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スポーツと動物、地球がつながる——「ワンヘルス」の視点でスポーツの未来を語る 世界獣医師会大会 スポーツ分科会トークセッション 第3部 レポート

2026年4月21日(火)・東京国際フォーラムで開催された世界獣医師会大会。
世界中から獣医師が東京に集結するこの国際的なイベントのスポーツ分科会第3部では、人間・動物・環境の健康を一体として捉える「ワンヘルス」の理念のもとに、国際体操連盟会長でIOC委員の渡辺守成氏、冬季五輪金メダリストの髙木菜那氏、ブレイキンアスリートのShigekix氏、そして赤坂動物病院院長の柴内晶子氏が一堂に会し、スポーツと動物、健康と環境の関係について語り合いました。モデレーターは法政大学名誉教授の山本浩氏が務めました。

 

 

 

体操は「人生の基本」——生まれてから老いるまで

渡辺氏は、体操がすべてのスポーツの基盤であるという持論を語りました。
「私、世界170カ国以上回ってますけど、特にアフリカなんか行きますとね、やっぱ体操やってないんですよ。金、お金になるサッカーばかりしてるわけですよね、小さいうちから。そうすると下半身だけは強くなりますけど、バランス力もないし、柔軟性もない」
一方でオリンピック上位国については、「アメリカ、日本、中国、ロシアなんですね。この国っていうのはみんな小さいうちに体操全部やるんです」と指摘。さらに「生まれて、おぎゃーっと生まれてでんぐり返しをし始めて、で、最終的には70を過ぎたらみんな体操に戻ってきて、健康寿命でピンピンコロリをしましょうというのが、私のコンセプトです」と語りました。

かつてトランポリンをしていたことがあるというShigekix氏も、そこでで培った空中感覚がブレイキンに活きていると話します。「マット運動的な要素はかなり自分の体でいうと、重要な、自分のスタイルにとって重要な部分になってますし、自分がトランポリンやってたときもマット運動もやってたんで、そういうとこがつながってきてる部分はあるのかなと感じてますね」

 

セラピードッグ——動物が選手の心を救う

競技の現場で注目されているのが、セラピードッグの存在です。髙木氏は、アメリカのワールドカップ取材で初めてその光景に触れたといいます。
「特に1本集中型で、緊張しているときもそうだと思うんですけど、特にオリンピックとかは2分で終わってしまったりとか、4年間のことがその1本で終わってしまって結果が出なかったときとかって、ほんとに心のやりようがなかったりすることが多いんですよね。どこに向いたらいいのか分からないですし、どういうメンタリティーでいればいいのか分からないっていうときに、ワンちゃんとか動物だからこそ救える心っていうのはあるんじゃないのかなっていうのはすごく思います」

渡辺氏によれば、国際体操連盟ではセラピールームを設けて選手が利用できる体制を整えているといいます。また「うちの新体操の分野ではウクライナがやっぱりドッグを連れてきてますね」と、チーム専属のセラピードッグという流れが生まれつつあることも紹介しました。
動物の側への配慮も欠かせません。柴内氏は「あまりたくさんの方たちと一度にということではなくて、大体の人数に対して、数人に1頭とか、そういう形で行なうことが多いです。あまりにもたくさん殺到してくたびれてしまうっていうことはやはり避けるようにはしている状況があります」と、動物福祉の観点からも慎重な運用が必要だと強調しました。

 

AMR・新型コロナ——スポーツ界を揺るがした感染症

薬が効かない細菌・ウイルスが増える「AMR(薬剤耐性)」も重要なテーマです。柴内氏は「2050年頃には、このままの状態で耐性菌が増えていくと、耐性菌によって亡くなってしまう方の数が大きくなっていくということも言われているんですね」と警鐘を鳴らし、「コロナ禍の中で皆さんが身につけていただいたきちんとした手洗いっていうことをこれからも継続していくことは大切かと思います」と呼びかけました。

新型コロナウイルスはスポーツ界にも深刻な影響を与えました。渡辺氏は東京オリンピック開催に向けた苦闘を振り返ります。「コロナの収束が見えず、最終的にキャンセルかなっていうふうにトーマス・バッハ会長から言われて。一度だけチャンスくださいと」——当時、アメリカから日本への旅客便がなかったので、JALの貨物機に選手を乗せたり、渡辺氏自身がモスクワに直接飛んで交渉するという前代未聞の調整を経て、体操の国際大会を成功に導き、東京オリンピック開催の足がかりを作りました。「選手一人一人確認したんですよ。どうする、感染したらそのあとの生活がなくなるかもしれないし、俺は無理強いはできないって言ったらみんながやりますって言って、みんな一人ひとりが参加して、自分の意思で参加してきて」

Shigekix氏も、コロナ禍で感じたことを率直に語りました。「そういったものがなくなることによって、メンタル、体を動かす健康だけじゃなくて心の健康っていったところも含めてやっぱり楽しみがなくなっちゃうなっていうふうにすごく感じましたね。ただ呼吸ができて、ただ健康な体であればそれはほんとに健康なのかって言われると、ほんとにそういったメンタル的な、メンタルヘルスの部分も含めてやっぱ健康なんだなっていうのは再確認するタイミングだったなあと思いますね」

 

エコと地球環境——スポーツが果たすべき役割

「エコな生活態度」について問われた髙木氏は、大量の電気を使ってリンクに氷を張るなど、冬季スポーツが抱える地球温暖化に対するジレンマに触れつつも、こう語りました。「スポーツがなくならないためにも、なくならせないためにも、私たちがエコとしてできることっていうのは微力ながらに積み重ねていくことが大事なのかなとは思っています」

Shigekix氏は、ブレイキンというカルチャーの力を活かした発信を続けています。「すでに福岡で開催された大会の中では、ワンヘルスっていう言葉も掲げさせていただいて、一人でも多くの、これまで知らなかった方にも耳に入れていただいて、そこから認知を広げていくっていう活動も、微力ながら我々なりにはさせていただいているので」と語り、若い世代へのメガホン的な役割を担いたいと意欲を示しました。

渡辺氏はグローバルな視点でこう展望を示しました。「世界の人口の半分が70歳以上になる。人口の半分は何がほしいかって、やはり健康なんですよ。健康のためにはスポーツとヘルスケア、これが社会の中心になってくる」

 

ワンヘルスが示す「つながり」の力

最後に柴内氏は、この日の議論を象徴する言葉で締めくくりました。
「ワンヘルスは、あらゆるこの地球という、私たちが住んでいる世界すべてのバランスを取って、それぞれがみんな幸せだったりとか良い形になっていくっていうことを示している、すごくすてきな言葉だと思うんですね」
山本氏も「つながっていける——これがおそらくこのワンヘルスの基本的な部分を貫き通すタームではないかと思います」と応じました。
人間・動物・環境が互いに影響し合うこの時代に、スポーツという営みが「ワンヘルス」の理念とどう向き合うか。4人の語りは、その問いへの豊かなヒントを私たちに残してくれました。

大会の詳しい内容はこちらをご覧ください。
▶第41回世界獣医師会大会2026 公式サイト

https://wvac2026-tokyo.com/

 

 

 

本記事はSDGs JAPANポータルサイト編集部が取材・構成しました。

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