田端浩観光庁長官インタビュー
観光事業は、「成長戦略の柱」「地方創生の切り札」と位置づけられ、国家的戦略としても「観光立国推進」が大きく掲げられています。
その成果として、2018年度の訪日外国人旅行者数は3,119万人(日本政府観光局JNTO)に達し、訪日外国人旅行消費額の総額は4兆5,189億円に上りました。そして、2019年度も順調に数値を伸ばし、2020年の4,000万人、2030年の6,000万人という目標に向けて、確実に「観光立国」が推進されています。
そのような状況の中、「持続可能な観光先進国」を掲げ、“住んでよし、訪れてよし”のスローガンの下、観光政策を導いているのが「観光庁」です。
『SDGs Japan Portal』のインタビュー第二弾は、田端浩観光庁長官に、SDGs的視点から日本の観光戦略について伺いました。
SDGsへの貢献度が高い「観光」。
さまざまなゴールへの期待が膨らんでいます。
観光庁のサイトや実際の取組みを拝見していると、
特にSDGsと謳っていらっしゃるわけではないけれど、
まさにSDGsそのものを体現した活動だと感じられます。
観光といえば、想定されるゴールは、8:働きがいも経済成長も、
12:つくる責任使う責任、14:海のすこやかさを守る、
17:パートナーシップで目標を達成しよう、といったところが、
まずは浮かんでくるところなのですが、
やはり、観光というと総合的なポジションにあるので
これら3つのゴール以外にもさまざまなものが実現できそうですね。
また、観光といえば、日本のGDPに占める割合が5%、
世界に目を向ければ10%(WTTC世界旅行ツーリズム協会・2019)に
迫っているような状況ですし、訪日外国人消費を輸出と捉えるなら
その輸出額は第3位に位置するといわれています。
このように、SDGsはもちろん、多方面から注目されている観光ですが
観光庁としては、どういったスタンスで活動されているのでしょうか?
―ご指摘のように、我々は特にSDGsは謳っていませんが、
「持続可能な観光先進国」をめざして活動を進めているので、
“持続可能な”という意味では、SDGs的といえるかもしれませんね。
そして、これらの活動の基本にあるのが
“住んでよし、訪れてよしの国づくり”という観光庁のスローガンです。
政府の方針にもあるように、わが国は「観光立国」を柱のひとつにしています。
観光は、日本の力強い経済を取り戻すための重要な成長分野です。
急速に成長するアジアをはじめ、世界の観光需要を取り込むことで
地域の活性化や雇用機会の増大などが期待できますし、
日本の魅力を全世界に発信し体験していただくことにより
グローバル社会にふさわしい諸外国との相互理解も深めることができるでしょう。
そして、これらの活動は決して一過性のもので終わらせるのではなく、
脈々と流れていく持続性が求められていると考えています。
そういった意味で捉えるならば、我々が行っている諸活動は、
潜在的にも顕在的にもSDGsの理念を持っていると思います。
2019年6月に発表された「拡大版SDGsアクションプラン2019」でも
“SDGsの担い手として次世代・女性のエンパワーメント” が
柱のひとつとして謳われています。
観光という産業は、女性が活躍できる場として
注目されていると思うのですが、
女性がこの産業において、より活躍できるような
具体的な取り組みはありますか?
―女性が観光業で活躍できる場づくりについては、積極展開していきます。
この夏から、「観光分野における女性活躍推進に向けた検討会」を立ち上げました。
これは、観光分野で着実に増加している女性活躍の機会に関して
さらに働きやすい環境づくりや管理職への登用も含めた人材育成に取り組むことで
組織全体のダイバーシティ向上と多様化する観光客のニーズに対応した
より質の高いサービスの開発などを実現するためのものです。
そして、就業マッチング活動などを通じて、
さらに機会増加を図っていく計画です。
また、2019年10月に日本政府の主催で開催された
G20北海道倶知安観光大臣会合においても
“観光は、女性、若者、障害者、移民、先住民の人々や部族の人々、
地方の人々など、そしてそれらにかぎらず社会的、経済的リスクに対して
より弱い立場にある人々を、経済的に力づけ、
雇用創出を促進する潜在性を持ち、社会的包摂をけん引する力となる”
“イノベーションを促進し、持続可能な企業を創出し、
とりわけ女性や若者に対する質の高い雇用の創出を促進するような
人的資本の発展と包括的な労働市場を促進する施策を奨励することと、
観光分野の職業訓練に関する協力や仕事の将来に関する
人間中心手法をすすめること”
といった女性に関わる宣言が採択され、
女性活躍の場としての観光業の位置づけが
世界レベルで明文化されました。
このように、ますます観光領域での女性活躍への期待が高まる中、
活躍の場を増やすような努力を続けていきたいと考えています。