2025年8月8日(金)、東京都千代田区の「クロスイノベーションセンター」において、一般社団法人水の安全保障戦略機構が主催するシンポジウム「人口減少時代を生きるシンポジウム~新境地へー水循環日本への扉を開く~」が開催されました。
日本が直面する構造的な課題「人口減少」。あらゆる産業と生活の基盤でありながら、その持続可能性が危ぶまれている「水」をどう守り、いかに地域再生の力に変えていくのか。 「No Water, No 地方創生~何をどう変えていくのか~」をテーマに掲げ、国の政策、企業の挑戦、地域の現場という3つの視点から、官民の枠を超えた熱い議論が交わされました。
【話題提供】地方創生2.0:人口減少を前提とした「新結合」の時代へ
益本 宇一郎 氏(内閣官房 新しい地方経済・生活環境創生本部事務局 参事官)
まず登壇したのは、内閣官房で地方創生政策の最前線に立つ益本宇一郎氏です。益本氏は、石破総理(当時)のもとで始動した「地方創生2.0」の骨子を詳説しました。
「地方創生における最大の課題は、依然として続く東京一極集中です」と益本氏は切り出しました。特に深刻なのは、若い女性の地方からの流出です。地元を離れる理由として、教育環境の不足に加え、「自分に合う『ちょうどいい仕事』がない」という切実な声があることを指摘。これに対し、「地方創生2.0基本構想」では、これまでの地方創生10年の成果と反省を踏まえ、人口減少を「食い止める」だけでなく「受け止めた上でどう対応するか」へと認識を転換させると語りました。
益本氏が強調したのは、誰もが生きがいを持てる「強い経済」と「豊かな生活環境」の両立です。その具体策として提示されたのが「新結合」というキーワードでした。 「省庁の縦割りや官民の壁を排し、地域資源、環境、デジタル・新技術、そしてインフラを連携させることで相乗効果を生み、化学反応を起こす。例えば、農業・酪農がさかんな北海道上士幌町では、地産地消の再生可能エネルギー、自動運転バスを組み合わせたサーキュラーエコノミー(循環型経済)を実現しています。」
また、財政支援についても、「新しい地方経済・生活環境創生交付金(第2世代交付金)」を制度改正し、ハード・ソフトを組み合わせた幅広い施策を支援する体制を整えたことに触れ、「地方公共団体の皆様には、ぜひ地域を巻き込みながら取り組んでいただきたい」と締めくくりました。
【パネルディスカッション】水インフラを起点とした新たな地域ソリューション
モデレーター:中村 晋一郎 氏(名古屋大学大学院工学研究科 准教授) 中村氏はディスカッションの冒頭、「なぜ国土や地方を考えるときに水なのか、地方創生において水がどのような役割を果たすのか。その答えを今日探していきたい」と問いを投げかけました。
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水事業を「街づくりのエンジン」に変える構想
西澤 政彦 氏(株式会社NJS 執行役員事業戦略室長)
水の専門企業として長年インフラを支えてきた西澤氏は、ある風景から受けた衝撃を語りました。 「仕事で訪れた自治体の駅前がシャッター街化しているのを目にし、『我々は何のために水をピカピカにしているのだろう。水をどんなにピカピカにしても、地域に人がいなくなれば意味がないのではないか』という意識が芽生えました。そこから、地域ソリューション事業効率的なインフラマネジメントと地域のウェルビーイングを直結させる事業構想が始まりました」
西澤氏が提案するのは、収益性の低い「公益的活動」と、収益性の高い「収益事業」を組み合わせるエリアマネジメントの手法を水事業に適用することです。 「水事業は、人が住んでいる限り必ず一定の収入が見込める極めて安定した事業です。これを核にして、道路管理、社会福祉、交通、教育といった『地域ソリューション』を統合する。例えば、道路の巡回時に下水道のマンホールの点検を同時に行えば効率化が図れます。地域を支える人が水を核として『地域ソリューション』の意識を持ち、地域でこれを実現していくという構想です。営業先では『あなたたち水の会社でしょう?』と驚かれることもありますが、地域に根差した活動こそが、結果として水事業そのものを良くしていくと確信しています」
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課題先進県・秋田での「官民融合」の挑戦
服部 貴彦 氏(株式会社ONE・AQITA 経営戦略室長)
続いて、人口減少が深刻な秋田県から、画期的な組織「ONE・AQITA」の取り組みが紹介されました。 服部氏は、「担い手不足は行政・民間ともに深刻で、老朽化した下水管の一斉更新時期も迫っている。このピンチをチャンスに変えるのが『機能合体』です」と述べました。
ONE・AQITAは、秋田県と県内25市町村、そして民間企業3社が共同出資した株式会社です。 「私たちの役割は、行政と地元の民間企業との『間』を埋めることです。行政からは20代から50代の職員が出向し、民間企業出身者と対等な立場で議論しています。」「人口減少社会では、一人が複数の役割を担う『多能工化』が不可欠であり、水インフラの維持管理を担う人々が地域ソリューションの担い手にもなる。分野の壁を越える『新結合』の鍵は、やはり『人』です。そうした官民融合のモデルを秋田から発信したい」
3.ディスカッション
