2024.8.3
2024年6月4日から16日にかけて約2週間にわたって福岡県北九州市で開催された「買取大吉 バレーボールネーションズリーグ2024福岡大会」(VNL2024福岡大会)は、男女日本チームが共にパリ五輪出場権を獲得するという成果とともに、非常な盛り上がりの中、幕を閉じました。前回の記事では、本大会がどうのようにSDGsに取り組んでいるかをご紹介しましたが、今回の記事では、その取り組みの結果について振りかえります。
この大会の特筆すべき特徴は、VNL2024福岡大会をSDGs推進スポーツ大会にするという大会運営委員会の方針に、開催地である福岡市と北九州市が積極的に賛同し、運営委員会の一員となって、大会が企画、運営されたところにあります。その結果、スポーツ大会としての成功はもとより、地元開催地域への多方面にわたる貢献を生み出し、選手、大会スタッフ、観客、地元の人たちが一体となって、大規模スポーツ大会の新たな価値を生み出すことに成功しました。
このVNL2024福岡大会に関する記事を、「SDGs推進を目的に掲げることが事業の成功に直接結びつく」理想的な例の一つとして、何回かにわたって、連載します。
(1)既存競技施設の利用と好立地条件の活用
(2)⾷品ロスの大幅削減
(3)メリハリをつけたゴミ処理
(4)開催地への貢献と新たな価値の創出
(5)まとめ

(1)既存施設の利用と好立地条件の活用
近年、大規模国際スポーツ大会のための競技施設の新設や増強による⾃然環境破壊や⽣態系への悪影響が非常に問題視されてきています。VNL2024福岡⼤会では、駅に近く、観客の利便性も⾼い既存の施設で開催することで、まずこのリスクが回避されました。
さらに、試合会場となった北九州市の西日本総合展示場新館は多目的会館として機能しており、試合会場、駅、商店街、隣接した公園が一箇所に集まっており、選手、スタッフ、観客にとって徒歩で移動が可能という好条件を備えています。
本大会では、この好条件を土台に、開催地福岡県と北九州市の積極的な働きと地元の心温まる協力のもと、以下のSDGs推進に寄与する多様で新しいアイデアが種々導入され、成功裏に実行されました。
1) 環境保護とともに健康に良い、選手団の徒歩によるホテル、練習場、試合会場間の移動が実現
2) 既存施設内でのリサイクル可能な材料による手作り仮設会場の設置(約8,000観客席等)
3) 日本初のファンゾーンの設置による選手と観客及び市民の対面交流
4) 福岡県による隣接公園でのにぎやかしイベント実施による地元との交流
5) 地元スポーツ専⾨学校からのトレーニングマシーン貸与による試合会場内への利便性の⾼い選⼿⽤スポーツジムの設置。これにより、試合直前の体調管理など選手へのサポートと地元民と選手団の絆の創生が実現
6) あらゆる機会を通して、選手をはじめ大会関係者たちが街に出て、観客や地元の人たちと触れ合うことを可能にし、地元のスポーツ大会という意識を強めた。
本大会では、企画段階からSDGs導入の意義が、選手やスタッフなどの大会関係者のみならず地元の人たちにもきめ細やかに伝えられ、賛同を得て、深く浸透していました。その結果、上に挙げたように、また以下に詳しくみていくように、大会進行に携わるすべての人たちが、SDGs推進に積極的、意欲的に取り組み、様々な新しいアイデアが生み出され、実行されるということが実現しました。
(2)食品ロスの大幅削減
選⼿団に加え、⼤会開催には多くのスタッフが携わっています。これまでの⼤規模国際スポーツ⼤会では、選⼿団にはホテルでのブッフェが、スタッフには利便性の観点から弁当が提供されるのが通例となっており、過剰な仕⼊れや⾷べ残しなどを原因とする大量の⾷品ロスが、大規模な資源の浪費や廃棄物の増加につながってきました。
A)ミールチケットによるフードロスの大幅削減
VNL2024福岡⼤会では、フードロスの大きな原因である延べ4,000人以上の大会スタッフへの1日2食の弁当配付が廃止されました。代わりに、ミールチケットが配付され、徒歩圏内の商業施設のレストランや試合場隣のイベント会場でのキッチンカーでの使用によって、食事をしてもらう制度が導入されました。その結果、従来なら2,000食にも及ぶと予想された弁当の廃棄が無くなり、画期的なフードロスゼロが実現しました。

