、あかしあ流“働き方改革”をスタートさせて、“働きたくても働けないお母さん” の社会復帰を支援しています。-その2-では、この、あかしあ流“働き方改革”について、詳しく三田さんに伺いました。
おんぶひもで背負って、やってみよう!
働きたいお母さんをやさしく介護現場に迎える。
『ワーキングマザープロジェクト』
三田:常にいかに人財を確保するかについて考えています。しばらく前、ちょうど“イクメン”という言葉が一般に知られるようになった頃、女性の雇用について考えていました。男性、つまりお父さんは育児休暇ということで仕事を休んで子育てを手伝う…あくまでも一定期間のことです。でも、お母さんはどうなのだろう。男は、“育児”という限られた時間の休暇だけれど、お母さんは、妊娠・出産・育児と長期間にわたる休暇を余儀なくされる。そして、それは離職につながることも多いですよね。きっとお母さんたちは“働きたくても働けない”ことが多いのではないかと感じたのです。
編集部:確かに、データを見ていると、”仕事の条件や時間”、“保育の状態”などがハードルになって、なかなか社会復帰できないことが多いようですね。
三田:社会復帰を考えている育児期のお母さんは、子どもを保育施設に預けることができないと自分で面倒を見るしかない。だから、働きたくても働けない。なんとか、働きたいのに働けないおかあさんをサポートする手立てはないものか…。あれこれ考えているうちに気づきました。悩んでばかりいてもはじまらない、まずは、動いてみよう、と。まずは、おんぶひもで子供を背負って来てもらおう、と。そうしてスタートさせたのが、保育園や幼稚園に入園する前の1~3歳児を持つお母さんを対象にした、『ワーキングマザープロジェクト』です。
介護現場で子どもといっしょに働くワーキングマザー
復帰するお母さんも既存の現場スタッフも
どちらも笑顔になれる介護環境づくり-介護サポーター
編集部:『ワーキングマザープロジェクト』のポイントは?
三田:スタッフ間の温度差をなくしたことです。復帰されるお母さんにはブランク期間があります。社会から離れる時間が長くなるほど、次の一歩を踏み出す階段の段差が高くなる。「こんな私で大丈夫?」「今の私で通用するの?」この不安をいかに払しょくするか。あと、いっしょに働く既存のスタッフの意識。人財不足なので“助かる”というポジティブな意識と同時に同じ介護スタッフだから“私たちと同等の仕事をして当たり前” というネガティブな意識が出てくる可能性がある。このネガティブな意識をどうするか。ワーキングマザーと既存スタッフがお互いに気負わずに働ける環境づくりが欠かせない。それが“持続する介護現場づくり” の基本になるのではないか、と。そこで、 “介護サポーター”という介護職員の前段階のポジションを新たに創設しました。
介護事業には、入居者に対して何人のスタッフを配置するかということを定めた人員配置基準が設けられています。うちでは、介護サポーターをこの基準人員に入れず既存スタッフだけで基準を満たすようにしています。これは経営的には人件費アップなどにつながるのですが、コストなど目の前の問題だけに囚われていると“持続できる介護現場”をつくることはできない、ということで採用しています。
働くお母さんが、介護サポーターを卒園しても
確実にキャリアアップできるネクストステップを。
『在宅ワーク』
編集部:子どもが幼稚園や保育園に入園してからは、どんなステップが用意されていますか?
三田:子どもが幼稚園、保育園に通い出しても、土日祝とか午後3時以降は働けないなどといった時間的制約が残ります。これでは、実際には介護サポーター枠から抜け出すことができない。でも、それを「ムリ」と簡単に諦めたくなかった。子育ては家庭にとって第一のこと。それを尊重しつつ社会で活躍できる機会をいかに増やしていくか。そこで生まれたのが『在宅ワーク』です。2019年4月からはじめています。
編集部:えっ⁉ 介護事業で在宅ワーク⁉ そんなこと可能なのですか?
三田:驚かれるのはもっともですね。介護事業というのは、現場で直接業務をするイメージが強いですから。そのイメージ通り介護業務とは現場での直接介護業務が7~8割であることは確かです。ただ残りの2~3割の業務には記録作業や行事企画、資料作成といった間接的な業務もありますがあまりこの部分は表に見えてこない部分ではあるかもしれません。それはこれまで間接業務は、現場スタッフが、現場業務の時間を削ったり、時間外でこなしたりしていましたから。このような個々の現場スタッフの“がんばりに頼る体制“を変えていかないといけないと思いました。そこで、自宅に居なくてはならないお母さんに、この間接業務を家に持ち帰ってこなしてもらうモデルをつくりました。具体的には、毎月、入居者の家族に送っている近況報告に写真を添付した70数件の手紙の編集作業の在宅業務化です。自宅にいるお母さんに育児や家事などのない空いた時間を使って作業してもらっています。
このモデル導入で、働けなかったお母さんに仕事をつくり給料を渡すことができるようになったとともに、現場スタッフが直接業務に専念できる時間が増え、サービスの質の向上につながりました。
持ち帰る在宅ワークから、つながる在宅ワークへ。
テレワークに進化した『在宅ワーク』
編集部:スタートから1年余りが経ち、現在、『在宅ワーク』は、どんな状況になっていますか?
三田:『在宅ワーク』をしていたスタッフは、相談員にキャリアップしました。今は、新型コロナウイルス感染防止ということもあり、直接会って面談活動をすることが難しい状況なので、話題のZoom(テレビ会議などができるアプリケーションのひとつ)を使って、リモートで面談活動をしてもらっています。テレワーク化が進んでいる状況です。
自宅で子どもといっしょに面談活動のテレワークをするスタッフ