「共感」と「感謝」が企業価値を創出する後半の議論では、「企業が地方創生に取り組むことの意味」や「地方創生によりどのように企業価値を高められるか」がテーマとなりました。
西澤氏は、「利益だけを追う企業が共感を得られる時代ではない」と指摘。地域や社会から支持されることが、結果として投資家の評価にもつながると述べ、共感が企業価値の基盤になるとの考えを示しました。
服部氏もこれに同調。ONE・AQITAで実現している広域共同化はハード施設にとどまらず、ソフト面でもスケールメリットが生まれ、効果を発揮していると語りました。
青山氏は「感謝」という視点を提示します。地方でスポーツ大会を開催した際、「本当に良いものを持っていけば、人もお金も集まる」と実感したと述べました。東京では数多あるイベントの一つになりがちですが、地方では“一生に一度の体験”となる可能性もあり、そこから新たな夢が生まれるような特別な経験にもなり得る。その結果、「消費の質」が高まり、感謝されることがあると言います。
議論は、「水だからこそ生まれる価値」へと広がりました。
中村氏は、「共感」、「感謝」といったキーワードに触れ、水は生活に直結する存在である一方、その価値が十分に認識されていないのではないかと問題を提起。「今後水を中心とした地方創生の実現や、企業価値を高めるためにやるべきこと」に議論を進めました。
青山氏は「私たちは“私と水の関係”を意識できていない」と述べ、水はあまりにも当たり前で、頭だけで理解するのは難しい存在だと指摘しました。「1日か2日、水へのアクセスを絶たないと実感できないくらい、水の存在は身近で当たり前」と語ります。
服部氏は、水が生活産業の基盤であり、地域の豊かさの源泉であることを、ストーリーとともに発信し続ける重要性を強調。
西澤氏は、災害時に初めて実感される水の価値に触れつつ、「人を通じて水を知る」取り組みの必要性を提起しました。
共感と感謝。数値化しにくいこれらの価値こそが、地域との信頼関係を育み、企業価値として還元されていく――。水を軸にした地方創生の可能性が、あらためて示されました。
結びに代えて:水が繋ぐ、地方の夢と未来
シンポジウムの最後、各登壇者から未来へのメッセージが送られました。
青山氏:「水へのアクセスは都心では以外と限られている。地方の豊かな水環境に夢を持ってしまいます。行きたくなる、素敵な地方。そんな日本を次世代に引き継ぎたい」
服部氏:「何かを変えていくときは、過去を理解し尊重した上での未来へを作っていく、その連続性が重要です。これから地方創生を進めていくためには、子どもたちに語り継ぐ「教育」も重要なキーワードになっていくのではと思っている」
西澤氏:「地域の人々と手を取り合い、水事業を軸に地域に貢献していくことで、夢のある地方を将来へ広げていきたい」
中村氏:「今日ここにいる皆さんは新結合の図の真ん中に『水』が来ると思うでしょう。水の持っている価値・可能性をぜひ広げていただきたい」
まとめ:水インフラから始まる「地方創生の再定義」
本シンポジウムを通じて浮き彫りになったのは、水インフラを単なる「維持すべきコスト」と捉えるのではなく、「地域を再構築するためのエンジン」へと再定義していく重要性です。
これからの地方創生においては、省庁や官民の壁を越えてインフラを多機能化させる「新結合」の視点が欠かせません。デジタル技術の活用だけでなく、対話を通じて「人の温度」を伝える工夫を積み重ねることで、水は地域を守り、人を惹きつける強力な資産へと変わります。
「No Water, No 地方創生」。 水が止まれば生活は止まりますが、水への向き合い方を変えれば、地域は必ず新境地へと動き出します。私たちが享受している豊かな水資源を、新たな発想と連携で次世代へと繋ぎ直す挑戦こそが、日本の未来を切り拓く鍵となるでしょう。
【開催概要】
- 催事名:人口減少時代を生きるシンポジウム ~新境地へー水循環日本への扉を開く~
- 開催テーマ:No Water, No 地方創生 ~何をどう変えていくのか~
- 日時:2025年8月8日(金) 18:00~20:30(開場17:30、配信18:00~19:30)
- 場所:クロスイノベーションセンター(東京都千代田区丸の内2-7-2 JPタワー22F)+ オンライン配信(ZOOMウェビナー)
- 主催:一般社団法人水の安全保障戦略機構
- 特別協賛:管清工業株式会社
- 協賛:株式会社江守情報、共和コンクリート工業株式会社
- 協力:株式会社奥村組、特定非営利活動法人日本水フォーラム
【登壇者】
- 話題提供: 益本 宇一郎 氏(内閣官房 新しい地方経済・生活環境創生本部事務局 参事官)
- モデレーター: 中村 晋一郎 氏(名古屋大学大学院工学研究科 准教授)
- スピーカー: 西澤 政彦 氏(株式会社NJS 執行役員事業戦略室長)
- スピーカー: 服部 貴彦 氏(株式会社ONE・AQITA 経営戦略室長)
- コメンテーター: 青山 アリア 氏(株式会社CB 最高執行責任者)
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シンポジウムの開催概要:https://www.waterforum.jp/news/23514/
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