- 大会運営スタッフ:フードロスゼロの達成と新たな自覚
ミールチケット制の導入によって弁当廃棄によるフードロスがゼロになりました。しかし、大会開催前には、利便性の高い弁当の代わりに、秒単位で進行するバレーボール試合に関わる忙しい仕事の合間に街に出て食事を済ますというミールチケット制が、スタッフに余計な負担を強いて、制度自体がうまく機能しない恐れがありました。しかしいざ蓋を開けてみると大会側の心配をよそに、ミールチケット制は従事スタッフたちに、快く受け入れられました。そればかりではなく、スタッフの間では、各⾃のタイミングで、街中で、好きなものを注⽂でき、フードロスが出ないこと、アレルギー/宗教上禁忌が解消され、2週間以上の長丁場の間の食事に多様性が得られたこと、小倉の街を知り、地元の人々に触れることができたこと、など非常にポジティブな感想が占めました。
ミールチケット制という新しいSDGs推進の試みに当事者として意欲的に参加することで、大会スタッフの⼤規模スポーツ⼤会における意識改⾰がなされ、⾏動様式の変更が実現されるという、うれしい結果となりました。

- 印象的な官民連携
ミールチケット制は、地元飲食店の協力が必須でしたが、SDGs推進に賛同した北九州市と各店舗取り纏め社と各店舗の迅速かつ積極的な協⼒によりスムーズに実現されました。

- 協力店の働きと地元への貢献
SDGs推進策として導入されたミールチケット制は、売上が上がる取組みで、協力店から⾮常に好評価で迎えられました。その結果、ミールチケットを使用できる飲食店は合計116店にも上り、地元への経済普及効果が実現しました。
さらに、例えば、アミュプラザは、独⾃でVNLスタッフ向けポスターやデジタルサイネージを作成され、作成したサインを他2ビル(ビエラ、セントシティ)にも提供してもらい、即座に全店店頭に表⽰されるということがありました。
この例にある通り、SDGs推進に対する地元の強⼒な⽀援があって、導⼊から実施中の調整までのスムーズな対応により、ミールチケット制が実現されました。このような地元の歓迎を直接感じられる対応は、大会スタッフがストレスを感じることなくミールチケットを使⽤でき、スタッフの充実感、⼀体感をも⾼めました。小倉であれば他イベント等でも同様の取組みを円滑に導⼊できると確信させる結果です。
従来は会場内に篭りがちなスタッフを、⾷事のために会場外へ誘導し、会場内、特定業者などその効果が限定的だった経済効果の範囲が拡⼤され、SDGs推進が地域振興と街の賑わいの創出に大いに貢献する好例となりました。

B)ホテルにおける選手団らのフードロス削減
選手団らのフードロス削減の取り組みは、ホテル側の⼤⽫への提供と方法を工夫すると同時に、選手たちによる⾷べ残しを減らす啓蒙を、⾷事会場に、本大会におけるフードロス軽減の取組みについて呼びかけるポスター、各テーブル上に三⾓形のポップを設置することにより実施されました。
選⼿らのフードロス軽減への意識は⾮常に⾼く、取り分けた料理は完⾷し、個⼈に起因するフードロスは極めて少ないこととなりました。
選手たちが取り分ける大皿の料理に関しては、ホテル側のきめ細やかな工夫が好評でしたが、選手個⼈での対応だけでは及ばないことでもあり、さらなる今後の課題とされました。

C)フードドライブの実施
未開封の食品は、福岡県・北九州市が取組む活動「フードドライブ(家庭などで食べなかった食品(個包装)を持ち寄って寄付する活動)」を活用するため、回収ボックスとノボリを会場周辺に4箇所設置し、その結果、回収ボックス1箱分の⾷品が集まりました。これらは(⼀社)福岡県フードバンク協議会によってフードバンクや⼦ども⾷堂、福祉施設などに寄付されます。
D)地産地消の推進と地元特産品等のPRによる大会と地元の交流
県産⾷材の利⽤拡⼤の促進、地産地消(福岡県「ワンヘルス」基本⽅針06)の推進として、びわや無花果、巨峰の旬の果物が福岡県より提供され、VIP、特別体験の観客など各種ラウンジで振る舞われました。ラウンジ内にはこれら果物の紹介ポップ等が出され、福岡県特産品のPRが実施されました。また、福岡県産花きのPRなど、開催地の広報も推進されていました。
合わせて、福岡県で産出額全国3位となる花きを、各種ラウンジ、観客向けトイレに飾り、選⼿らに試合後にビクトリーブーケを贈るなど精⼒的な広報活動がきめ細やかになされたことも特筆されるべきことでした。なお、ビクトリーブーケは地元のこどもたちから選⼿に⼿渡すなど、交流の場がさらに創出されていました。

