2024.5.29
バレーボールにおけるパリ五輪への最後の出場枠をかけた国際大会「バレーボールネーションズ(VNL)2024」の日本ラウンドが6月4日(火)から16日(日)の約2週間にわたって福岡県北九州市にて開催されます。大規模国際スポーツ大会は、平和や人権などの意義と相まって、社会開発や経済成長、観光など、大きな開催意義があります。一方で、イベントの開催が環境に対する負の影響も指摘されています。今回は、大会の主催者である国際バレーボール連盟(FIVB)とその開催地の自治体(福岡県及び北九州市)がパートナーシップを組んで、SDGsの実現に向けて新たな取り組みをしようとしている「買取大吉 バレーボールネーションズリーグ2024 福岡大会」(VNL2024福岡大会)にスポットを当てて、ご紹介したいと思います。
(1)オリンピック出場権をかけたバレーボール大会
• 世界的に人気の高いバレーボール
• バレーボールネーションズリーグとは
• 大規模国際スポーツ大会とSDGs
(2)VNL2024福岡大会の注目すべきSDGs
• 大会組織委員会と地元自治体のパートナーシップによるSDGsの推進
• SDGsの理念に沿っている開催地・福岡県/北九州市
• サステイナブルな大会をめざした取組み
(3)VNL2024福岡大会での新しい取り組み
①フードロス削減:ミールチケットの導入
②ゴミのリサイクル:ゴミ処理技術のイノベーション
③次の世代もスポーツを楽しむことができるように:多様な新しい取り組み
(4)ほかのスポーツ大会に影響を与える大会に
(1)オリンピック出場権をかけたバレーボール大会
世界的に人気の高いバレーボール
バレーボールは、世界でも最も競技人口の多いスポーツの一つです(推計約5億人)。日本で1年に1回以上バレーボールを行う人は約290万人とも言われています(2017年、公益財団法人日本生産性本部「レジャー白書2018」)。テレビ視聴などでも人気が高く、観戦するのが好きなスポーツとして、男女とも上位にランクされています。
バレーボールネーションズリーグとは
今回取り上げるバレーボールネーションズリーグ(VNL)は、国際バレーボール連盟(FIVB)によって2018年に新設された国際大会です。世界のトップチームとなる男女各16チームが、5月から6月にかけて、世界を転戦し、予選ラウンドで勝ち点の多い上位8チームがファイナルラウンドに進出して、トーナメント戦で優勝チームを決定するものです。今夏に開催されるパリ2024オリンピックの出場権は、男女各12枠のうち既に7枠が決まっており、男子日本代表はその出場権を獲得しています。残りは5枠。これは、VNL2024予選ラウンド終了時点の世界ランキングにより決定するため、女子日本代表にとっては、オリンピックへの出場権をかけた最後の大会となります。選手、大会関係者ならずとも、結果が気になるところです。
大規模国際スポーツ大会とSDGs
今回取り上げる大規模国際スポーツ大会について、SDGs発足時の国際連合パン・ギムン事務総長は、次のように述べています(2016年2月19日リリースより)。
「メガスポーツ・イベントは計画策定やビジョンを通じ、社会開発や経済成長、教育の機会、さらには環境保護を前進させることができます。平和と人権を含め、国連の価値観や目的を推進するための基盤にもなります。メガスポーツ・イベントには、新たに採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現に貢献できる可能性と、その義務があります。」
このように、大規模国際スポーツ大会は、平和と人権等、国際社会に大きな価値を持ち、開催地における経済効果などそれ自体がSDGs実現のための多くの恩恵があります。
一方で、大きなスポーツ大会には、選手はじめコーチ、スタッフなど多くの大会関係者が参加するため、宿泊ホテルのレストランにおける過剰な食品の仕入れや、選手、スタッフ等に提供したお弁当の食べ残しなどの食品ロスが多く発生します。また、多くの観客が観戦に訪れるため、そこで発生するゴミも無視できない量になります。このように、イベント開催が環境にもたらす負の影響が大きな問題となっています。
例えば、東京オリンピック2020では、開会式で余ったおよそ4000食分の弁当を含め、7月3日からの1か月でおよそ13万食の弁当などを廃棄し、その廃棄率は25%になったそうです。また、およそ500万円分のマスクや医療用のガウンなども処分していたことが明らかになっています。
(2)VNL2024福岡大会の注目すべきSDGs
大会組織委員会と地元自治体のパートナーシップによるSDGsの推進
