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田端浩観光庁長官「持続可能な観光先進国」をめざして”住んでよし、訪れてよしの国づくり”に取り組むSDGs的な組織「観光庁」。その2

 

田端浩観光庁長官インタビュー

観光事業は、「成長戦略の柱」「地方創生の切り札」と位置づけられ、国家的戦略としても「観光立国推進」が大きく掲げられています。
その成果として、2018年度の訪日外国人旅行者数は3,119万人(日本政府観光局JNTO)に達し、訪日外国人旅行消費額の総額は4兆5,189億円に上りました。そして、2019年度も順調に数値を伸ばし、2020年の4,000万人、2030年の6,000万人という目標に向けて、確実に「観光立国」が推進されています。
そのような状況の中、「持続可能な観光先進国」を掲げ、“住んでよし、訪れてよし”のスローガンの下、観光政策を導いているのが「観光庁」です。
『SDGs Japan Portal』のインタビュー第二弾は、田端浩観光庁長官に、SDGs的視点から日本の観光戦略について伺いました。

年齢・性別・障害の有無・国籍を超えて
すべての人が旅行を楽しめる「ユニバーサルツーリズム」

最近よく「ユニバーサルツーリズム」という言葉を耳にします。
障がいのある方やご高齢の方の旅行についてのキーワードのようで
バリアフリーのインフラ整備などが含まれていると思います。
近頃は、地方都市に行っても、駅や公共施設などの
エレベーターあるいはスロープの設置などのバリアフリー化が
浸透してきているのに目を見張ることがあります。
また、駅での福祉トイレやエレベーターの案内の充実…
これらも「ユニバーサルツーリズム」の普及だな、と感じています。
そのような中、観光庁でも積極的に取り組まれていると思うのですが
このキーワードの概念や具体的展開などについてお伺いしたいと思います。

―観光庁の「ユニバーサルツーリズム」の捉え方としましては
“すべての人が楽しめるよう創られた旅行であり、
高齢や障がい等の有無にかかわらず、誰もが気兼ねなく参加できる旅行”
ということで捉えています。
この考えを基にして誰もが安心して旅行を楽しめる環境を整備するべく
地方自治体やNPOなど、幅広い関係者の協力を得て、
地域の受入態勢強化を進めるほか、旅行商品の造成・普及のための
取り組みを実施して、「ユニバーサルツーリズム」の普及・促進を図っています。
かつては、「バリアフリー旅行」という言い方をしていたくらいで、
主な取り組みは、バリアフリーの充実になるのですが、
バリアフリーのバリアといえば、段差など物理的なものを想定しがちです。
しかし、本当はジェネレーションやジェンダー、障がいの有無、
あるいは国籍…それは化的風習だとか宗教というのも関わってくる…
そういうソフト的なバリアがあると考えています。
それらのバリアを取り除いて、どんな方にも旅行を楽しんでもらう。
それが「ユニバーサルツーリズム」の実現につながると考えています。
日本はご存じのように世界にも稀な高齢化先進国です。
そのような環境の下、高齢者を対象に
「ユニバーサルツーリズム」の浸透が考えられています。
例えば、九州・佐賀県の嬉野温泉では、積極的に車いすのお客様の受け入れを
実施していて、毎年、大阪のインテックス大阪で開催されている
「ツーリズムエキスポ」で、「ツーリズムアワード」を受賞するなど
実績を重ねてきています。
このような活動とともに大切なのが情報発信だと考えています。
どこにどのようなバリアフリーが施されているか。
そのような情報を必要な人に確実に伝える。
そういった活動も「ユニバーサルツーリズム」実現には重要です。

先日、世界から170万人を超える観客動員を達成して
大成功のうちに閉幕したラグビーワールドカップでも感じたのですが
「ユニバーサルツーリズム」に基づいた
バリアフリーのインフラ整備が実に充実しているな、と。
設備対応はもちろん、Wi-Fiだったり多言語対応ということがあるのですが、
これには、観光庁の取り組みが大きく影響しているんだろうな、と思っています。
そして、来年2020年には東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。
世界中から、さまざまな文化を持った観客がくる中で、
「ユニバーサルツーリズム」は具体的にどう展開されるのでしょうか。

―2020東京オリパラに関してですが、
特にパラリンピックの際には、障がいをお持ちの選手がたくさん来られて、
街中で宿泊されたり、食事をされたりする中で、
「ユニバーサルツーリズム」の充実を進めているところです。
例えば、「宿泊施設におけるバリアフリー情報発信のためのマニュアル」など、
情報発信についての指針づくりを通して啓蒙・普及を図っています
また、競技場へのアクセスに関しては
アクセシブルルートという指定ルートの開発を行っています。
試合会場をどうつなぐかという基本枠づくりについて
組織委員会といっしょに取り組んでいるところです。
ラグビーワールドカップの会場となった「味スタ」も
当然使うことになるので、ワールドカップを参考にして
指定ルートをつくっています。そして、この指定ルートを多言語化して、
ネットなどで公開していく予定です。
また、ホテルやレストランなどのバリアフリー対応状態などは
もちろん店頭でシールによる掲示をするとともにネットで配信する予定です。
そして、ホテルなどの宿泊施設などについては、観光産業課で予算を組んで、
バリアフリーの支援措置として補助金制度を設けています。
応募される方が多くて倍率が高くなっている様子を見ていると
バリアフリー化が盛り上がっていると実感しています。
さらに、バリアの要素としては、食の課題にも注目しています。
いわゆるハラルやベジタリアンについてですね。
これらの対応情報もしっかり配信に盛り込んでいこうと考えています。
このように指定ルートの発信に関しては、
試合会場と交通機関のアクセスだけではなく、
ホテルやレストランなどの情報を交えた
「ユニバーサルツーリズム」実現にふさわしい
情報発信システムに仕上げていきたいと考えています。
こういったシステムの開発などの取り組みに関しては、
今回の東京オリパラがよいきっかけになると思います。
そして、このモデルが2025年の大阪・関西での万博などに
つなげていきたい、持続させていきたいと考えています。

 

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