VNL2024福岡⼤会は、フードロスの主原因であるスタッフへの弁当を廃止し、代わりにミールチケットとそれを利用した地元飲食店やキッチンカーでの食事により、弁当廃棄ゼロ(フードロスゼロ)を達成できたことは特筆すべきことです。
同時に、本取組みにより、食事のためにスタッフが街へ出歩き、従来の会場に偏りがちな経済効果の範囲を拡⼤し、地域振興が図られ、地元への⼤規模国際⼤会を誘致するメリットを加えることに貢献したといえるでしょう。
(3)メリハリをつけたゴミ処理の取り組み
今大会では、スティックバルーンをはじめとするプラスチック製品や多種多様なごみの処理を⼯夫することで、環境へ与える負荷を軽減するためにメリハリを付けた取り組みがなされています。
A)大会特有のゴミを廃棄物処理の技術イノベーション素材に利用
観客席などの会場設置に伴うゴミの排出は、既存施設の⻄⽇本展⽰場が利⽤され、再利⽤可能な仮設スタンドを組んで、パイプ椅⼦を並べて設営されたため、仮設階段⽤⽊材、カーペットなどのみがゴミとして発⽣しました。
この廃木材、廃カーペット(繊維クズ)と、バレーボールの応援に⽋かせない大量のスティックバルーンは、他の廃プラスチックと共に、遠⾚外線と触媒(燃やさない、化学薬品を使わない)で廃棄物を減容化、再資源化する新しい処理技術eMAC(イーマック)の実⽤化に向けた素材として回収(株式会社輝陽http://kiyou-fuji.com/)、利用されました。

B)弁当がらなど分別困難なプラスティック+生ごみ:⼿間とコストを抑えた汎⽤性のある⾼温⾼圧加⽔分解システムのモデル化
⼀般的にプラスチックのリサイクルには⽣ごみとの分別が必要ですが、⼤規模イベントでは実現が困難です。そこで今大会では、プラスチックと⽣ごみを分別せず⼀緒に、CO2をほとんど排出しない⾼温⾼圧加⽔分解システム(燃やさない)方式で固形燃料にリサイクルするという、環境に配慮した処理方法が採用されました。
これは、ゴミ分別が困難な、⼤規模イベントでも導⼊しやすいゴミ処理⽅法としてモデル化することが可能であると考えられます。

C)ペットボトルと一般ゴミ:コストを抑える
ペットボトルと一般ゴミは、収集運搬・処理費⽤が安価である⻄⽇本総合展⽰場の指定処理業者によって、ペットボトルは⾃治体の指導に従ったリサイクル、紙くずなど⼀般ゴミは従来の焼却処分とされ、⼤会コストを抑える方法が取られました。
D)ゴミの分別の実施方法
容易に分別可能なゴミは、リサイクルステーションの設置と観客への啓蒙により分別がなされました。
* 会場隣の盛上げイベント会場(公園)にゴミステーションが設置され、プラスチック、ペットボトル、カン、燃えるゴミの分別が実施されました。
* 選手から「リサイクルの取組みと協⼒のお願い」の動画メッセージをもらい、試合会場内と公園のパブリックビューイング⽤の⼤型ビジョンで放映されるという非常に印象的な取り組みがなされました。
* 試合後の館内放送で、スティックバルーンの回収についてアナウンスが実施され、観客のSDGs推進の啓蒙が実施されました。そのアナウンスは次のように心に届くものでした。「本⼤会は、次の世代もスポーツを楽しめるよう、サステナブルな⼤会を⽬指し、取り組んでいます。応援後のスティックバルーンは、お帰りの際に座席に置いていただくか、出⼝の回収ボックスに⼊れてください。ご協⼒をお願いいたします。」
* 過去の国際バレーボール⼤会では、会場周辺にスティックバルーンが廃棄されていることがありましたが、今回は⾒当たりませんでした。大会運営委員会による積極的な試みが、観客の意識向上に繋がったことも⼤きな成果と⾔えます。