VNL2024福岡大会では、大会の企画段階から、SDGsを意識しており、これらの課題を解決するため、FIVBと大会組織委員会、開催地の自治体(福岡県及び北九州市)のパートナーシップにより、SDGsの理念を踏まえた取り組みを進めています。言うまでもありませんが、このVNL2024福岡大会は、パリオリンピックの出場権が絡む重要な国際スポーツ大会ですから、FIVBと大会組織委員会がしっかりと大会運営を行います。と同時に、地元自治体が、SDGs施策の実行部隊として、密接に関係しつつ、SDGsの実現に向けて動いて行く体制にしたのです。
SDGsの理念に沿っている開催地・福岡県/北九州市
FIVB事務総長のファビオ・アゼベド氏は、VNL2024日本ラウンドの開催地を福岡県に選んだ重要な決め手は、県が人と動物の健康と環境の健全性を一体的に捉えて守ろうとする「One Health(ワンヘルス)」を推進していることであると述べています。この「ワンヘルス」を推進している福岡県が開催地であることがVNL2024福岡大会の重要なポイントとなっています。また、北九州市では、「SDGs未来都市」や「自治体SDGsモデル事業」に選定されるなど、SDGsの先進都市として知られています。
このように、SDGs に積極的に取り組んできた自治体と、FIVBとパートナーシップを組んで大会を進めることが、今大会の特筆すべき点であるということができるでしょう。
サステイナブルな大会をめざした取組み
ゴミの排出や食品ロスなど、大規模国際スポーツ大会が環境にもたらす負の影響に対して、いかに取り組むかが、サステイナブルな大会にして行くための試金石となります。
福岡県のワンヘルス推進行動計画では、その実践のため7つの柱が立てられています。その考え方は、サステイナブルな大会を目指すSDGsと合致しており、その計画及び実行を充実したものにする基盤となっています。
(3)VNL2024福岡大会での新しい取り組み
「クリーンな大会」をめざすVNL2024福岡大会では、今までにはない新しい取り組みが導入されています。
①フードロス削減:ミールチケットの導入
このような大規模国際スポーツ大会の場合、選手団に加え、大会開催には多くのスタッフが携わることになります。VNL2024福岡大会では、準備を含め大会期間24日間で延べ約20,000食(選手団約11,000食、スタッフ約9,500食)が提供される見込みだそうです。
これまでの大規模国際スポーツ大会では、選手団にはホテルでのケータリングが、スタッフには利便性の観点から弁当が提供されるのが通例でした。過剰な仕入れや食べ残しなどを原因とする食品ロスは、資源の浪費や廃棄物の増加につながってきました。
そこで、今回は、過去のデータや経験を基に、ホテルのレストランでは、各国チームの食事傾向に応じた料理を提供することや、食事の開始時間に合わせて出来立ての料理をサーブするなどホテル側の工夫と、ポスターとポップによる選手へのフードロス削減への理解と協力の要請により、料理ができる限り残らないよう工夫することとしています。これらは地元ホテルと選手団という提供側と消費側の両者の協力あればこその試みと言えそうです。
また、これまで、大会実施の際、当たり前のように多くの選手、スタッフ等にお弁当が提供されて来ましたが、今回は、それに替えてミールチケットを配付することとしています。これは、各自の注文ベースとすることで余分な供給によるフードロスを削減しようとするものです。これらが実現すれば、廃棄される弁当はゼロとなり、食べ残しによる食材も大幅に削減できる画期的なものとなるはずです。これには、ただでさえ大会の運営で忙しくしているスタッフの方々に、チケットを使ってもらうために、今回の取組みの意義を浸透させるとともに、チケットの使い方をスタッフにきちんと伝えるなど、とりまめる立場にある各部門のリーダーとの連携を促進するといったチャレンジングな面もあります。
今回のようなフードロス削減の取組みは、大規模国際スポーツ大会では初めての試みだと思われます。SDGsの推進に当たっては、「チャレンジ精神」も大切な要素であるところ、スタッフを含めた大会関係者にとっては、初体験であるとともに、大きなチャレンジの一つにもなるように思います。どのような反応になって行くか、とても楽しみです。
そして、このミールチケットを使っての食事提供についても、会場周辺ビルの飲食店や会場隣の公園で行われる大会関連イベントのキッチンカーなどの協力あればこそ実施が可能となっています。まさしく地元とのパートナーシップを通じて実現することとなった、新たな取り組みだと言うことができるように思います。
②ゴミのリサイクル:ゴミ処理技術のイノベーション