(4)SDGsを旗印にした官民連携による新たな取り組み
最後に本大会の大きな特徴を見てみます。本⼤会は、福岡県と北九州市を構成員に含むVNL2024福岡⼤会組織委員会が主催者となり、官⺠が真に連携して、これまでの国際スポーツ⼤会とは⼀線を画す公共性と⼤会の価値を⾼めることを意識して、SDGs推進に寄与する新たな取組みを随所に取り⼊れ、モデル化を⽬指したところに非常に大きな意義を見出します。
A)大会の公共性と新たな価値の創出
* 選手とファンの交流のための⽇本初のファンゾーンの設置
* 特別体験付きプレミアムな座席”エキサイトシート”の設置
* 福岡県、北九州市によるボランティア派遣
* 福岡県による隣接公園でのにぎやかしイベント実施
* 福岡県の花きを使⽤した会場内装飾、ビクトリーブーケによる特産品PR
* 地元スポーツ専⾨学校からのトレーニングマシーン貸与による会場内に利便性の⾼い選⼿⽤スポーツジムの設置
* 地元マッサージ師による、スタッフ向け無料マッサージ実施


B)子供たちの多様なスポーツ機会の創出
- 観戦招待
福岡県内の⼩学校から合計1,614⼈が招待され、さまざまな国からの選手たちによる真剣勝負を⽣で観戦してもらい、スポーツの魅⼒である感情を揺さぶる瞬間を感じてもらう機会が提供されました。また、試合後に選⼿へビクトリーブーケを贈るなど、選⼿とのふれあいの場も設けられました。これらの機会が、⼦供たちの成⻑と多様性の理解につながることを願って提供されたということです。
- 出前教室
スポーツ離れが進む⼦供たちに向けて、バレーボールの体験教室が実施されました。福岡県内の社会⼈チームを講師に迎え、現役選⼿のプレーを⽬の当たりにし、バレーボールの魅⼒を感じてもらうとともに、地元チームとのつながりを感じる機会を創出し、地域のスポーツ振興が推進されました。

- 子供観戦料金の設定
バレーボールネーションズリーグ(VNL)は⾝近で開催される大規模国際スポーツ⼤会で、バレーボールの普及を⽬的に、男⼥各3カ国を転戦しています。
VNL2024福岡大会では、⽇本で世界のトップアスリートの試合を⽣で観戦できる貴重な機会を、より多くの⼦供たちが享受できるように、価格設定の配慮がなされました。
スポーツ競技会の観戦チケットは、⼦供料⾦については⼩学⽣以下を対象とするか、⼈気がある試合には設定がない場合が⼀般的ですが、今⼤会では、すべての試合において、⾼校⽣までを⼦供料⾦として実施されました。

(5)まとめ
本⼤会は、環境対策だけでない幅広いSDGsの取組みを行う中で、選⼿、観客、スタッフに対するホスピタリティが⾼められ、満⾜度の⾼い⼤会とすることに成功しています。
その中で、特に試合と大会の雰囲気と盛り上がりを決めた観客の積極的な態度は、特筆すべきものでした。大会側からの様々なSGDsヘの啓蒙活動に応えてくださり、食品ロス軽減、ゴミ削減、分別等への協力、日本戦だけでなくすべての競技での素晴らしい応援、ファンゾーンでの選手たちとの交流、試合会場内外での大会を心から楽しむ態度、どれひとつとっても極めて印象的でした。これら観客のポジティブな行動抜きには、本大会の成功はなかったと思います。
また、バレーボールは特に若い世代を中⼼にしたファン層があり、彼らは⽣まれた時から環境問題と共にあるためSDGsへの意識が⾼い世代と⾔えます。このことは、SDGs推進をメインテーマに掲げた本大会の運営が、若い世代を中心に、全世代の幅広い支持を受けていることを実感させ、今後の展開に希望を持たせてくれました。
VNL2024福岡大会は、世界大会であるVNLの⼤会価値を⾼め、ひいては国際社会における⽇本のプレゼンス向上により、今後の継続的な⽇本開催の誘致につながると考えられます。
SDGsを旗印に掲げて実行された本大会での様々な取り組みは、他競技でも導⼊可能な取り組みです。このように、地元に歓迎された本⼤会は、VNLをはじめ⼤規模国際スポーツ⼤会の誘致につながり、スポーツをする選⼿・⽀えるスタッフ・迎える開催地住⺠、すべてにとってメリットのあるWin-Win-Winのスポーツ大会の一つのモデルを構築することができました。

資料提供:VNL2024福岡大会組織委員会(SDGs部門)
文責:あおやま あきら