バレーボールの大会では、応援のためスティックバルーンが欠かせません。また、VNL2024福岡大会では、少なくとも毎日8千人の観客来場が見込まれています。当然、プラスチックや紙くずなど廃棄物も多く発生します。これまでであれば、地元自治体のルールに従って、焼却等の処理が行われてきました。今回は、大会で発生したゴミを、廃棄物処理の技術イノベーションの素材とするとともに、コスト縮減のため従来の処理方法とを組み合わせるなどして、その種類によって、メリハリを付けた取り組みを行う計画を立てています。これもまた、今大会で導入される新たな試みと言うことができるでしょう。
特に、廃棄物処理の技術イノベーションについては、持続可能な循環型社会の実現のため、積極的な技術開発・導入に取り組んでいる株式会社輝陽(広島県広島市。工場は広島県山県郡北広島町)をパートナーとして、「環境に優しいゴミ処理」「再資源化」を進めようとしています。具体的には、大会で発生した大量の廃棄物を、遠赤外線と触媒を使って減容化、再資源化する新しい廃棄物処理技術の実用化に向けた素材として活用しようとするものだそうです。今後の廃棄物処理の革新についての成果に注目したいところです。
③次の世代もスポーツを楽しむことができるように:多様な新しい取り組み
このような大規模国際スポーツ大会は、メディアの注目度も高く、TV等への露出も多くなります。これらは、SDGs の意義を広く伝える絶好の機会となり、特に、今回は、SDGs関連の取組みポスターや選手による啓蒙ビデオの放映、SNS発信などが企画されています。これらが実現すれば、VNLでは初めての取組みになるとのことです。また、福岡県が推進するワンヘルス事業など自治体事業と組み合わせて広報などをして行けば、地元のPRにも繋がります。多くの人々の注目を浴び、社会的な影響も大きい大規模国際スポーツ大会の面目躍如といったところです。
また、福岡県では、今回の大会を機に、トップアスリートのプレーを間近で観戦することや、選手との交流により県民のスポーツへの関心を高め、競技力の向上を図るといった施策を進めようとしています。具体的には、県内の25校、約1,500人の小学生が大会観戦に訪れる予定です。また、県内の中学校及び高等学校に、福岡県を本拠地とするバレーボールのプロチームの選手や指導者が、全日本のOB、OGとともに体育の授業や部活動の中で指導教室を実施し始めています。
また、大会のチケット販売に当たっては、高校生までを「子供料金」としています。これは、地元の中高生が世界トップレベルのプレーを目の当たりにできるようにと、大会組織委員会が、価格設定で配慮したとのことです。次世代の子どもたちへの思いが積極的に表れた好事例になるように思います。
これらの事業は、次の世代を含むすべての人々の健康を追求するSDGsの理念に沿った動きであり、大会組織委員会及び地元自治体(福岡県・北九州市)、それぞれができることを工夫したからこそ実現した試みと言うことができるでしょう。次の世代が、継続的にスポーツを楽しめるようにして行くためにも、SDGsのパートナーシップで目標を達成していくことの重要性を改めて思わされます。
このように、VNLというバレーボールの世界大会を機にして、選手を含めた関係者がそれぞれのリソースを持ち寄り、多様な取り組みを進めようとしていることは、今回実現した新たなスタイルということができるでしょう。
(4)ほかのスポーツ大会に影響を与える大会に
FIVBと福岡県/北九州市のパートナーシップ形成は、本大会が国連の掲げている大規模国際スポーツ大会とSDGsの強力な結びつきの必要性を実現する重要な手段となっています。特に、このパートナーシップによって、大会組織委員会と福岡県/北九州市の間で、本大会でのSDGsゴール達成のための種々のアイデアの交換とその実行が可能となっています。
今回の大会で実施するSDGs事業は、バレーボールはじめ他の大きな国際大会のモデルケースとなり、SDGsの実現に向けて、大きな影響を及ぼすものとなることを期待したいと思います。そして、ここで示された、実行委員会と地元自治体によるパートナーシップの有り様は、 他のスポーツ大会における仕組みを変えることに繋がることになるのではと思います。
また、今回の取組みは、SDGsの目標17番「パートナーシップで目標を達成する」という考えに沿って、企業や研究者、市民団体、地域、学校、家庭、そして大会に参加いただく一人ひとりがSDGsの担い手になり、「スポーツ×SDGs」の継続的な理解と意識の向上に繋がるものになるように思います。
改めて、FIVBと県・市がパートナーシップを組んで大会を進めることが、今大会の特筆すべき点であり、これらのコラボレーションを通じて導入される様々な新しい取組みは、SDGs推進に活力を与えるものと考えられます。そして、VNL2024福岡大会に関わるあらゆる人が、SDGsに積極的に関心を持ち、考え、行動していくようになることが、SDGsの実現に向けた新たな取り組みであると言うことができるように思います。
資料提供:VNL2024福岡大会組織委員会(SDGs部門)
文責:喜多茂樹